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第7章

92.女神見習い、ダンジョンへ行く 〜side リディア〜

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 「ただいまー」
 「ん、おかえり」
 『おう、帰ったか。リディは今日も無事だったぞ!』
 「「おかえりー」」
 「リディ、ちょっと話があるんだけど……」
 「ん、なに?」
 『リディに?何だ?』

 みんなリビングに移動し、エナの話を聞いた。

 エナの知り合いの弟が呪いに侵されていること、それを治すためにはわたしに使ったポーションがいること、そしてそのポーションの材料を採りにダンジョンというものに行くということ……

 呪い……その言葉を聞いた時思わずビクッとしてしまったけど、自分の体から嫌なものが出ることはなかった。ここに来てから数えるほどしかアレは出ていない……このままずっと出なければいいのに。

 「期間はそんなに長くないんだけど、リディ……留守番を頼めるかな?アルさんとメルさんにも他の神様が泊まりにきた時はリディをフォローして欲しいんですけど」

 留守番……少し不安だけど、たくさん材料を取ってきてわたしのポーションを作ると意気込むエナを見て、わたしも頑張ってみようと思う。
 
 「ん、わかった」
 『俺がいるから平気だぞ!』
 「うむ、任せておけ」
 「そうよー、任せてちょうだい!それに、あの子は早く解呪ポーションを飲ませてあげたほうがいいわ」
 「メルさん……そうなんですね。一応食べるものは置いて行くけど、できればリディとブランの食事をお持ち帰りもお願いします」
 「任せなさい!美味しいたくさん食べ物持って帰るから」
 「うむ、そうじゃな」

 食事……そうだ。エナがいない間にお母さんのレシピを練習してびっくりさせよう。後でアルさんとメルさんにも相談してみようかな。

 出発の日、エナは朝いちばんに挨拶をして瞬間移動していった。

 「行っちゃった……」
 『そうだな。たくさんポーションの材料持って帰るといいな』
 「さて、わしもお仕事してくるかの。そうじゃリディちゃんご飯は何がいいかの?」
 「ワタシも行かなくちゃ……なるべく早く帰ってくるからね!」
 「ん……お母さんのレシピの料理を練習したいからその材料を……」
 「ふむ……もちろんわしらにも食べさせてくれるんじゃろ?」
 「ん……」
 「わかったわ、任せなさい!」

 それぞれに必要なものを告げ……ほんとはそこまで必要じゃないものもあったけど、どちらか片方だけっていうのは悪い気がして……

 「「じゃあ行ってくるぞ(わ)」」
 「ん、行ってらっしゃい」

 宿は他の神様が泊まりにくることはなかった。いつものように畑の世話をして、掃除を済ませ、魔法の練習をしつつ美味しい魔物がいないか期待して探してみたけど見つからなかった……残念。
 よし、お母さんの日記のレシピで料理を作るぞ。
 あ、そうだ……

 「ブランは卵とか食べるの抵抗ないの?」
 『ん? 何でだ?』
 「だって……」
 『あー、卵を産む鶏とは全くの別物だし、リディの作るものならたとえ同族でも食うぞ?』
 「……ん、そう……」

 ブランが嫌ならやめようと思ったけど、問題ないならいいや。
 今は材料が揃ってないからまずはブラッドベアのステーキの練習しよう。お母さんのレシピにはないけど焼くだけだし、あのステーキ美味しかったから……

 エナにもらったエプロンをつけ、エナがいつもしているように髪の毛をまとめた。

 エナが置いて行ったブラッドベアのお肉を冷蔵庫(エナがそう呼んでた)というほんのり冷たい棚からから出す。お肉を適当なサイズに切ってほんの少し塩と胡椒をつけておく。包丁を使うときはブランがすごく心配してたけどちゃんと出来た。

 「ブランも食べるよね?」
 『おっ、その肉うまいよな!でも、火は危なくないか?』
 「ん、平気……」

 フライパンに油を入れコンロの火をつける。お肉を入れるとジュージューと美味しそうな音と匂いがする。

 『気をつけるんだぞっ』
 「ん」

 焦げないようにひっくり返しながら焼いていく。エナは何でこれで炭ができるのかな……焼けたお肉をお皿に移して……

 「ん、出来た」
 『おおっ、さすがリディ! 早速食べてみよう』
 「ん」
 『うまいな!エナの1000倍はうまいぞ!』
 「ただ焼いただけなのに……」

 あっという間に食べ切ってしまった。でも、これならエナもたくさん食べてくれるかも……

 「帰ったぞ」
 「ただいまー!って、なんでアルもいるのよ」
 「おかえりなさい」

 行ってらっしゃいしてからお昼前には帰ってきたアルさんとメルさん。いつもより早いけど……

 「うむ、考えることは同じか……」
 「はぁ。リディちゃんを独り占めできると思ったのに……」
 「それはともかく、いい匂いがするな?」
 「あ、ワタシもそう思ってたっ」
 「ん、お肉焼いたから」
 「「じゃあ、リディちゃんの手料理をくれるか(しら)?」」
 「ん……そうだお願いした材料は」
 「「もちろんあるぞ(わよ)」」
 「ん、ありがと」

 材料のお礼にさっきと同じようにお肉を焼いて出す。出来上がった料理を食べるだけなんてなんだか悪い気もするけど、ブランが遠慮なんてしないで貰えるものは貰っておけと言うのでそうする。
 その間にアルさんとメルさんは材料をテーブルに出してくれたみたい。卵とベーコンはアルさんが……果物を絞ったジュースと柔らかいパンはメルさんが。
 それもかなり大量に……食べきれるかな?

 「アル、すごく美味しいんだけど……」
 「うむ……愛情の差かのぉ……」
 「やだっ、それならワタシのお肉の方が……」
 「いや、わしの方が……」



 そんな2人を横目にまずはお母さんの日記のあるページを開く……帰ってきたエナをビックリさせるんだ。

 よし、まずは手を洗いなおして一緒に野菜の土も落とし材料を切る。
 ベーコンはひと口大に。玉ねぎはくし切りに。人参とじゃがいもは乱切りに。お母さんのメモのとおりに切って……

 コンロに魔力を流し火をつけて炒める……ブランを筆頭にアルさんやメルさんまで私の一挙一動を見守ってる……もう食べ終わったのかな。なんだか余計に緊張してきた。
 ある程度火が通ったら水を加えて煮る。蓋をしたら野菜が柔らかくなるまで煮る。塩、胡椒で味を調えて出来上がり。うん、これでいいはず……

 次は目玉焼き。
 何回か卵を割るのを失敗したり、焦がしたりしちゃったけど、それらはすでに後ろにいる彼らの腹の中だ。
 だんだんコツがつかめてきたと思う。

 そうして出来上がったスープや目玉焼きを美味しいって食べてくれて……ほんの少しだけ自信がついた。

 そのあとも畑の世話や宿屋のお仕事をこなしつつ、暇を見ては料理の練習をした。
 最初はぎこちなかった包丁さばきもだいぶマシになったと思う。
 少しでも怪我をしそうになると文字通りブランが飛んできて心配そうに周りを飛び回っている。
 ほんとはやめさせたいけど、手料理も食べたい……みたいな感じ。
 でも、朝昼晩と同じ食べ物でも文句も言わず、明らかに失敗でも美味しいって食べてくれるのは申し訳ない気分だったり……
 
 そうして過ごすこと数日……

 「ただいまー」
 「「「おかえりー(なさい)」」」
 「あれ、なんでアルさんもメルさんもまだいるんですか?」
 「昼休憩じゃ」
 「そうそう。ちゃんと朝のうちに仕事はしてきたから安心して」
 「そうですか、リディこれ作ったから飲んでみてほしいんだけど……」
 「……ん」

 エナが作ったというポーションを受け取り飲んでみる……味もこの前と変わらず美味しい。

 「おっ、効果あるようじゃな」
 「よかった。味変じゃない?大丈夫?」
 「……ん、平気」
 「そう?よかったー。ジャックの件もあるから今日もお願いしていい?」
 「ん」
 「まかせといてよ。私がいるから平気よねー」
 「くれぐれも無理はさせないでくださいね?夜には戻ってくるからね」
 「ん、わかった」
 
 エナはすぐに出て行ってしまったけど今日の夜には帰ってくるというので気合を入れて作らないと。喜んでくれるといいな……
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