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第6章
75.女神見習い、ドワーフを拾う 〜 拾われたドワーフの事情 side ユリス〜(1)
しおりを挟む「えっ、消えたっ!?」
「あー、エナはいつもこうだから気にするだけ無駄だよー」
精霊さまは慣れた様子で驚きもしない。
「そ、そうなんですね」
「そうだ、家のなか案内してあげる!」
「精霊さま、ありがとうございます」
「うん、その精霊さまってのやめてよー。キュリエルさんでいいよ」
「わ、わかりました。キュリエルさん」
さっそくキュリエルさんに家の中を案内してもらう。
玄関ホールから奥まで続く廊下。その途中に2階へと続く階段。
1階は右手の部屋に行く扉を開けるとリビングやキッチン、左手の部屋には物置と客間、廊下の突き当りには水場。物置と客間はエナさんが使用してるとのことで不要な立ち入りは厳禁だそうです。
2階は個室のみで左右対称の作りの部屋が2つずつと廊下の奥に大きめの寝室が1つ。
かつての記憶にあるままだ……水場も集落と比べれば十分使いやすそうだ。よかった。
「出来れば1番奥はやめてほしいな……マリーとフィンの部屋だったから」
「わかりました」
どの部屋でも雨風がしのげて安全だというだけてありがたかったので、階段に1番近い部屋を選び荷物の整理をする。少ないがどれも大事な荷物ばかりだ。仕事道具を丁寧に取り出しチェック……よかった、どれもすぐに使えそうだ。
思えばここに来るまで色々あったーー
「大丈夫よ! ユリス、大人になったら私が結婚してあげる」
「ありがとう……リーナ」
ドワーフの母から確かに生まれたはずなのに、背も大きく人間のような見た目。
ドワーフの中で力は弱くトレードマークである髭も生えない。
生まれた当初は他の子供となんら変わりなかったが、10歳を過ぎたあたりから急に周りとの違いが鮮明になった。
止まるはずの身長はゆうに超えてしまい、ひとつ下の弟にヒゲが生え揃っても自分にはいまだ産毛すらあるかないかわからないほどだ。
同じだけ……いや、それ以上に鍛錬してもついた筋肉はわずか。それでも諦めずに鍛錬し、金属を打つための体を作り上げた。
幸い鍛治職人としての力量はあった。ただし、それらはすべて努力の上に成り立っている。それでも肉体は皆に及ばず……父親や弟のように軽々と打ち続けることは出来なかった。
考え方を変え、同じ方法で競うのではなく力技ではどうにもできない繊細さを売りにすることに決めた。繊細さの中にも力強さがある。そう信じて……
酒はかなり強い。かといって酒がなければ無いで問題ない。これもまたドワーフからすると受け入れがたい理由の1つで……というのも酒があると無いではモチベーションが全く違うのがドワーフだからだ。酒も飲まず、ひたすら鍛錬を重ねる自分はさぞ奇妙に映ったことだろう。
数十年に1度ぐらいの頻度で自分のような容姿の子供が生まれるらしい。
かといって、集落に良くないことが起きるとかそういう実害を被ったことはないという。
それでも1部の者からは呪いだと信じて避けられているし、時には心ない言葉を投げつけられてきた。
生まれた時から集落に居るおかげで両親の子供であることを疑われていないことが唯一の救いだろうか……幸いにも弟や妹にはその兆候は見られず安心した。
だが、自分は幸運だ。呪いだと信じて自分を避けるようなドワーフの家に生まれていたら、すぐさま捨てられただろうから。
家族だけはいつも味方をしてくれた。集落の者に白い目で見られようと、私がフィンに弟子入りすることになった時も……いつも
「ユリス、多少ほかと姿が違おうがお前は俺たちのかわいい息子だよ」
そう言ってくれたし、リーナも口癖のようにユリスと結婚すると言ってくれていた。
リーナが許嫁に決まった時は心底嬉しく、何日もかけて腕輪を仕上げた。
「わぁ、きれい!ありがとうユリス!」
そう言ってくれていたのに、半年前リーナは成人する前に「わたし冒険者になります」と書き置きだけ残し、集落から出て行ってしまった。
それ程、私との結婚が嫌だったなんて気づきもせず……浮かれていた自分が馬鹿みたいだ。
きっと、リーナは気づいてしまったんだ……そして、幼い頃の約束を後悔したに違いない。
リーナの親父さんやお母さんから謝られ続け……周囲からは腫れ物に触るように接されたり避けられるという辛い日が続いた。
たとえ婚約破棄されても結婚は成人する前にする者もいれば40、50を過ぎてから結婚する者もいる。後者は気難しい者や変わり者が多い傾向にあるが、大半は腕もよい。
いくらでもやり直しはできるし、なんの問題もなかった。その者が自分のような容姿でさえなければ……
少し容姿が違うだけでなぜこんな目にあうんだとやり場のない怒りを抱いたこともあった。でも、周囲に自分を認めてくれる人がいたから努力し続けることができた。
中にはそんな容姿だから逃げられたんだと直接言ってくる者もいた。それもそうだ。自分が幼馴染でなければ……リーナは集落の若い衆に結婚を申し込まれていただろうから。いや、何人かは関係なしにアプローチしていた。
内心、自分とリーナが釣り合わないと思っていた者も多かったはず……通常なら咎められるアプローチがまかり通っていたぐらいだ。
誰にも会わないようにひたすら工房にこもって仕事をするしかなかった。
そんな日が何ヶ月も続いた頃……
リーナがある街の周辺で冒険者をしていると丁寧にも教えてくれた者がいた。
実際はお前は捨てられたんだとか、お前が嫌で冒険者してるんだってな……などと嫌味たっぷりだったが……
そういえば彼は確かリーナに許嫁がいても関係ないと断られてもめげずにアプローチしていたような……よほど、私のことが嫌いらしい。その顔は愉悦に歪んでいる。
私が傷つく姿を見てまた、どこかで笑い話にでもするつもりなのだろう。
私になど構わずその腕の筋肉を活かして鍛治に精を出せばいいものを。
怠けているから腕も悪いし、仕事も少ない。それに嫁に来てくれるような人ができないんだ……心の中で言い返しつつ、あるひとつの決意を固めた。
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