63 / 120
第5章
63.女神見習い、ジャム作りに奮闘す
しおりを挟む「リディ、今日はジャムを作ってみようと思います」
「……ジャム?」
「そうだよー。パンにつけたり、お茶に落としたり、パイにすると美味しいんだよ」
じゅるり……あ、やべ、よだれが。
うん、なんだか無性にジャムが食べたくなったんだよね。
それに『黄金の羊亭』にジャムを持っていったら、パイを焼いてくれるって小耳に挟んだんだよ。
親父さんの作るパイ……美味そう……じゅるり。俄然やる気が出るというものですよ。もちろんお礼にジャムのおすそ分けもする。
メリンダさんから手に入れる予定のお茶にジャムを入れても美味しいだろうし……レシピ、うろ覚えだけど……成功させるぞー、おー!
「……ん、手伝う」
「うん、ありがとね」
髪の毛をまとめてエプロンつけて手を洗って……
「そうだ、ブランはちょっと離れた……え、だめ? あ、はい、結界を張りますね。念のためあんまり動かないでね?」
「ん、危ないことしなかったらジッとしてるって」
「そう……」
全然信用されてませんね……はぁ。
まあ、結界があるおかげで羽が入る心配もないし、ブランの羽ばたきで埃が舞うこともないから結果オーライかな。
ジャムの瓶は前に雑貨屋でリディのコップとかブランのお皿とかを買い物した時に安売りしてた分があるからそれを使うとして……
ひとつより10個まとめて買うと安くなるって言われて思わず……それに瓶が可愛かったんだよ。
《清浄》、さらに煮沸消毒して浄化……これでいいだろう、多分。
「まずはりんごからいってみよー」
「ん」
頭の中では裸の天使が出てくる料理番組の音楽が流れてる……え、口ずさんでた? ごめんごめん。まぁ、全然3分じゃできませんけどねー。そもそも時計ないし……
「えっと……まずはボウルに水と塩を入れ塩水を作って……」
「ん」
「あ、リディ。お水入れてくれたの? ありがと」
「……ん」
なんだかリディも楽しそう、よかった。
「次は包丁を使うんだけど、リディもやってみる?」
「ん、やりたい」
ブランが包丁って聞いた途端、ソワソワしだしたけど……ここは本人の意思を尊重するってことで。
リディに包丁を渡して、自分はナイフを。もちろんナイフは《清浄》してあるよ。
「リディ、怪我しないように気をつけて。ゆっくりでいいからね」
「ん、わかった」
りんごは皮を剥いて芯を取り、いちょう切りにしたらすぐに塩水にさらす。多少の形の悪さはジャムにしてしまえばわからないし、これくらいならなんとかできるよ、うん。
「おっ、リディ上手いね」
「ん」
なんか、リディのほうが手際がいい気がしてきた。
「次は鍋に水気を切ったりんご、砂糖、レモンから絞った汁を入れて中火にかけるよ」
「ん、わかった」
沸騰してきたら、アクをとって弱火にして30分ぐらい(体感で頑張った)煮たら完成。
「おおー、できた……」
「すごい……つやつやぴかぴか」
「ねー。熱いうちに瓶に詰めて蓋をして逆さまに置いておくとできるから」
「ん」
少しだけ味見用に分けてから、次はレモンジャムを……りんごより多少手間(薄皮を取り除くとか、レモンを絞るとか)はかかったけどなんとか完成。
ブランの視線が痛い……仲間に入りたいのかな?
「おおー、これお茶に入れたら美味しそうかも」
「ん、ブランはもうちょっと待ってて」
おー、リディに言われた途端大人しくなったよ。どうも、ブツブツ文句を言っていたみたい……
オレンジも同じような要領で作り、数日前に見つけた木苺もジャムにしてみることに。
リディ達と森の探索中に見つけた木苺……低木に実る木苺を身を屈めて摘む作業は腰にきたけど、リディと頑張って採取したよ……美味しいジャムのためだったと思えば腰の痛みもなくなるよね(実際は回復魔法かけました)
あ、ちなみにブランは周囲の警戒をしてたよ。時々つまみ食いしながらだけどね……結界を張ってるとはいえ、なんせ魔の森なので。
あの時に頑張って採取しすぎたせいか木苺まだまだ余るほどたくさんあるんだよ……
木苺は他のジャムを作ってる間……っていうか、リディが一生懸命、鍋をかき混ぜてる間に水につけて、何度か軽く混ぜたり水を替えて、汚れを取り除いておいた。
そしたら結構小さいゴミとか虫とか水に浮いててゾワッとした。うん、このまま使わなくてよかった。
汚れを取り除いたあと、鍋に木苺を入れ中火にかける。
火にかけるとすぐに苺の色が黒から鮮やかな赤に変わっていった。
「あ、色が……」
「綺麗な赤だね」
まるで、リディの瞳の色のよう……
「で、次がさっきと違うんだけど……沸騰したらアクをすくいながら5分くらい煮て、うらごしするんだよ」
「ん」
ザルがないから目の粗い布で代用した。ま、種が取り除ければいっか。
ブラン、そういうところにこだわらないから料理を失敗するんだよとか言わないで……ぐすん。
なんか最近、ブランの言いたいことがますますわかってきた気がする。結構辛辣なんだよね……あれ、妄想なのかな……リディには向けない鋭い視線のせいでそう感じるのかもしれない。
「あとは鍋にうらごししたものと砂糖をいれて、かき混ぜながら煮詰めていけば完成だよ」
「ん、わかった」
こうして出来上がったりんごジャム、レモンジャム、オレンジマーマーレード、木苺ジャム。全ての瓶が逆さまに並べられ外からの光を受けキラキラして美味しそうな光景だ……
今回は全て瓶3個分ずつ作った……ひと瓶はパイ用に親父さんに持っていく分、ひと瓶は家で食べる用、ひと瓶はおすそ分け用にした。
それぞれの果物も少しずつ持っていって豪華なパイにしてもらおう……じゅるり。
素早く後片付けを終えると、すでにお昼を過ぎていた……どおりでお腹が空くわけだ。
「リディ、味見してみよっか」
「ん……ブランも味見するって」
「……わかったよ」
りんごジャム、レモンジャム、オレンジマーマーレード、木苺ジャム……モグモグ。
「ん、美味しい」
「おー、ジャムだ……あー、もっと食べたい」
「ん……」
「パンにつけて食べたい」
「ん」
でも、味見用は既にない……はぁ。
こらっ、ブラン! お皿まで舐めるとはっ……うらやまけしからんぞ! よくそのくちばしで舐められるな……執念か……
あ、ちなみに砂糖は調味料セットのものを使ったよ!
若干、砂糖の量が足りなくて砂糖控えめになったり、レモンジャムは砂糖の代わりにハチミツを入れたものにしたりしたけど、味見したらそれはそれで問題なく美味しかったし。
私にしては材料を無駄にすることなく、なんとか作り上げることができた……料理スキルのおかげかな?
あ、すいません。ブランさん、ジャムを焦がさなかったのはリディが一生懸命鍋をかき混ぜてくれたからですよね……わかってますよ、ちょっと言ってみただけじゃん。そんな怖い目で見ないでよ。
砂糖は明日にでも買い足そうかな……すぐにジャム食べちゃいそうだし、木苺まだまだあるし、何よりリディも楽しそうだったから……ブランさえ納得してくれれば留守番中に作ってくれてもいいんだけどね。ブランはリディに関してはかなり心配性だからなぁ……
「じゃあ、明日にでも街に持って行ってみようか。リディ、大丈夫かな?」
「ん、大丈夫」
「いやー、パイ楽しみだね」
「……ん」
今日のところはパイを想像しながらいつものスープとパン……ジャムもっと食べたい、はぁ。
蓋をして逆さにして冷ましておけば明日の朝には出来上がってるはず……
「ねぇ、リディ……明日の朝にはジャムができてるだろうから朝ごはんに食べようね」
「ん、楽しみ」
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜
朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。
(この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??)
これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。
所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。
暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。
※休載中
(4月5日前後から投稿再開予定です)

放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜
はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。
目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。
家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。
この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。
「人違いじゃないかー!」
……奏の叫びももう神には届かない。
家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。
戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。
植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる