異世界トリップしたら女神(見習い)でしたが一般人として自由に生きていこうと思います

瑞多美音

文字の大きさ
上 下
45 / 120
第4章

45.女神見習い、呪われた少女と出会う 〜side リディア〜(2)

しおりを挟む



 カチャカチャと音が聞こえ、慌てて起きる……あれ、ここは?
 あ、ブランもいた。よかった…… 昨日のエナの家かな……外はボロボロなのに違う場所みたい。
 様子を伺いながら部屋から出ると台所に立つエナが見えた。透けるような白い肌、グレーの瞳、柔らかそうな金髪が動きに合わせ揺れている。
 いいな……綺麗な金髪もグレーの瞳も私とは大違い。
 
 「あ、ごめんね……起こしちゃった?」
 「……ううん、眠り浅い……から」 

 いつもよりたくさん寝てた……

 「そっか……とりあえず朝ごはん食べてから話そうね」
 「でも……」

 ブランに促されるように席に着いたら目の前にスープとパン、オレンジが置かれた。
 ……こんなにたくさん食べてもいいのかな? 教会での1日分以上だけど……教会ではカビの生えたパン1個とか腐りかけの野菜とかだった。多分、商品にできないなら痩せようが汚かろうが、どうでもよかったんだと思う。

 「それで……呪いのことなんだけど……」

 あ、やっぱり追い出されるんだ……これはせめてもの慈悲でくれた最後のご飯なんだ。

 「……すぐ出てくから」
 「いや、そうじゃなくて……リディアは呪いについてどのくらい知ってるのかな?」
 「……教会ではどうにもならない呪いってこととアレが出ると周りの人の具合が悪くなること」
 「そっか……あのね、その呪いは忘我の呪いっていうみたいで、昨日リディアが寝てる時に魔法をかけてみたのね……そしたら数値がちょっと減ったみたいなの」
 「……減った?」

 呪いって減るものなの……

 「ああ、ごめん。私ステータスも確認できるんだよね」

 よくわからない……

 「……ん」
 「でも1日に1度しか効果がないみたいで、ちょっと確認させてほしいんだけど」
 「……ん、わかった」

 エナが魔法を使うと体が白い光に包まれた……すごい。
 
 「うん、やっぱり効果があるね」
 「ほんと?……わたしふつうに暮らせるようになるの?」
 「うん……時間はかかるけどいつかは……だからしばらくここで暮らしたらいいよ……でもね、もしここで暮らすならこれを付けてもらわないといけないの」

 なんだろう……綺麗な指輪。

 「ブランと意思疎通ができるようになる指輪なんだけど、つけることによって主従関係とみなされるの……これがあれば街でブランといても平気なんだって」
 「ブランと……」

 ブランの様子を見て……今まで支えてくれたブランの言っていることが少しでもわかるなら……それに指輪をつけるだけでここに置いてもらえるなら……

 「……ん、わかった。よろしくお願いします」

 ブランは首にはめたけどお揃いの指輪をつけたら、すぐにブランの言ってることがわかるようになった……すごい。ブラン男の子だったんだね……

 「うん、よろしく。リディア」
 「……リディでいい」

 エナにはわからないだろうけど、ブランもリディって呼んでるから、エナにもそうしてほしいな……

 「わかった。リディとブランはさっきの部屋を使ってね?」
 「……いいの?」
 「もちろん!」

 ブランが遠慮するなって言ってる。こういう時はお礼を言えばいいらしい。
 えっと……

 「ありがとう」
 「いーえ……そういえばリディは何歳なのかな?」

 お母さんの日記だと……

 「……ん、多分12歳」
 「え……そう、わかった。これからたくさんご飯食べるんだよ」
 「……? うん……」

 今日もう1日分以上食べたのに……
 
 「うん、落ち着いてくれたなら……まず、お風呂入ろうか……ブランもね?」
 「お風呂?」
 「そう、お風呂っていうのはあったかいお湯に入って汗や汚れを落とすことのできる小さな部屋かな」
 「……すごい」

 お風呂……すごい。あったかくて気持ちいい……エナがゴシゴシしてくれるのも何回かするうち泡が立って気持ちよかった。
 エナは「今度からはすぐ泡が立つよ」って言ってたけどなんでだろう?
 ブランも気持ちいいって……頑なに首輪を外すことを嫌がってエナが洗うの大変そうだったけど……

 あと、お風呂で用を足そうとしたら慌てて連れてかれたトイレ? あれもすごい……今度からは間違えない……多分。
 
 「おおー、見違えたね……服は、どうしようか……ごめん、今これしかないから動きにくいかもしれないけど」
 「……いい、ありがと」

 こんな綺麗な服、久しぶり……もらった袋には唯一の私物の日記をいれる。

 「えーと、一応この家の場所から……魔の森の奥深くにあります。台所はほぼポーション作りにしか使ってないからリディが使いたいときに使ってね……あ、でも火には要注意だよ?」

 ブランは俺に任せろって言ってる。

 「……ん」
 「お風呂やトイレの使い方は教えたし……アルさんのおかげで部屋にランプもあるし……あと家と畑の周囲に結界があって魔物とかは入れないようになってます」
 「……ん……ブランは?」

 ブランも多分魔物だけど……

 「あー、害意のあるもの限定だからブランは除外かな? リディはこの森を生き抜いてきたから大丈夫だと思うけど、結界の外は危険な魔物もいるから気をつけてほしい……何かあったら結界の中に急いで戻ること。多少の攻撃には耐えられるからね」
 「……ん」

 エナの言うことは守らなくちゃ。なるべく結界の外に出ないようにしよう……

 「リディには畑の水やりをお願いしたいの……井戸はないから台所から持っていくか魔法で出すことになるけど平気?」
 「……ん、がんばる」

 だってこんなに優しい人の役に立てるんだもん。畑のお世話と水やりがんばる。ブランも手伝ってくれるって。

 「あと、数日に1回……街に買い出しやポーションを売りに行ってるの……その時に服も買ってこようと思うけど……いつか一緒に行こうね」

 街……あの街に行くのかな……嫌だな。

 「……でも、この髪と瞳だとみんなに嫌われちゃう。それにアレも出ちゃうから……」
 
 あ、また出ちゃう……

 「うん、今すぐじゃないから……焦らずゆっくりでいいからね」
 「……ん……」

 亡くなった神父さん以外で私のことを蔑むような眼をしなかった初めての人。
 ブランと私を受け入れてくれた優しい人。

 この出会いが私の運命を大きく変えることになるなんて想像もしていなかった。

 こうして新たな生活が始まった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

彼女はいなかった。

豆狸
恋愛
「……興奮した辺境伯令嬢が勝手に落ちたのだ。あの場所に彼女はいなかった」

処理中です...