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第6章
74.女神見習い、ドワーフを拾う(2)
しおりを挟む「そ、それが集落に閉じこもっていたものでここ以外に知り合いはいないんです。鍛治職人として雇ってくれるような知り合いもいませんし、かといって工房を構えるにしてもまずは金が必要ですし……ど、どうしましょう!?」
急に焦り出したユリスさんは置いておくとして、となりの精霊が余計なことを言わないように手を打たなくちゃ。
「そうで……」
「ここに住めばいいじゃない!部屋も余ってるし。僕は賛成だよ!」
おい、精霊……人の言葉にわざと被せたな?
「えっ、いいんですか?そんなこと。それに女性の家にお世話になるのは……」
ほらこの人も遠慮してるから……ね?
「そうで……」
「大丈夫だよー。僕もいるし、エナは他に家もあるし……ね?」
だから人の言葉に被せんなって!
それに勝手に私を都合よく家から追い出そうとしてるな? あの、家を買った時の可愛さはどこいったの?
……ただ、あの頃は知らなかったけど、今の私は知っている。この精霊を怒らせるとひどい目に合うことを……なんか突然すごいうなされるようになるんだって。サブマスさんと同様にトラウマゴリゴリに削ってくるらしいよ……うん、知っててよかったのかどうか。知らない方が良かったかも。
「はあ……わかりました。私は他の家を行ったり来たりしているので、突然現れても驚かず、何も聞かないと約束するなら……ここに下宿しますか?」
「ほ、本当にいいんですか?……でも、家賃を払う金がありません。私にできるのは鍛治仕事だけなんです。あっ、でも料理はそこそこ得意です」
なんだって! 料理が得意……美味しいご飯が食べられるようになる? 私、料理しなくていい?わーいわーい!
それに……ええ、いいんですよ。その分精霊に働いてもらいますとも面と向かっては言えないので
「まずは工房を確保しましょう。あれだけの物が作れるなら腕前も保証されてますし、とりあえずの費用はお貸しします。家の家賃と利子は私の望むものを作るということでいかがですか? 工房の費用はおいおい返していただければ。そのかわり、かなり無茶な依頼をするかもしれませんが……あと美味しいご飯を毎日作ってくれるなら」
最近お金に余裕があるからこそ言えるこの言葉……数ヶ月前には言えなかったよ。全力でお帰り願っていたはず。
彼は驚いたように一瞬目を見開き
「こんなこと言うのも何ですけど、見ず知らずの私をそんな信用してよろしいんですか? 費用を持ち逃げするかもしれませんよ」
「そんな人なら精霊は気に入りませんよ。それに、もしそうなった場合は世界の果てまで追いかけます……精霊が(トラウマゴリゴリですよ)」
この時のわたしは怖いぐらいの真顔だったことだろう
「ははっ、そうですか。何から何まで世話になりますがどうぞよろしくお願いします」
若干顔を引きつらせながら深々と頭を下げたドワーフ、隣で嬉しさが抑えられない精霊、苦笑いの私。またひとり住人が増えたようです。
「ねえ、工房なら庭にあるフィンの使ってた作業場は?」
「あー、そういえばそんな小屋もあったなぁ……」
「少し、見させていただいてもいいですか?」
「うん、こっちだよー」
早速庭へ出て小屋へ
「うぉー寒っ」
「こっちだよ」
「はい」
そういえば小屋の中見たことなかったな……ユリスさんが小屋の内部をチェックするのを横目に
「へぇ……こんな風になってるんだ」
「はい。すごく懐かしいです。ここで手伝わさせてもらった頃のままです」
「使えそうですか?」
「ええ、少し掃除して調整すれば充分使えると思います」
「そうですか、よかったです。ちなみに作ったものはどうやって売るつもりなんですか」
「工房兼店舗ならそこで売りますし、店舗に持ち込んで置いてもらったり、名の知れたひとなら店舗などなくても直接訪ねてくることもありますし……色々ですね」
んー、やっぱ店舗がいるのかな?
「あっ、そうだー。僕、いい店舗知ってるよー」
「ん? なんで?」
「え、そりゃあ……時々いたずらしてたら誰も来なくなっちゃったんだよね」
あれ、キュリエルまたなんかやらかしてるな?
「はあ……そこって近いの?」
「うん!この家の裏ー」
どうやらこの家のせいか精霊のいたずらのせいか人が入ってもすぐに出て行ってしまう物件でここ何年かはずっと空室だったとか。
はあ……また商業ギルド行かなきゃかな。
結局、店舗だけは家の裏にある古びた店舗になった。
そこは在庫を置ける部屋と陳列棚とカウンターでいっぱいになる小さな店舗だった。
カウンターの隅でひとりが休憩できる程度のスペースしかなく、こじんまりとした雰囲気。かつては2階部分が住居スペースだったようだが、長年の放置された結果、とても住めるようなものじゃなかった。
例のごとく商業ギルドに行ったら即解決でしたよね……なんかすいません。
賃貸か悩んでこれも格安で買い取ってしまいました。うん、家よりも安く買えてしまいましたよ。どうやら持ち主さんも持て余していたらしい。
帰りにはポーションも納品して用事を済ませた。
いやぁ、勢いって怖い……ユリスさんがすぐにいなくなったらどうすんだっていうね……まあ、そうなったならカウンターでちまちまポーションでも売ろう。用心棒は精霊に押し付けてせっせとタダ働きさせてやるんだ。へへ。
最近、金遣いが荒い気がしてならない……うん、ポーションの納品の量増やそうかな?
幸いにも、畑で育ててる薬草がスキルのおかげか、たくさん収穫できてるから森で収穫したものと合わせれば初級と中級なら問題なく増やせんるだよね。
無事開店したら、店舗の隅に少しポーション置いてもらって店番もお願いしよう。あ、ブランの羽を置くって手もあるな。楽しみが広がるなぁ……
「とりあえず今日はゆっくり休んで、明日から小屋と店舗の掃除と商品作り頑張ってください……部屋は2階の好きなところを使ってください。あと、水場とかトイレなんですが……まだ交換してなくて使いづらいかも知れませんけど」
私は1階しか使ってないし……トイレも昔のままだからなぁ。今のところ毎回、簡易トイレで代用してるし。
「はい、ありがとうございます」
「あと、出来れば朝晩の食事作りもお願いしたいんですけど」
「それは、構いません。料理は好きですから」
「それはよかったです。えっと……キュリエルとユリスさんと私と……あと2人分お願いします。キュリエルとユリスさんの分以外は別の鍋にでも分けてもらえると嬉しいです……鍋とかお皿はマリーさんが使っていたものがあるので。食材代はこちらに請求してください。とりあえずブラッドベアのお肉を1キロほどと、銀貨1枚置いて行きます」
まだ余ってるから美味しくしてくれるといいな……
「何から何まですいません……ブラッドベア……ですかっ。あ、ありがとうございます。精一杯頑張りますね」
「こちらこそ、美味しい食事期待してますね。あ、そうだ。店舗のことですが、後々ユリスさんが買い取っていただいてもいいですしお任せしますね」
「はい……まずはそうなれるように頑張って稼がないと」
「店番は僕も手伝ってあげるー。さっき、店舗もテリトリーに入れたから他の人にも見えるよ」
「あ、そう……」
どこかへ行ったかと思えば、そんなことしてたのね……
「何かわからないことはキュリエルに聞いてください。私なんかより家のことは詳しいので……では、今日のところはこれで」
「はい」
そういえば、さっき店舗を契約しにドワーフさんを商業ギルドへ連れて行った時のメリンダさんの目が光った気がしたんですが気のせいですよね?……ですよね?
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