異世界トリップしたら女神(見習い)でしたが一般人として自由に生きていこうと思います

瑞多美音

文字の大きさ
上 下
106 / 120
第8章

106.あの恩人の正体? 〜side ユーゴ〜

しおりを挟む

 とある城の一室にて……

 コンコン……

 「入れ」
 「はっ、隊長っ!ランヴィ支部からの出品に宝珠の花を使ったポーションがっ!」
 「なんだとっ!」

 立ち上がった拍子に書きかけの書類が散らばったがそれどころではない。

 「出品者は?」
 「はい!どうやら公認ポーション職人のようです」

 公認のポーション職人か……

 「あそこは老師だったか?母上のポーションを頼んだよな」
 「いえ、前任の公認職人は王妃様のポーションを最後に引退したとのことで現在は若い女性が公認職人になっているそうです」
 「そうか」

 もしかして……あの時の恩人か?いや、まさかな……

 知らせにきた部下もあの時助けられた1人だ。助けられた時の記憶はほとんどないらしいが、俺が探していることを知っているからこうして報告にきたのだろう。半分は女神様が助けてくれたと思っているが……もしかしてという気持ちも捨てきれない。そのためランヴィの街の情報はあの時以降集め続けている。
 それに、もし別人でも公認ポーション職人ならば宝珠の花を咲いている場所を知っている可能性も捨てきれない。縁を繋いでおいて損はないはずだ。

 「必ずそのポーション競り落としてくれ。費用は俺が持つ」
 「はっ」

 母上が元気になったとはいえ念のため持っておきたい。今では入る隙もないほど両親の仲がよくて参ってるが……あって困ることはない。やはり、母上の魔力量は回復することはなく1度減ってしまったそのままだ。2度と魔力欠乏症にかかることはないらしいとはいえ、念には念を入れておくにこしたことはない。

 数日後には無事に競り落としたと報告を受け、金額に驚いたりもしたがひとまずホッとした。
 競り落としたポーションは時間経過しない宝物庫に保管されることになるだろう。そうすれば劣化しないため安心だ。

 「休暇を取ってランヴィへ行ってみるか……」

 というのもつい最近俺が休まないと部下が休めないと進言されたばかりなのだ。
 そう言われれば、母上のポーションのために森へ行った後、数日程度休んだくらいしか記憶にない……もちろん部下はローテーションを組んで休ませてはいるが、少々放っておきすぎたようでローテーションがめちゃくちゃになっている。
 部下の独身率が高いのも俺のせいかもしれないな……いや、あいつらがガサツなだけだな。きっとそうに違いない。
 叔父上のところに行くといえば両親も問題ないだろう。 
 急いで残りの仕事をこなし、他の隊へ仕事を振り分ける。いつもは向こうに押し付けられているのでなんら問題はない。
 休暇の申請をするとすぐに受け入れられた。よっぽど休ませたいらしい。思ったより長期休暇になってしまった。部下たちもこれでゆっくり休めるだろう……
 母上からお土産期待してると言われてしまったので道中どこかで探さなければ……

 準備を済ませ朝方ひっそりと出発……じゃなければ部下が付いてくるんだよな。門を出ると……

 「あ……」
 「やっぱりひとりで行くつもりだったな?」

 部下で幼い頃からの友人のマーカスが待っていた。

 「お前」
 「ま、お目付役ってとこですよ隊長。それに俺が嘘の情報を流したおかげでひっそりと出発できるんですからね」
 「そうか……」

 きっと帰ってきたら、マーカスには嘘を知った他の隊員たちからの何かしらの報復が待ち受けているんだろうな……女性の紹介×10とか。マーカスならなんとかなるだろうから俺は関与しない。

 「で、ランヴィに行くんだよな?」
 「ああ……」 
 「早く出発しよう。誰か来るかもしれないし」
 「そうだな」

 たとえその公認職人があの恩人でなかったとしても、少しでも情報を集められればいいな。それに、その公認職人に接触できればなおいいが……ギルドに相談してみるか。あそこのサブマス厄介なんだけどな……

 数日かけ移動しつつ、出くわした魔物を討伐したり、ダンジョンでお土産を調達しながら進みランヴィの街へ到着した。ちょっとした小旅行なのは否めないが、相手がマーカスじゃな……

 「まずは冒険者ギルドへ行ってみるか……」
 「そのあとはおいしい食事にしましょうね……いくつか候補があるんだ」
 「ああ……マーカスに任せる」
 「よっしゃ。じゃあ全部まわりましょうね?」
 「時間があればな」
 
 案の定、ギルドの厄介なサブマスにのらりくらりとかわされてしまったが冒険者たちによると、公認さんと呼ばれる彼女は現在、カニをゲットしに行ったとのこと……はぁ、そのダンジョン行ってきたばかりなんだが……すれ違いか……そういえばパーティとすれ違ったような……あの中にいたのか。
 公認さんの家は呪われた家らしいということも分かったが、聞き込みをしている間に叔父上からの迎えが来た。
 多分、サブマスの仕業だろう……念のため言付けを頼んだが、果たして彼女に伝わるのだろうか。はぁ……声さえ聞ければよかったのに……そうすれば恩人かどうかはっきりしたはず。あの声だけは忘れられない。

 「マーカス、これからも新たな情報があったらすぐに教えてくれ。それと美味い食事はたらふく食えそうだぞ……叔父上が満足した後にな」
 「はいはい……あー、アルフォンス様、奥様と一緒に過ごしたいからってさっさと現役を退いてから暇してるって聞くからなぁ……食事は遠そうだな……そういや、領地経営は息子に任せっきりなんだろ?」
 「ああ、将軍といっても現在は名誉職だし、新兵を鍛えて遊ぶか色々な街をぶらぶらしているらしい……安心しろ、領地経営は叔父上が現役の時からほとんど代理で頑張っていたそうだから」
 「あ、そう……」

 叔父上の屋敷へ行くとすでにやる気満々の様子で待ち構えていた。知らせを受け、我々を迎えにやってすぐウォーミングアップをはじめたんだろう。

 「あー……これはかなりヤバそうだな」
 「しっかり気合い入れないと大怪我しそうだ」
 「準備はいいかな?まずは挨拶がわりに打ち合い10本な!お前ら2人でかかってきていいぞ!」
 「「はい」」

 休暇を取ったはずなのにいつも以上に訓練し、マーカス共々ボロボロに……叔父上、現役のときよりも強くなっている気がするのだが?
 母上への土産の予定だったカニの身も半分以上が叔父上の腹の中におさまった。
 両親へ渡すと俺の分がなくなってしまう……はぁ、仕方ないか。母上に何も渡さないという選択肢はないのだ……後に響く。特に最近では俺に縁談をという声もあるのだから……相手くらい自分で選びたいし、母上を味方につけておかねばならないのだ。

 散々、叔父上と訓練し泥だらけになり食事と酒をご馳走になる日々を過ごした。倒れるように眠りについたのも久しぶりだった。

 帰り際、叔母上が叔父上コレクションの酒を数本土産にくれたので道中にマーカスとすべて飲み干すことにした。
 母上は回復してからお酒は控えているし、父上も目の前にあったら飲んでしまうからな。そんな揉め事の原因は息子である俺が事前に解決したというわけだ。

 「食事は美味かったけど、あの訓練はなんなんだよ……」
 「叔父上、嬉々としてたよな……きっと新兵じゃ物足りなかったんだろうな」
 「なんかあの勢いのまま、王都観光とか言って訓練所に直行しそうだよなー」
 「マーカス、お前怖いこと言うなよ……」

 数日後、王都に到着した俺とマーカスを待ち受けていたのは訓練所で死屍累々となった部下やほかの隊の隊員たち……とその中央で楽しそうにしている叔父上だった……かろうじて立っているのは隊長、副長クラスだろうな。
 ちなみに叔父上は馬を飛ばし俺たちを追い抜いたそうだ。もう少しゆっくりすればよかったと後悔したがもう遅い……叔父上は嬉しそうにこちらへやってきている。また、地獄の訓練が始まるようだ……
   
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

処理中です...