30 / 120
第3章
30.女神見習いと魔の森(2)
しおりを挟む常設依頼を受けつつ瞬間移動で小屋へ行き、そのたびに掃除したり自分の過ごしやすいように小屋を綺麗にしていく。
拭き掃除したり、《清浄》を使ううち、だいぶ快適になってきた……
「壊れた家具はどうしようかな……まあポーション作りは床に座ってもできるし、また考えよう」
『女神の聖域』で結界を展開すれば多少の魔物も平気だし……とはいえ、目の前に巨大な虫がいたら気になるけど……あ、これ今ね、いるんですよ。人間サイズの巨大な蟻が。
結界のおかげで私自身は何ともないけど、多分噛まれたらひとたまりもないだろうし、結界に張りつき目の前で動く関節は気持ち悪い。
やっぱ巨大だから嫌でも目に入っちゃうよね……
「どうしよう……魔法で倒す? でも……あっ!」
私が悩んでる間にこの蟻、人が一生懸命綺麗に掃除した小屋の壁を壊しやがった。
「キリのいいところまで掃除したらポーション作ろうと思ってたのに!」
しかもまだ女神の聖域が展開できてない壁に。となりの壁は聖域内だったのに!
壁には穴が空き、小屋の中は瓦礫だらけに、出入り口がふたつになってしまった。耐久性が……小屋が……
「うん……これも身を守るためだよね? ほら、小屋が崩れたらわたし埋まっちゃうし」
こら、そこ『女神の聖域』があるんだから無傷だろうとか言わない!
本当は身の危険を感じた時にしか攻撃しないでおこうと思ったんだけど……人の苦労を無駄にされてちょっとイラッときたので退散してもらいましょう。
魔力をちょっと多めに込めて風魔法の《風刃》で蟻を攻撃する……結界の中から攻撃できるけど向こうの攻撃はある程度、通さないんだよ。すごくない?
透明な刃が結界から飛び出し、蟻の胴体に飲み込まれていく。
蟻はその場に倒れ動かなくなった。
「あれ? なんかちょうど胴体の付け根に当たったみたい……俗に言うクリティカルヒットってやつ? 運が関係してるのかな?それとも魔力込めすぎたかな?」
ただ追い返せればよかったんだけど……倒しちゃったみたい。
「でも胴体がまっぷたつになってるのに脚がピクピクしてるのは……生きてるとか?」
心眼すると
-----
【ヒュージアントの死体】
体長1.5メートルから2メートルになる巨大な蟻の魔物の死体。
顎の力が強く、噛まれたらひとたまりもない。
魔法により胴体が分断されている。
-----
「あ、やっぱり倒してたか……へぇ、この蟻〈ヒュージアント〉っていうんだ?」
とりあえずストレージへつっこみ何もなかったことにした……だって解体するの大変そうだし、何が素材になるかわからないだもん。マルガスさんに聞いたらまた呆れられそうだし……
気を取り直して瓦礫掃除に励む……崩れた石をひとまとめにし床をはいて拭き掃除ーー
「はぁ、疲れる……ポーションはまた明日にでも作ろう」
◇ ◇ ◇
ー翌日ー
魔法で《水》を出しつつ、ポーション作ってギルドで買ったポーションの瓶に詰めたり……漏斗を早く見つけないと溢れてもったいない。
『女神の聖域』はまだ小屋に長時間張っておけないからポーションを大量には作れない。
仕方ないから自分の周りだけに展開してちまちま作ること半日……
買い取り受付に行くとマルガスさんがすごい警戒する……なんで?
「今日はなんだ?」
「今日は常設依頼の買い取りです」
ヒュージアントなんて見てもいないし、倒してもいませんから!
なんかマルガスさんを前にすると言い訳したくなる。
「……そうか」
そして、常設依頼だと知るとホッとして、ポーションはないのか?と目で訴えてくる。
「3本分ならありますけど……条件があります!」
「なんだ?」
「漏斗を売ってるお店を紹介してください!」
マルガスさんがもしお店を知らなくても普通にポーション売りますけどね。
マルガスさんは眉間にシワを寄せて
「……ロウト?ってなんだ」
「……え? 漏斗ですよ? 瓶とかに詰め替えるのに便利な」
「は?」
「え?」
まさかの漏斗ご存知ない感じ?
「ちなみに、皆さんはどうやって瓶に液体詰めてるんですか?」
「……鍋の上で匙を使うか、鍋に瓶を突っ込んでブクブクっと」
あー、溢れても無駄になりませんね。
ブクブク……そういえばその方法もありましたね……
「でもそれ、匙はまだしも瓶を沈めるのはかなり量がなくちゃできませんよね!?」
「まぁ、そうだな……で、そのロウトとやら詳しく聞きたいからついて来い」
なぜマルガスさんが受付の時は毎回のように奥の部屋へご招待されるんでしょうか……はぁ。
「さて、そのロウトとやらをじっくり教えてもらおうか」
「いえ、お店を知らないならいいです……ポーション4本にしますから」
一瞬迷いを見せたマルガスさん。
よしっ!このままうやむやにしてしまえっ!と思ったのに……
「おや、エナくんでしたか……私の渡した紙の素材が見つかったのかな」
サブマスさん……なんてタイミングで来るんですかっ!もう少しで丸め込めそうだったのに……
サブマスさんにもらった紙に書かれた素材も一応探してはいる。今のところあまり成果はない。
でも朝早くあそこへ行けば採取できるかも……と目星をつけたのはあるけど
「いやぁ、そんな簡単に見つかるわけないじゃないですか! 私はしがないEランクの冒険者ですよ?」
「そうかな? エナくんならすぐに見つけてきそうだと思うけど」
「サブマス、話を戻してもいいか」
「うん……で、なんの話?」
「エナがロウトとかいう物を売ってる店を教えてほしいというんだが……俺には全く見当がつかない。詳しく聞こうと連れてきたらサブマスが来たんだよ」
「ふーん、そうなんだ。私も興味あるな……そのロウト」
なんてこった。話が振り出しに戻ってしまったじゃないか!
「はぁ……わかりました。漏斗とは噛み砕いて言えば、すり鉢状の器の底に穴が開いていて穴の部分に中が空洞の細い棒がついている……」
ふたりとも全くピンときてないな?
「すいません、紙と書くものください」
「ああ、これ使ってくれ」
「今の説明を絵にするとこんな感じです……正直、これで伝わらなければ絵も説明も限界です。諦めてください」
ふたりは身を寄せ合って紙を凝視している……
「ほほー、これはまた便利そうだね。エナくんこれの素材は何かな?」
「うむ。たしかに……これがあれば作業効率が上がりそうだな」
「わかってもらえてよかったです。素材はよくわかりませんけどガラスでできているものは見たことがあります」
だって、プラスチックとかシリコンなんてこの世界で発見されてるかわからないし、瓶が作れるならガラスがいちばん現実的かなって……落としたら割れるのが難点だけど。
「ふーん、そうか。ガラスかぁ……」
「マルガスさん、ポーションはまた今度ということで……」
「いや、ちょっと待て。ポーションは買うから……4本」
4本……それはさっさと引き上げる為だったのに。
はぁ、まあいいや。とっとと渡して帰ろう……マルガスさんにポーションを渡し、お金を受け取り席を立とうとすると
「ねぇ、エナくん……このロウト? 作ってみてもいいかな」
「いいですけど、わたしは作り方なんて知りませんので……」
「まあまあ、こういうの得意そうな知り合いがいるんだ。あ、もちろん商品化する時はエナくんに特許料が入るようにするから安心して」
……特許?
「いえ、そもそも私が考えたものじゃありませんし……特許もよくわからないので、もし作れたらわたしにも譲ってくれればそれで」
「うーん、欲がないなあ……じゃあ、私に任せてくないかな」
「えっと……よろしくおねがいします?」
なんかサブマスの瞳がギラッと光った気がするけど気のせい……だよね?
「あーあ、サブマスの好奇心を刺激しちまったか……こりゃ忙しくなるぞ……職人が」
すでに部屋を後にしたエナの耳にマルガスのつぶやきは届かなかったーー
後にサブマスが手配したエナの口座に特許料として大金が転がり込むことをこの時のエナはまだ知らない……
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
神様がチートをくれたんだが、いやこれは流石にチートすぎんだろ...
自称猫好き
ファンタジー
幼い頃に両親を無くし、ショックで引きこもっていた俺、井上亮太は高校生になり覚悟をきめやり直そう!!そう思った矢先足元に魔法陣が「えっ、、、なにこれ」
意識がなくなり目覚めたら神様が土下座していた「すまんのぉー、少々不具合が起きてのぉ、其方を召喚させてしもたわい」
「大丈夫ですから頭を上げて下さい」 「じゃがのぅ、其方大事な両親も本当は私のせいで死んでしもうてのぉー、本当にすまない事をした。ゆるしてはくれぬだろうがぁ」「そんなのすぎた事です。それに今更どうにもなりませんし、頭を上げて下さい」
「なんて良い子なんじゃ。其方の両親の件も合わせて何か欲しいものとかは、あるかい?」欲しいものとかねぇ~。「いえ大丈夫ですよ。これを期に今からやり直そうと思います。頑張ります!」そして召喚されたらチートのなかのチートな能力が「いや、これはおかしいだろぉよ...」
初めて書きます!作者です。自分は、語学が苦手でところどころ変になってたりするかもしれないですけどそのときは教えてくれたら嬉しいです!アドバイスもどんどん下さい。気分しだいの更新ですが優しく見守ってください。これから頑張ります!

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる