異世界トリップしたら女神(見習い)でしたが一般人として自由に生きていこうと思います

瑞多美音

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第6章

73.女神見習い、ドワーフを拾う(1)

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 ある晴れた日、すっかり慣れた街の家に瞬間移動すると何やら様子がおかしい……
 いつもならすぐに出迎えてくれるはずの精霊のキュリエルの姿が見えない。

 「ま、こんな日もあるか」

 なんとなく不審に思いつつも玄関を開ける、と……ドアの目の前に行き倒れ……まさかの死体?

 「ま、まさかね。キュリエルがなんかやらかしちゃった(殺したとか)んじゃないよ……ね?」

 扉に手をかけたまま、いつになく動揺すること数十秒……

 「…う…うん……」
 「あっ、良かったー!生きてた!」

 死体じゃなかった!……あれ?でもこの家の門には魔道具ついてるし、それより何より精霊のキュリエルが家を守ってるはずだよね……ドーラさんだってリュックが出来上がって以来入れてもらえなかったのに……

 「どうやって入ったのかな?……まさか、不法侵入?」

 ……ぐるるるぎゅうっ

 「な、何か食べものを……」

 物乞い?にしては格好が綺麗すぎるし、なんか大荷物だし……追い出すべきか家に入れるべきか……ほら、女の子がひとりの時に家に入れるのもどうかなって……え?誰があんたは例外だだって? ちょっとこっち来て詳しく話そうか……

 まあそれは置いといて……というかひとりで迷ってるうちにキュリエルが家の中からスープとパンを持って出てきた。
 え、これ誰が作ったの……ま、まさかキュリエル料理できたの?

 「あれ、キュリエル。ずっと家にいたの?その食事はどうしたの?」

 新品のリュックを背負ったキュリエルが何故かニコニコしながらスープとパンを男の前に置く

 「そうだよ! 僕この人、気に入っちゃった。ほら、家に入らないと意思疎通が取れないから頑張ってここまで誘導したんだけどさ、力尽きちゃったんだよ……あ、それとこれはこの前、エナが練習に作ってたやつだよ」

 ああ、リディの前では失敗出来ない(というか、失敗するとブランの視線がすごい)から、料理スキルのレベル上げも兼ねてこっちで料理練習したんだった……で、でもそれ、久しぶりに大失敗したやつじゃないか?やばくない?パンはキュリエルが食べてみたいっていってたから置いていったけど、スープは完全に持て余して忘れて帰ったんだよね。
 それにいくら涼しくなったからって腐ってない?大丈夫?
 
 突然現れた食事に疑問を持つことなくバクバク食べる。ものの数分で全て食べ尽くし……あの、あまり? 美味しくない料理を完食しましたけど、実は美味しかったり…しませんよねー。ぐすん。空腹は最高のスパイスですかそうですか。

 「ありがとうございます。お陰で助かりました。私はユリスと申します。ところでここに住むマリーとフィンというご夫婦はいらっしゃいますか?」

 あちゃー、前の住人さんのお知り合い……しかも亡くなったことを知らない様子。
 もしかしたらキュリエルが気に入ったってことは過去に会ったことがあるのかも? と、いうかこの人キュリエルの声が聞こえてないみたいだから、今まで私が結構大きな声の独り言話してたみたいになっちゃうじゃん!?

 「あのっ、とりあえずお入りください」

 私が不審者だと認識される前に!

 ユリスさん? が家に足を踏み入れた瞬間

 「あー良かった。これでやっと話せるよー」
 「せせせ、精霊っ!?」
 「彼は精霊のキュリエルです。私はエナと申します。精霊使いと鍛冶職人のご夫婦は残念ながらすでに亡くなり、先日私がこの家を買ったんです」
 「そうでしたか……幼い頃に世話になったのでご挨拶をと思い訪ねたのですが……そんなこととはつゆ知らずご迷惑をおかけして申し訳ありません」
 「いえ、この家や敷地は精霊のキュリエルが認めたものしか入れませんので、あなたが気にすることではありませんよ」
 「そうだよー。僕が入れてあげたんだよ。君のこと覚えてるよ!おじいさんが可愛がってたよね。僕はいたずらするから近寄っちゃダメって言われてたし、姿は見せてないけど!」

 キュリエル、そんなことしてたんかい……

 「そうだったんですか……あの頃時々、勝手に物が移動したり背後に気配を感じたりして怖がっていたんですが、まさか精霊だったとは」
 「あの、それで今日はどうして?」

 詳しく聞くと彼はドワーフだという……見えない。
 普通の人間と変わらない容姿をしていると思う。20代前半に見えたがユリスさんは30歳だという。うん、見えないなー。
 なんでもドワーフの成人は30歳で成人すると成長はゆるやかになるんだとか。へー。ちなみに平均寿命は150歳らしい。

 「私には許婚がおりまして、こんな容姿でも結婚してくれるということで、彼女が成人になるのを待ち結婚する予定だったのですが……もう、半年前になるでしょうか。その許婚は成人する前に集落から出て行ってしまったんです。それ程、私との結婚が嫌だなんて気づきもせず……元より人間のような容姿のドワーフは集落の一部の者には一種の呪いだと考えられているんです。そのため一部の者には避けられていたんですがそれも悪化してしまって……」
 「へえ……」
 「そんなこともあり、集落にいづらくなってしまいまして……いなくなった許婚を探すという名目で半月ほど前に集落を出てきたのはいいのですが、荷物は仕事道具以外はわずかな金と食料のみで……本音を言えばご夫婦に仕事を紹介していだだけないかと思いまして訪ねたんです。ですが、この街に到着して金や食料も尽きてしまい、恥ずかしながら生き倒れる寸前でした……」

 ここを頼りにわざわざ来たんだ……生き倒れる寸前って……さっきのあれはなんだ? すでに倒れてだけど?

 「へえ、そうだったですか……ちなみに、これからどうするつもりなんですか?」

 これこれ、キュリエル。そんな期待した目で私を見るんじゃない。

 「噂で彼女がこの周辺の街のどこかで冒険者をしていると耳にしまして、できれば探し出して許婚の証であるこの腕輪を返そうかと……」

 彼が手に持っていたのは繊細な細工の施された腕輪だった。

 「綺麗な腕輪ですね……え、返すんですか?わざわざ追いかけてきたのに?」
 「ありがとうごさいます。これは私が婚約の証に丹精込めて作った揃いの腕輪なんです。本音では彼女と一緒になりたかったです……でも私はこんな容姿ですから、彼女にはもっとふさわしい男がいるはずです」

 互いに交換した腕輪を返すことにより婚約破棄を了承したことになるらしい。ふーん。
 すっかり肩を落としてしまったドワーフのユリスさん。
 こんな容姿って……背は私より頭ひとつ分大きく、つるんとした肌、高い鼻、茶色の瞳、こげ茶色の髪を後ろでひとつにまとめた姿はイケメンだと思うけど……きっとドワーフらしくはないんだろう。髭も全然ないし。
 筋肉も普通の冒険者よりないかもしれない。それで集落で色々と苦労して自分に自信が持てないってことなのかな……

 「そうですか……それより、ここ以外に仕事のアテはあるんですよね?」

 またどこかで行き倒れなんてことになったら後味悪いから、一応そこらへんは確認しておきたい……なんか隣でワクワクしてるやつ(精霊)がいるんですけど……あれ、なんだか嫌な予感がしてきたな……

 
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