83 / 120
第7章
83.女神見習いと受付嬢のお願い(2)
しおりを挟む「……ダンジョンですか? 訳を教えてください……それにどうして私なんでしょうか」
「それは……」
「いいよ、カーラ。理由は俺が話す」
「ジョセフ……でも、平気?」
「ああ、ステラ。大丈夫だ」
ジョセフに関わることなのかな?
「エナ……俺の弟のジャックは10日前、街の外の草原に薬草を採りに行った……これなら僕でも稼げるからって」
「はい」
「だが……帰ってきたその夜、突然高熱を出し寝込んでしまい……それからは弱っていく一方なんだ。草原には魔物なんて出ないはずなのに……教会に行ってもまだ女神様は降臨していなかったから、司祭に浄化を施してもらった。それもほとんど効果が無く……司祭も短期間でこんな悪化するなんて今まで見たことがない程だって……」
「そうですか……」
「ああ、とにかく力の付くものをと思い、なんでも試した。そして、エナの公認の中級ポーションがわずかに体調を好転させることがわかって以降、飲ませ続けた……ようやく5日前に女神様に浄化してもらえたが……今はポーションと女神様の浄化で生き長らえている状況なん……だっ……くっ」
ジョセフは顔を覆いそのまま黙り込んでしまう……
「ここからは私が。『深淵のダンジョン』で取れる材料で作るポーションが瘴気に効くらしいと話を聞いたの。でも、本当に見つかるかどうかはわからないし、レシピもはっきりしなくて……噂にすぎないかもしれない」
カーラは少し言いづらそうに
「それに間に合うかどうかも……エナには材料が見つかった時、どうにかそのポーションを作ってほしいのです。ジョセフの弟に効いたポーションを作れるエナにどうしてもお願いしたいくて今日ここに来てもらったの」
そんな訳だったのか……
「『深淵のダンジョン』は浅い階層は初心者向けだけど、下へ潜れば潜るほど危険で難しいダンジョン構造で有名で、その材料があると噂の場所もかなり下の階層らしくて。失礼は承知ですがエナはかなりの上位ランクなので腕も立つ。そう考えた結果エナしかいないんです」
「もちろん、ダンジョンで手に入ったものはすべてエナの物にしてくれて構わない。どうかジョセフとその弟のために協力してくれないか?」
「お願い……」
「お願いします」
「どうか、頼む……」
みんな頭を下げ、私の返事を待っている……まぁ、それぞれメンバーはギルドに関わってるっていうし、いくら秘密にしていてもランクは知ってるよなあ。
それについてどうこう言う気はない。そもそも公認になった時点である程度わかるのは仕方ないし。
それにしても強い魔物がいない草原(いたら絶対に話題になっているはず)で瘴気に侵されるなんてアレしか考えられないんだよなぁ……はぁ。
つまり、ジョセフの弟はその日呪われた人物と接触していた……というもの。
その人物から発生した瘴気に当てられ寝込んでいると考えられる。
それも、多少の呪いではここまで悪化はしない……かなり強い。それこそジョセフの弟の命を奪いかねない呪いだと思う。リディと同等の……いや、それ以上の。
瘴気に当てられた状態はいわば呪われた状態とほとんど変わらない。違うことといえば本人から瘴気が発生するかどうかぐらいみたい。
余談だが、瘴気にさらされてから時間が経ち過ぎると体が弱っていき抵抗力がなくなり完全に治すことができない。理由としては無理に浄化を続けると体が耐え切れず死亡してしまうため。
回復魔法を使えばいいじゃないかと思うが、なぜか瘴気が完全に浄化しきれていないと効果が出ないのだ。それなのにポーションはわずかながら効き目があるという。
つまり体力は回復させられるが瘴気には効果がないということ。
瘴気にさらされてから時間が経ってしまった場合の対処法はポーションで体力を回復させつつ、神様や教会で浄化をしてもらう。それを繰り返し打ち勝てるかどうかは本人の体力次第。時間がかかるため亡くなってしまうこともあるとか……
そうなることがないように教会には最低1人は浄化を使える者がいるが、やはり神と比べると効果に歴然の差が出るらしい。
呪われた人物でひとり思い当たるのはリディだけど、リディが原因ではないことは確かだ。
リディは草原まで行くことはない。行くとしても私と一緒だ。
それに最近のリディは滅多に濃い瘴気が発生しない。そもそも瞬間移動して街に直接来てるから草原を通ってすらないし……
うーん。強力な魔物が草原まで出てきた。もしくはリディ以外の呪われた人物か。どっちも噂になりそうなものだけど……はぁ。
それにしてもさ……さっきカーラが言ってた材料で作れるのってあのポーションだよね? リディにも使えるやつ。
アルさんにもらった材料で実験してできた解呪ポーション。さっき特許申請してきたばかりの……アルさんもたまたま手に入れただけで、使い道もなく持て余していたので宿代としてくれたらしく、魔結晶がどこにあるかまでは把握していなかったのでこれは大きな情報だ。
魔石はたくさんあるんじゃが……と残念がっていたのもつい最近の話だ。
ジョセフの弟がメルさんの浄化とポーションでなんとか生き長らえているということは正直あまり時間がないと思う。いつ命の灯火か尽きるか……話を聞く限り、そのダンジョンで探しに行くのは魔結晶のようだし、他の材料は比較的揃えるのが容易だ。
考える余地はない。行きます、即答です。
「わかりました。ダンジョンへ行きます。その代わりポーションの材料以外の物はきっちり等分にしてください。その他、ポーションに使える材料は遠慮なくいただきます。あとは、これが今持ってるポーションです。弟さんにどうぞ……上級じゃなくてごめんなさい。ダンジョンで材料が揃ったらそれも作りますね」
とりあえず手元にあった中級ポーション3本を渡し、1度状態を見たいと明日ジョセフの弟さんに会いに行く約束を取り付けた。
あー、納品前ならポーション腐るほどあったのに……しかも渡せたのは品質:可だけしかなかったよ。初級なら多少あったんだけどなぁ……
「ありがとう、ありがとうっ」
「でも、戦闘には全く自信がないので……」
今までの魔物に関しては、ほぼまぐれですからね……
「そこは俺たちが力の限りフォローしますから」
「ああ、もちろんだ!」
「「まかせて!」」
「よろしくお願いしますね。それと、カーラの言っていたポーションのレシピも多分わかると思います……さっき特許申請してきたので」
「「「「えっ」」」」
「すいません、こちらも事情があって……魔結晶はたくさん欲しくて」
「そ、そうですか」
目に涙を溜めて頭を下げたり驚いて固まっているメンバーをなだめつつ時間がないので、話を詰めることにした。
なるべく早い方が良いというので、明後日の早朝に出発。
装備は各自で用意し、道中の手配はカーラがすることに決まった。
一応自分でも準備しておこう。特にポーションの材料は念入りに準備しよう。
明日、ジョセフの弟にポーションを届ける約束をして早々に帰宅した。
リディたちにも説明しないといけないし、明日渡す分とダンジョン用にポーションも作らないと……
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
神様がチートをくれたんだが、いやこれは流石にチートすぎんだろ...
自称猫好き
ファンタジー
幼い頃に両親を無くし、ショックで引きこもっていた俺、井上亮太は高校生になり覚悟をきめやり直そう!!そう思った矢先足元に魔法陣が「えっ、、、なにこれ」
意識がなくなり目覚めたら神様が土下座していた「すまんのぉー、少々不具合が起きてのぉ、其方を召喚させてしもたわい」
「大丈夫ですから頭を上げて下さい」 「じゃがのぅ、其方大事な両親も本当は私のせいで死んでしもうてのぉー、本当にすまない事をした。ゆるしてはくれぬだろうがぁ」「そんなのすぎた事です。それに今更どうにもなりませんし、頭を上げて下さい」
「なんて良い子なんじゃ。其方の両親の件も合わせて何か欲しいものとかは、あるかい?」欲しいものとかねぇ~。「いえ大丈夫ですよ。これを期に今からやり直そうと思います。頑張ります!」そして召喚されたらチートのなかのチートな能力が「いや、これはおかしいだろぉよ...」
初めて書きます!作者です。自分は、語学が苦手でところどころ変になってたりするかもしれないですけどそのときは教えてくれたら嬉しいです!アドバイスもどんどん下さい。気分しだいの更新ですが優しく見守ってください。これから頑張ります!

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる