異世界トリップしたら女神(見習い)でしたが一般人として自由に生きていこうと思います

瑞多美音

文字の大きさ
上 下
60 / 120
第5章

60.女神見習い、ギルド公認になる 〜side マルガス〜

しおりを挟む

 少しめんどくさそうに商業ギルドへ向かうエナを見送った。紹介状があるから面倒なことにならないと思うがエナだけに少し心配だ。
 サブマスも満足したのか扉をバーンッと開けてどこかへ行ってしまった……はぁ、あの癖はなんとかならないものか。いつか扉が壊れたらサブマスに弁償させよう。
  
 「まったく、エナと出会ってから話題に困ることがないな……」


 彼女と初めて会ったのはいつのことだったか……確かカーラに頼まれて同席したことがきっかけだな。

 ファルシュ草を持ってきたかと思えば簡単にファルシュ草を株ごと採取してきたエナ……さらに俺の鑑定を弾いた時は冷静を装ったが内心ではかなり驚いた。  
 ギルマスに早くランクを上げるように要請したのもこの後からだったか。

 エナの持ち込んだポーションを飲んだときは衝撃だった。それと同時にこれなら妻が飲めるかもしれないという希望が湧いた。エナを部屋に残しギルマスへ頭を下げてエナのポーションを個人的に買い取ることになった。あの時ほど、忙しいギルマスがいてくれてよかったと思ったことはない……そうでなければこんなに早くポーションを妻に飲ませることができなかっただろう。
 この時、エナの鑑定のことも分かったが……もはや驚かなかった。

 あれからギルド職員権限で優先的にエナのポーションを買い続けた結果……妻も以前よりぐんと元気になり最近では起き上がれる時間が増えた。
 今では時々台所に立てるようになり息子共々喜んでいる。
 エナには本当に頭が上がらない。エナが困っているときは出来るだけ力になりたいと思う……ただあいつ色々無意識にやらかすからなぁ。


◇ ◇ ◇


 俺やカーラの話題に上るエナにサブマスまでもが興味を持ちはじめた。

 ある時はBランクの薬草採取の依頼の素材を持ってきたり……あの時、俺がサブサスを呼んだ理由はひとつは俺だけで抱えるにはエナがやばいことと、もうひとつはサブマスを呼ばなかった場合に後でそのことを知ったサブサスが何をしでかすかわからないから。
 最初から巻き込んでおけば大ごとにはならないとこの数年で学習した。今になってもそれは正解だったと思う。

 かなりエナのことを気に入ったようで、それからというもの仕事を放り出してエナにちょっかいを出すものだから周りの職員が困っている。
 ただ、これを邪魔すると余計に仕事が増えるので何もしない。
 サブマス、やる気になったら仕事が早いんだけどな……


 またある時はロウトなるものが欲しいと言い出した。
 見たことも聞いたこともないロウトを考えつくエナには感服する。
 公認瓶(ガラス)職人のドネルが気の毒なほど振り回されていた。サブマスの眼がギラリと光った時は経験上、止めても無駄だ。というか、止めたらこちらへの被害が倍以上になる。
 苦労してヘロヘロになったドネルだが、特許料がかなり入ったから損はしてないはず。

 「マルガスさん、もう少しエルネストを諌めてくれてもいいと思うよ?」
 「……幼馴染なんだろう?ドネルに止められないものを俺が止められるはずないじゃないか。諦めてくれ」
 「そうだよなー……メリンダにチクってみようかな」

 ドネル……サブマスの奥さんにチクるのは勝手だが、それは悪手だと思うぞ……


 
 ほぼ同時進行でサブマスがエナの口座を作っていたようだ。これは多分エナがこれから先もなにかとやらかす可能性を見極め、先手を打ったんだろう。サブマス、こういうときに限っては見習いたいほど仕事ができるんだよな……
 ロウトはギルドとドネルとエナの共同で特許を取得し、それぞれに特許料が振り分けられた。
 エナがサブマスに全てを任せたおかげでギルドにも特許料が転がり込んだ。これによりエナの評価が上がったのはいうまでもない。
 ロウトは画期的でこれからもかなりの売り上げが見込めるだろう。


◇ ◇ ◇


 ギルドへ来るたび次々とやばいものを持ち込むエナ。
 トレントとかブラッドベアとか……今回の宝珠の花もそうだ。
 目立ちたくないと言いつつほんとは目立ちたいんじゃないかと疑ってしまうほど次々と持ち込んでくれる。
 ため息とともに刻み込まれた眉間のシワが深くなったのは絶対にエナとサブマスのせいだ……

 宝珠の花だって、いくらサブマスのリストにあるからって易々と持ってこれるものじゃない。
 というのも実は、当初宝珠の花の採取が掲示板にも張られていた。
 だが、高い報酬目当てにこれを無理に受けて怪我をしたり行方不明になった冒険者(後日ボロボロで街に戻る)が続いたので仕方なく掲示板に貼ることをやめていた。
 それからは指名依頼扱いにして、失敗しても罰なしなど対策を講じたものの……それでも依頼は達成できず、時間が過ぎていった。

 事がことだけにサブマスもエナが持ってきたらラッキーぐらいの気持ちでリストに載せたんだと思……いたい。
 王妃の病のことはギルドではのギルマス、サブマスと俺しか知らない秘密事項だ。
 俺が知っているのは宝珠の花を採取した経験があるからだ。かつて命からがら採取した場所が確率として1番高いので俺も覚えているかぎりの情報を提供した。それが役に立つかは別として……

 なかなか進展がないことに焦れた第3王子が隊を率いてきた時は驚いたが、無事に宝珠の花を持ち帰ったと知りホッとした。
 公認のじいさんも最後の大仕事としてあの調合をきっちり済ませ引退してしまった。

 この街には公認のポーション職人がそのじいさんひとりしかおらず、かなり高齢で体調を崩しがちになり……今までのように大量に納品できなくなった。腕は確かなだけに残念だ。

 つまり、いまこの街に公認ポーション職人がいなくなっちまった。さすがにギルド公認ポーション職人がゼロになるのはギルドの面目が立たない。


 エナはどんどんランクを駆け上がり今ではDランクだ。ま、すぐにCランクになるんだが……

 というのも、美味いポーションを作るエナに白羽の矢が立つも公認は実質Bランクと同等(指名扱い)なので、エナのランクが最低でもCランクに上がっていなければいけなかったのだ。
 そのため、公認の見込みがあるものはギルマスの裁量でランクの上がりが早い……エナはそれにしても早いが。
 しかし、しっかり依頼をこなさなければ見込みなしと判断されるのだが、エナは依頼を失敗したこともないしギルドからの評価も高く、信頼も厚い。
 本来ならもう少し実績を積んでから話を持ちかけようと思っていたが、こちらの事情も重なり早々に公認の話を持っていくことになる。
 他にも候補はいたが、公認の審査はギルドでの評価やポーションの出来、普段の態度など総合的に厳しくチェックされる。
 もちろん、今まで納品されたポーションの抜き打ちチェックなども行なっており、ポーションを大量に納品できるエナが最有力。なんてったって味が段違いに美味いしな。  


 その間にもじわじわとエナのポーションが浸透していき、冒険者の中でエナが作っているんではないかと噂になっていた……まぁ、本人は全く気づいていないけどな。感の鋭い奴はエナがギルドへ来た次の日の朝一で売店へ並ぶほどだ。
 そりゃ、毎回のように奥の部屋へ行ったあと職人不明のポーションが入荷すればバレるわな。
 まぁ、サブマスはエナを囲い込みたいためにそれを狙ってたみたいだけどな……

 やや強引ではあるが、エナが公認職人になるとともにCランクになった。

 「そうだ、念のためお願いしておきます。目立ちたくないのでこれ以上はランク上げないでくださいね」
 「お前の行動次第だと思うぞ……まぁ、公認ならほぼBランクと同等の扱いだしな」
 「えっ……聞いてないですよ」
 「あれ、エナくんに言ってなかったかな? 公認は指名依頼扱いだからほぼBランクなんだよ」

 エナ、スルーしようとしてるが丸わかりだぞ……時々こんなにわかりやすくて騙されやしないか、大丈夫なのか心配になる。娘を持った親の気持ちってこんな感じかもしれない……いや、嘘だ。こんな娘、俺の手には負えない。

 公認ポーション職人が誕生したことによりギルドの面目も保たれた。やはり、安定して供給できるかどうかは重要だからな。
 ただ、今日のうちに取り決めの2回分もマジックバッグから出された時にはため息しか出なかった。これ、管理するのは俺の役目なのか……はぁ。
 それにエナのショルダーバッグ、俺が鑑定してもマジックバッグ(小)としかわからないのに……あの容量は明らかにマジックバッグ(小)じゃない……はぁ。考えるだけ時間の無駄か。

 「なんたってエナだからな……」
 


◇ ◇ ◇



 「おいおい、あのじょーちゃんランクアップ早すぎじゃね?」
 「ばっか、お前ブラッドベア、ソロでいけんのか?」
 「……ま、まじかよ」
 「ああ、なんたってあのサブマスが気に入ってるらしいぞ……手ぇ出したら……わかってるよな?」
 「「「おぉ……」」」

 身震いをしながら手を出さないと誓うものたちもいれば、遠目から興味深そうに見つめる者もいた。

 こんな会話が囁かれるようになったのもつい最近だ。なぜなら信用できるものにブラッドベアのことを俺が流したからだ。

 サブマスの指示だったが、これにより変に絡まれることはないはず……ましてや絡んだりしたらサブマスのお仕置きに加え2度とエナのポーションを買えなくなるのだからよほど頭が悪くなければわかるだろう。
 ま、それを信じず絡むやつはサブマスにトラウマを植えつけられ不味いポーションを飲めばいい話だ。

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

処理中です...