65 / 120
第5章
65.女神見習い、少女と買い物を楽しむ(2)
しおりを挟む~黄金の羊亭~
「おはようございます」
「あら、エナちゃんいらっしゃい。いつもの持ち帰りの注文かい?」
「ええ、それもあるんですが……」
「おや……後ろの子は?」
「えっと、一緒に暮らしてる子で……リディといいます」
「はじめまして、リディちゃん」
「……はじめまして、リディです」
リディは緊張しつつもしっかり挨拶ができた。親父さんは奥の方からひょっこり頭だけが見えコクリと頷いた。生首かよっ。
「あと……リディの肩に乗ってるのはキラーバードという魔物でブランといいます。ギルドで従魔登録はしてあります」
「ほー、こりゃ珍しいね……久しぶりに従魔ってやつをみたよ。そこらの冒険者より身綺麗にしてるみたいだし、好きにしていいよ」
2人ともブランを物珍しく見る目はあったけど、それも一瞬で……すんなり受け入れられてホッとひと安心。
「ありがとうございます。あれ、ミーナちゃんは……」
「ああ、今日は教会で勉強の日なんだよ。夕方には帰ってくると思うよ」
「そうですか……」
リディとミーナちゃんの初対面は今はお預けか……てか、親父さん今日はミーナちゃんについて行ってないんだね。やめたのかな?それともお迎えに行くのかな……
「で、ですね……今日は親父さんにお願いがありまして」
「なんだい?」
「親父さん、美味しいパイをお願いします! ジャムは持参しましたのでっ」
「お願いします……」
ストレージからジャムの瓶を出し……
「こちらはおすそ分けです。こっちの瓶の分でパイを。あっ、果物も置いていくので出来れば豪華なパイを希望します!」
「それはいいけど、おすそ分けって……こんなにたくさんいいのかい?」
「はい、いつもお世話になってるので……」
親父さんを見ると親指を立てて頷いてくれたので
「では、いつもと同じ量のお持ち帰りとパイをお願いします」
「はいよー。夕方以降になるけど平気かい?」
「はい、大丈夫です」
「では、また後でね」
「はい」
ふぅ……親父さんに断られなくてよかったー。
「リディもちゃんと挨拶できたね」
「……ん」
「じゃあ、次は買い物に行こう。お金を入れる巾着とかも見てみよっか」
「ん」
夕方まで時間が空いたので今日の目的でもある買い物へ……
「まずは何を買いたい?」
「ん……エナの服」
そんなに私の服がないって心配してくれてるの? 結構、服持ってるんだけどな……
「わかった。じゃあまずは『紫紺の猫商会』だね」
「……紫紺の猫?」
「ああ、お店の名前だよ。リディの黄色いワンピース買ったお店なんだ」
「ん、わかった」
~紫紺の猫商会~
「いらっしゃいませ」
「こんにちはー。従魔もいるんですけど一緒でも大丈夫ですか?」
「また、来てくれたのね。ええ、王都でも従魔を連れた人はたくさんいたから、大丈夫よ」
「ありがとうございます」
「ゆっくり見ていってね……何かあれば声をかけてくださいな」
「はい」
リディはお店に入るのもあまり経験がないらしく、キョロキョロと興味津々のようだ……わかるよ、私も初めてのお店はついキョロキョロしちゃうもん。
「じゃ、早速選んでもらおうかな」
「ん、わかった」
リディは真剣に服を選んでくれている……ブランの羨ましそうな視線を感じつつ優越感に浸る。
「ん、こっちかこっち……」
「おおー」
リディが選んでくれたのは、触っただけで上質だとわかるシンプルなAラインの白い長袖ワンピースとスカートの裾にレースのついたオフショルダーのワンピースだった。
両方とも白なのは多分ブランの影響かな……汚れたら大変だけど、リディが選んでくれたんだから大切に着よう。
ブランに自慢してやろーっと。あ、目はやめてっ! お願い、つつかないでっ……冗談はこれくらいにして。うん……結構いい値段するけど……私、稼いでるのでっ。ブルブル……
「じゃあ、両方買っちゃおうかな……」
「……でも」
「それは、生地に魔物の素材が糸に組み込まれていて見た目に反してかなり強度があるんですよ。新品なら数倍はくだらないですね」
「へーそうなんですか。せっかくリディが選んでくれたんだし。すいません、これ買います」
「はい、ありがとうございます。包んでおきますのでごゆっくり」
「はい。じゃあ、リディのバックと巾着も見てみようね」
「ん」
ショルダーバッグや巾着袋などの袋物のコーナーも可愛いものであふれていた。
「これだけ沢山あると悩んじゃうよね……」
「ん」
「あ、私がプレゼントするんだから遠慮なく選んでね」
「でも……」
「だって、リディ今日も私に渡してくれたでしょ」
「……ん、わかった」
リディはショルダーバッグと巾着袋がセットになっているものに決めたようだ……なぜかブランが大喜びしている。
「ん、これにする」
「これ、鳥の刺繍が入ってるんだね……」
それでブランは大喜びしてたのか……私はひと目惚れしたティーセットも思い切って購入してしまった。
かなり悩んで……リディを待たせてしまったかと思ったけどリディも色々と見てたみたいで退屈はしてなかった。よかった。
「これでお茶飲んだらそれだけで美味しそうだよね」
「ん」
お会計して、リディはそのまま身につけていくらしい……お金や袋を移し替えていた。
「ありがとうごさいました……またお待ちしていますね」
「はい、ありがとうございました」
「……ありがとうございました」
「ふふ、喜んでもらえるといいわね」
「……ん」
「ん? どうかした?」
「……なんでもない」
「そう……」
お店を出てティーセットだけすぐにストレージへ入れた。せっかく買ったのに割れたりしたらショックだから。
「次はどうしようか……」
「ん……あそこに行きたい」
「ん? あそこって……」
……なんの店だろう?
~ドーラの防具屋~
[防具や革製品、日用使いから一張羅までなんでも承ります! お気軽にどうぞ! ドーラの防具屋]
店先にはそんな文言が書かれたポスター? が貼ってある。やってるの?ってくらいひと気がないんだけど……表の看板が『open』てなってるからやってるはず。
「いらっしゃいませー」
「こんにちはー。従魔もいるんですけど一緒に入って大丈夫ですか?」
「従魔っすか? どうぞ、どうぞっ!観察してもいいっすか?」
少し埃っぽい店内には私とそう変わらない年の女の子がいた。おおー、ブランに興味津々ですね……
「ん、いいよ」
え、いいの? ブランも驚いてない?
「だから、ブラン用のリュックを作って欲しい……」
どうやらブランの背負う小さなリュックを作ってもらい、その中にお金を少し入れることにしたようだ。
意外とすごいこと考えるなぁ……たしかにブランなら滅多なことではお金を取られないだろう……安全な飛ぶ金庫……
「うわー、滾るっす……格安にしますんでぜひやらせて欲しいっす」
「ん、お願い……」
ブランも自分用のリュックとあっては仕方ねぇなって感じだけど、嬉しさが滲み出てるよね……てか、そんなうまいことリュック付けられるのかな? まぁ、相手はプロだから大丈夫なんだろう。
「そうだ。リディの防具も買っておこうか?」
「……エナの分は?」
「あー……」
ま、冒険者ならつけてて当たり前の装備なんだけど、今まですっかり忘れてたのね。
「なら、こっちがオススメっす……自分が作ったんすけど、全然売れないんで投げ売りしてるやつっす」
「へえ……」
どうやらお父さんがギルド公認の職人さんで独立したものの、なかなか厳しくお父さんの下請けで生活しているとのこと。
腕は父親に認められているけどデザインが奇抜だったり……やりたいって決めると店を閉めてまで熱中するからお客さんが寄り付かないらしい。
なんで知ってるかって? ドーラさんさん……ずーっとマシンガントークしてるのよ。こんなに喋る人司祭さん以来だわ。
「リディ、サイズが合うのこれしかないけど……どうする?」
やはりちょっと奇抜なデザインだった。でも、革の割に防御力は高そう……
投げ売りじゃなくデザインがシンプルなものと比べると値段が5倍くらい違う……シンプルな分素材にこだわったらしく、この値段だそう。
奇抜なデザインのものは素材はそこまでじゃないがこの奇抜さゆえ各所に工夫が施してあり強度的にはシンプルなものと変わらないとか……
「ん……」
「よし、わかった。私も同じデザインのやつにするから」
「ん、それなら……」
ちょっと恥ずかしいけど……めちゃくちゃ安いし、作りはしっかりしてるから問題ない……デザイン以外は。
「……ドーラさん……ブランのデザインはシンプルにして」
「わ、わかったすっ。試作品を作るんで10日後以降に来てほしいいっす」
「ん、わかった……エナいい?」
「うん、いいよ」
注文書を受け取り、奇抜なデザインの防具の調整をしてもらい料金を支払う。
ブランの分はリディが払うことになった。これもリディが譲らなかった。
まぁ、リュックはかなり格安になったみたいで手付金を払ってリュックと交換に残りを支払うらしい。
「じゃ、丹精込めて作るっす!楽しみにしてくださいっ」
「ん、よろしく」
「じゃあ、また……」
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

ボルカノダンジョンへようこそ!
ひらえす
ファンタジー
王都で冒険者をやっていたアレンダンは、諸々の事情でソロ冒険者として再出発する事にした。
ギルドから紹介されたのは、王都から遠く離れた田舎町、火山の町ボルカノ。3年前に発見されたボルカノダンジョンの先行調査およびその他の雑務etc…報酬が異様に高いことを怪しんだアレンダンだったが、一刻も早く王都を離れたかった彼はそれを承諾。
南の果ての火山の町、ボルカノでの生活が始まった……!
※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。
※残酷描写は保険です。
※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。
※相変わらずのストックなしの不定期更新ですが、頑張りますのでよろしくお願いします。
私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!
神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話!
『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください!
投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる