72 / 120
第6章
72.呪われた少女と美味しい魔物(3)
しおりを挟む「こんにちはー」
「あっ、エナお姉ちゃん、リディちゃんっ! いらっしゃい!」
「……ん、ミーナちゃん、こんにちは」
「えっと、親父さんに用事なんだけど大丈夫かな?」
「あのね……今、お父さんちょっと忙しいみたい」
「そっか……例のお肉持ってきたんだけど、どうしようかなぁ」
「なんだとっ」
親父さんが厨房から飛び出してきた……
「こんにちは、お忙しいなら出直しますけど」
「いや……平気だ」
おおー、親父がこんなに話すなんてっと周囲もヒソヒソ言ってる……うん、わたしもびっくり。ほとんど話してるの聞いたことないからなぁ。
「まあまあ……エナちゃん悪いけど奥に来てくれるかしら」
「はい」
おかみさんに促されるまま厨房にお邪魔した……ブランは一応厨房の入り口で待機中。
早速、ブラッドベアのお肉を取り出すと……親父さんの目がカッと見開き
「これは……」
「この前みたいな美味しい料理期待してます!お肉は沢山あるのでまた、みんなで食べましょうね……それと私たちのお持ち帰りもお願いします」
「え、また美味しいお肉食べられるの?やったー」
ギルドで時間がかかったから、もう少しするとお昼の時間だ。
仕込みで忙しいはずなのに簡単にできるものを作ってくれるらしい。わーい、わーい……じゅるり。
「任せておけ」
「お願いします」
「……お願い」
お昼はブラッドベアのステーキとサラダ、パンだった。
ブラッドベアの料理はやはり美味しかった。親父さんに頼んで正解だったね。
「んっ、美味しい」
「だよね。リディとブランが倒してくれたおかげだよ」
「ん」
「でも、ブラッドベアは本当に危ない魔物だから今度からは十分に気をつけて、危ないと思ったらブランを囮にして逃げるんだよ」
ブランはその言葉に若干引っかかっていたようだけど、本当にそうなった時は身を呈してリディを守ると思う……だってブランだもん。
「ん、ブランと一緒に逃げる」
それを聞いたブランの喜びようはすごかった。相変わらず私の顔にはブラン羽がバサバサ当たってるけどね……
「それでもいいけど……安全第一だからね」
「ん、わかった」
周囲の羨ましそうな視線を浴びつつ完食。あ、もちろん今のは周囲に聞こえないよう小声で行なっております。だから、突然ブランがバザバサしてびっくりしてる人もいるよね……うん、なんかすいません。
お持ち帰りはまた後で取りに来ることにしてキュリエルのお願いを聞いてやるか……
[防具や革製品、日用使いから一張羅までなんでも承ります! 従魔の装身具などもお気軽にどうぞ! ドーラの防具屋]
店先に貼ってある紙が綺麗になり、文言が変わってる……これって明らかにブランのことですね。
「いらっしゃいませー」
「こんにちは」
「あっ、エナさんっリディちゃん、それに従魔さんまでっ……どうしたんすか」
相変わらず埃っぽい店内に新たなコーナーが誕生していた……それは従魔の装身具コーナー。うん、この街じゃなかなか厳しいんじゃないかな?ブラン以外に従魔見たことないし……
「あの、ちょっと変わった子の装身具を作って欲しいんだけど……今から一緒に来てもらうことは可能ですか?」
「なんすかっ!? 面白そうなら行くっす」
なんか瞳がキラキラしてる……
「うん、事情があってここに来れないんだけど、ブランのリュックみたいなのが欲しいらしくて……」
「そうっすか……暇なんで行くっす!」
ブランは装身具コーナーの飾りを熱心に見て、リディと何か話してる……おねだりかな?
「ちょっと用意して来るんで待っててくださいっ」
ドーラさんは表の看板を『close』にして、慌ててリュックに道具を詰め込んでいる。
「準備できたっす」
「うん、じゃあ行こっか……なんだったら荷車に乗せてく?」
「おおー、ありがたいっす……自分が引くので案内お願いします」
「うん。リディたちもいい?」
「ん、今日のところは」
ブランの飾りは相談して自分だけのものを作ることにしたのかも。ブラン落ち込んでないし……断られたわけじゃないはず。
ドーラさんが引いてくれたおかげで楽できてしまった。べ、べつにこれを狙ってたわけじゃないんだからね!
でもね、ずっと荷車引いてたら本当に疲れた。
ポーション納品して1度荷車を家まで持って帰らなければならないのも意外とめんどくさい。
そのあともう1度市場へ出向いて買い物ってのもねぇ……やっぱストレージが便利だな。
なんだかこのまま、荷車はしまい込まれそうな予感……ははっ……はぁ。
街の家に着くと……
「ここって色々と噂のあるお屋敷じゃないっすか!?……ま、まさかお相手はっ」
「うん、そうだよ……精霊」
「ままま、まじっすか」
あれ、ドーラさん震えてない?
「嫌ならやめる?」
「い、いやだなんてとんでもないっすっ!これは武者震いってやつっす!」
「そう……とりあえず、入ろうか」
「ん」
門を通り玄関を開けると
「エナー!誰か知らない人連れてきたでしょ」
「あ、キュリエル……知らない人ってキュリエルがリュック欲しいって言うからわざわざ来てもらったんだけど」
「あー、そっか……ならどーぞ」
ドーラさんはますます興奮して瞳がキラキラ……大丈夫かな。興奮して倒れたりしないよね?
とりあえずリビングへ案内して
「じゃ、お願いします」
「おおっ、精霊さま初めて見たっす」
「うん、よろしくー。僕もアレみたいなの欲しいから」
「うぉおおお!まさかこんな日が来るなんてっ。では早速……精霊さまこの羽は使ってますか?」
「うーん、どっちでもいいかな」
「そうっすか。使うかどうかでデザインが変わるんですよ」
「ふーん」
時間がかかりそうなので今できる修繕しちゃおうかな……
「デザインの希望はあるっすか?」
「シンプルなほうがいいや」
「了解っす」
「あ、ドーラさんできれば価格は抑えめでお願いしますね」
「うわー、従魔さんに続いて精霊さまの物を作れるなんて。すっごく滾るっす……そりゃあもちろん格安でさせてもらいます。こんな機会滅多にありませんからー」
「そう、ありがとう」
あ、リディも手伝ってくれるの?ありがとう……
「とりあえず、サイズ計らせてほしいっす」
「いいよー。ただし、僕が気にいるの作ってよね」
「はいっす。全力で頑張りますっ」
「……ドーラさん、キュリエルのデザインは本人が気に入らないとダメだと思うから」
暗に個性的なものは作るなと釘を刺す。
「わ、わかったすっ。今回はちゃんと試作品を作るっす」
「そう……」
ドーラさんがキュリエルのサイズを測り、デザインを見せている間にあらかた修繕も終わった。多少不恰好だけど壊れないだけいい、よね?
「ねぇ、リディ……このお風呂変えたいよね」
「ん、家のお風呂みたいにしたい」
「あれってどうやって交換するんだろうね……あ、トイレは簡易のやつがあるから言ってね?」
「ん、今はへいき」
白熱していてまだまだ終わりそうにないのでポーションを作って待っていると
「ふぅ……これでデザインは決定っす」
「終わった?」
「はいっ!丹精込めて作るっす!楽しみにしてくださいっ」
「よろしくー」
「ん、よろしく」
私がポーション作りに集中している間にリディもブランの飾りを注文していたらしい。それもあって時間がかかったんだね。
注文書を受け取り、手付け金を支払う。
リュックと交換に残りを支払うことになってるけど、ブランがおねだりしてたあの飾りとかあの飾りとか足したら結構高くなりそう……よし、何もつけずシンプルなままにしよう。
そんな決意……出来上がりを見てあっという間に意味のないものになるとは知らずに。
放っておかずに、ちゃんとデザインに口出せばよかった……ぐすん。
「じゃあ、またね」
「ん、また」
ドーラさんは大荷物を抱えて帰っていった。
いつのまにか夕方になっていたので急いで黄金の羊亭へ行きブラッドベアの料理を受け取る。
ブラッドベアのミートパイ、ブラッドベアのシチュー、ブラッドベアのステーキ、ブラッドベアの煮込み、ブラッドベアの……いやー、親父さん張り切ってたくさん作ってくれたから持ち帰りもたくさんあるし……何から食べようか迷っちゃうなぁ。
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜
朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。
(この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??)
これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。
所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。
暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。
※休載中
(4月5日前後から投稿再開予定です)

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる