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第9章
116.女神見習いとアラクネ
しおりを挟むダメ元だったけど、魔物は高位の種なのか言葉を理解していたみたい。
『アラクネさんです!このアラクネさんはリーダーなので助けないと配下のアラクネ達が暴れ出すです!』
え、まじかー……どうしよう。
「我ヲ殺セ……コノママ自我ヲ失ウマエニ、ハヤク」
狂暴化する一歩手前みたいだけど、自分を殺してくれなんていう魔物に初めて会った。こできることはしてみようと色々試してみる……ポーションはダメ。回復魔法もダメ……浄化してみたら
「おっ、うまくいったかも」
よかったー……
「ナゼ、タスケタ?ニンゲン、我ラ殺ス……」
「うーん。意思疎通のできる魔物で私を襲わないなら、自分からわざわざ攻撃する必要はないかなって。それにあなたは襲おうと思えばできたのに襲ってこなかったじゃない?それに私は鉱石採掘に来たんであってあなたを殺すために来たわけじゃないし……いくらライムのお願いでも、あなたの狂暴化が止まらずに攻撃されていたらやり返してたとは思うけどね」
「フン、オマエヘンナニンゲンダナ……ココニアル糸スキナダケモッテイケ」
それってお礼って受け取っていいのかな?
「えっ、糸?なんかネバネバしてるけど……」
「我ラノ糸ハ、時ガタツトネバネバシナクナル。獲物ノタメニアラタナ罠ヲツクル。古イノナラ、ネバネバシナイ」
「へえ、そうなんだ。じゃあ遠慮なく」
ネバネバしない糸を選び回収していく。ライムも手伝ってくれてるけど、それ捕獲されてるみたいになってるよ?
「ねえ、ちなみにこれって編んで布に出来たりするの?」
「フン、我ラニハタヤスイコト」
目の前でささっと糸が編まれていき、10センチ四方の布が完成した。その間に小さな蜘蛛がどこからともなくワサワサ出て来てリーダーの周りに集まってきていた。これもアラクネなのかー……ほぼ蜘蛛にしか見えないけど。やっぱリーダーだから女性の上半身があるのかな?それとも大人になると進化するとか?
ただね、その量に若干引いた……あんまり大量にいると気持ち悪く感じるのは私だけ?ライムは戯れてるもんねー……でもこの蜘蛛全てが暴れ出してたらやばかったかも……通りで坑道内でどこからかカサカサ動く音が聞こえたわけだね。
「フン、デキタゾニンゲン」
「おお、すごい!ねえねえ、これってもっと作れたりする?」
流石に断られるかなーって思ったけどどんどんとハンカチサイズやタオルサイズなど山ほど望み通りのものを作ってくれた。うん、具体的には古い罠がなくなって蜘蛛たちがどこからか(多分他の坑道から)糸を運んでくるまでかな……思わぬ収穫に頬が緩む。
「ありがとう!また罠が古くなったころに来るね。それまで元気でねー」
「……モウ、クルナ」
そういいつつもどこか嬉しそうなアラクネと別れリディたちとわかれた場所に戻る。
その後、エナが来ない間に古くなった罠でせっせと編み物をしているアラクネを見たものがいるとかいないとか……面倒で手もつけず住処を変えていたとは思えないほど楽しそうだとか……
まあ、エナは割と頻繁に訪れるのでそんなアラクネの姿はレアらしいけど。
◇ ◇ ◇
入り組んだ道をライムの案内で戻る……うん、これでライムが迷ったらリディたちと合流できないから、まじで頑張って!
進むうちにカーン、カーンとつるはしを振り下ろす音が聞こえてきてひと安心。
「おまたせー」
ちょっ、ブラン!私ってわかってて攻撃しようとしたね?まぁ、本気じゃないんだろうけど、ビビるからやめてほしい。
「ん、おかえり。ライムの用、なんだった?」
「なんかねー、アラクネが狂暴化するのを止めてほしかったみたい」
「アラクネですかっ……」
もう、ユリスさんたらそんなことで驚きすぎ……いい加減慣れてもいい頃なのに。
「あ、でもなんとかなったから安心して。ジャジャーン!これも作ってもらいましたー」
「ん、布?」
「そうそう。古くなった罠に使ってた糸なんだって。お願いしたら編んでくれたんだー」
「ん、すごい」
あれ、ユリスさんまた固まってる……うん、スルーでいいや。
「で、リディたちは採掘できた?」
「ん、少し増えた」
「おー。じゃ、そろそろ帰るってことでいい?」
「ん」
「いーよー」
『お婿さんはいなかったけど、お友達ができたです!また来るです!』
「……はっ!はい、帰りましょう」
帰り際、女神の聖域で水の中でも結界を維持できるのかちょっと気になり、びしょ濡れ覚悟で家の近くの湖に潜ってみたら成功した。
水中は若干濁ってて見づらいけど、釣ったことのある派手な魚や見たことのない魚がうようよと泳ぐ中、なんか遺跡チックなものを発見したけど十中八九ダンジョンぽいから見なかったことにした。
一旦戻るとみんなも行きたいというので少しだけ水の中へ……ダンジョンも興味津々だったけど、今日は鉱山で疲れたし、ここならいつでも来れるからもう少し強くなってからと理由をつけて回避した。
はじめての水中もみんな楽しそうだったのでよかった。気になった物はいくつかゲットするのは忘れない。
心眼の結果、拾った石は魔石が多いと発覚した、わーい。本当は魔結晶の方が嬉しいけどねー……他はユリスさんが使えるらしいので進呈。あと、地味に鱗が結構あった。うん、ドーラにでも売りつけよう。
「あ、鉱石は重たいので向こうの家で渡しますね」
「はい、お願いします」
「ん、ユリス……魔結晶と交換ね」
「うん、リディわかったよ」
ユリスさんの工房のそばに大量の鉱石を出し、魔結晶は私たちがもらうことになった。ユリスさんはしばらく工房にこもって鉱石からインゴットにしたり、それで何かを作ってみるらしい。ひとまず、胸当てや腕当ても問題なかったのでその場で微調整を済ませた。
「というわけなので今日から5日ほど、食事の支度ができそうにないんですが……」
がーん!食事担当がユリスさんだってことすっかり忘れてたよ……どうしようかな?
「ん、わたしに任せて」
「リディ……」
リディに後光が射して見える……
「ありがとう。もし大変なら黄金の羊亭にお願いしてもいいし……」
「ん、でも美味しい魔物ないから……」
「いや、リディ。別に美味しい魔物持って行かなくても普通に行っていいんだよ」
「ん、わかった」
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