43 / 120
第4章
43.女神見習い、呪われた少女と出会う(2)
しおりを挟む朝起きると自室のテーブルの上にアルさんから贈り物が……神様ってみんなこうやってやりとりできるんだね……夜中にポンって物が置かれるのってミステリーだよね。
とにかく、一緒に置いてあった紙を確認する。
ふんふん……どうやら指輪をつけることで主従関係になって、安全に魔物と意思疎通ができるものみたい……でも、信頼関係がないとダメ……か
対となった指輪は自動的にサイズ調整されるようだ。リディアとブランのためのものかな……寝る前に結界を誰も出入りできないよう張り直したから逃げてないはず……なんかここだけ聞くと犯罪くさいな。
そーっと部屋をのぞくとブランはしっかり起きていたけどリディアはまだ寝てるみたい……ゆっくりさせてあげよう。
スープを温め直したり、水を足して味を調えていたら物音のせいかリディアが目を覚ましたようだ。
「あ、ごめんね……起こしちゃった?」
「……ううん、眠り浅い……から」
「そっか……とりあえず朝ごはん食べてから話そうね」
「でも……」
ブランに促されるように席に着いた少女の前にスープとパン、オレンジを置く……
パンは買っておいたものだし、スープは会心の出来だから問題あるまい!
「それで……呪いのことなんだけど……」
「……すぐ出てくから」
「いや、そうじゃなくて……リディアは呪いについてどのくらい知ってるのかな?」
「……教会ではどうにもならない呪いってこととあれが出ると周りの人の具合が悪くなること」
「そっか……あのね、その呪いは忘我の呪いっていうみたいで、昨日リディアが寝てる時に魔法をかけてみたのね……そしたら数値がちょっと減ったみたいなの」
「……減った?」
「ああ、ごめん。私ステータスも確認できるんだよね」
「……ん」
「でも1日に1度しか効果がないみたいで、ちょっと確認させてほしいんだけど」
「……ん、わかった」
女神の浄化をかけると……やはり数値が100減っていた。
「うん、やっぱり効果があるね」
「ほんと?……わたしふつうに暮らせるようになるの?」
「うん……時間はかかるけどいつかは……だからしばらくここで暮らしたらいいよ……でもね、もしここで暮らすならこれを付けてもらわないといけないの」
ひとりきりの空間は個室があるし……それになんだかほっとけない。
アルさんが帰ってから少し寂しかったのもあるんだけど。
うす紫の石がついた指輪を机の上に置く。
「ブランと意思疎通ができるようになる指輪なんだけど、つけることによって主従関係とみなされるの……これがあれば街でブランといても平気なんだって」
「ブランと……」
ブランは指輪を前にソワソワして、早く付けたいみたい。すこし悩んだ後、ブランの様子を見て……
「……ん、わかった。よろしくお願いします」
結局、指輪はブランの首に自動調節され、首輪になった。
これにより2人の間で簡単な意思を伝えることができるようになったみたい。アルさんの指輪すごいね。
「うん、よろしく。リディア」
「……リディでいい」
「わかった。リディとブランはさっきの部屋を使ってね?」
「……いいの?」
「もちろん!」
自分の部屋がもらえることが信じられないようだ……あ、ブランが説得してるっぽい。言葉はわからないけど仕草がそんな感じ。
「ありがとう」
「いーえ……そういえばリディは何歳なのかな?」
見た目だけならミーナちゃんより1、2歳上くらいかな?
「……ん、多分12歳」
「え……」
やばい、栄養が足りてないせいで成長が……
「そう、わかった。これからたくさんご飯食べるんだよ」
「……? うん……」
いやー、これ頑張って料理スキルを上げるかミーナちゃんのお父さんにお願いして栄養たっぷりのご飯分けてもらわないと!
「うん、落ち着いてくれたなら……まず、お風呂入ろうか……ブランもね?」
「お風呂?」
あれ、お風呂知らない感じ?
「そう、お風呂っていうのはあったかいお湯に入って汗や汚れを落とすことのできる小さな部屋かな」
「……すごい」
大丈夫、簡易シャワーから持ち出したシャンプーやボディーソープもあるし、何回か洗えば頑固な汚れも綺麗になるはず。
お風呂に入ったことで見違えるほど綺麗になったリディは、艶やかな黒髪にルビーのような赤い瞳をしていて顔立ちが整った美少女だった。表情が乏しいせいでお人形さながら……
ブランもくすんでいた白が真っ白に変化した。
「おおー、見違えたね……服は、どうしようか」
元々リディが身につけていたのはぼろぼろの服と小さなショルダー。
着ていた服はボロボロで穴があいて汚れている……これをまた着せる気にはなれない。
ショルダーには大切なものが入ってるみたいだから、仕分け用の袋をひとつ渡すことにして、服は市民の服を着てもらう……ダボダボだ。着替えている間にベットに《清浄》をかけておく。
「ごめん、今これしかないから動きにくいかもしれないけど」
「……いい、ありがと」
今度買いに行きたいけど……街とか嫌がるかもしれないな……まぁ、その時はミーナちゃんのお母さんにおすすめの服屋さんを教えてもらって1人で行こう。私の趣味全開のものにしてしまいそう……
「えーと、一応この家の場所から……魔の森の奥深くにあります。台所はほぼポーション作りにしか使ってないからリディが使いたいときに使ってね……あ、でも火には要注意だよ?」
「……ん」
ブランが任せろとばかりに飛び回っている。
「お風呂やトイレの使い方は教えたし……アルさんのおかげで部屋にランプもあるし……あと家と畑の周囲に結界があって魔物とかは入れないようになってます」
「……ん……ブランは?」
「あー、害意のあるもの限定だからブランは除外かな? リディはこの森を生き抜いてきたから大丈夫だと思うけど、結界の外は危険な魔物もいるから気をつけてほしい……何かあったら結界の中に急いで戻ること。多少の攻撃には耐えられるからね」
「……ん」
「リディには畑の水やりをお願いしたいの……井戸はないから台所から持っていくか魔法で出すことになるけど平気?」
「……ん、がんばる」
何もせずにいるよりいいと思うんだよね……必要とされるって嬉しいでしょ。
「あと、数日に1回……街に買い出しやポーションを売りに行ってるの……その時に服も買ってこようと思うけど……いつか一緒に行こうね」
「……でも、この髪と瞳だとみんなに嫌われちゃう。それにあれも出ちゃうから……」
あら、早速瘴気が漂い始めた。
「うん、今すぐじゃないから……焦らずゆっくりでいいからね」
「……ん……」
あ、引っ込んだ。しばらくはブランとお留守番してもらおう……
それにしてもブランは状態異常耐性があるから瘴気のそばにいても平気なのかな……
こうして、2人と1羽の生活が始まった。
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる