異世界トリップしたら女神(見習い)でしたが一般人として自由に生きていこうと思います

瑞多美音

文字の大きさ
上 下
71 / 120
第6章

71.呪われた少女と美味しい魔物(2)

しおりを挟む

 荷車を頑張って引いてギルドへ向かう……公認だと裏口から荷車で直接買い取りへ持ち込めるんだっけ。何気にギルドの裏口使うの初めてなんだけどね。

 トントンーー

 「おう、来たな」
 「あれ、マルガスさん……なんで?」
 「もうそろそろ来る時期だろうと思ってたら、さっき冒険者が言ってたんだよ。お前が荷車必死こいて引いてたから手伝おうかと声をかけようと思ったけど、キラーバードの威圧に負けたってな」
 「……はぁ」

 そのブランが荷車に乗ってたから余計に重かったんですけどね。本人的にはリディのブラッドベアを盗られないように威嚇してたんじゃないかな……私のためなんてことはないよ、うん。

 「そうですか……こちらはリディとリディの従魔のブランです」
 「ん、はじめまして」
 「おう、知ってるぞ」
 「なんでですか?」
 「そりゃ、この街じゃ従魔は滅多にいないから目立つし、エナが後見人なんだから把握してて当然だろ」

 確かに……そうかも。

 「そうですか。今日はリディたちも一緒でお願いします。あと、荷車のなかを見ても驚かないでくださいね……」
 「はあ、お前珍しく荷車で来たかと思えばまたなんかやらかしたのかよ」

 いえ、今回は私じゃないんですよね……

 通路もギリギリ通れる広さで荷車ごと部屋へ案内された。まぁ、そういう設計なんだろう。いつもより大きくて違う部屋だけど……配置は大体一緒だ。

 「じゃ、さっそく本題に入ります」
 「おう」
 「今日はポーションの納品とブランの羽の買い取り……と、ブラッドベアの買い取りをお願いします」
 「……はぁ?」
 
 やばいっ。マルガスさんの眉間のシワが……かつてないほど深くなっているっ。
 急いで荷車のカバーを外して……

 「それから、今回のブラッドベアはなわばり争いかなんかで弱っていたところをリディとブランが倒したそうなんですが……年齢的に討伐にはならないですよね?」
 「ちょっと待て! 本当にこの嬢ちゃんと従魔が倒したってのか」

 おーおー、ブランがめっちゃ威嚇してる。マルガスさんには全く効いてないけど……
 
 「ん、私が熊の気を逸らしてブランが頑張った」
 「だそうです……ほら、ブラッドベアの眉間に穴があるでしょう」
 「……確かに」

 マルガスさんは深いため息をついたまま固まってしまった。きっと頭の中で色々と整理してるんだろう。
 では、お茶でも入れて待ってますかな……お茶を飲みつつ荷車に乗らなかった残りのポーションを台に並べていると

 「はぁ……エナ。悪いがこれはサブマス案件だ」
 「やっぱりそうなります?」
 「ああ、呼んでくるから待ってろ」
 「はい」

 マルガスさんは早足で出て行ってしまった。

 「リディ、今からくるサブマスは突拍子もないこと言うけどあんまり本気にしなくていいし、嫌だったらハッキリ言わないと伝わらないからね。あと、扉をバーンて開けて人が驚くのを楽しんでる節があるから気をつけて」
 「ん……」

 これくらい予防線を張っておけば、リディも心の準備ができるだろう。

 バーンッ!!

 「やあ、エナくん……メリンダに聞いたよ!これまた厄介な家を買ったんだってね」
 「はぁ……」
 「おや、そっちは噂のお嬢さんとその従魔だね」
 「ん、はじめまして。リディ……こっちはブラン」
 「はぁ、サブマス。とりあえずさっきの件を」
 「そうだったね。んー、2人ともギルドカードを見せてくれるかな?」
 「はい」

 サブマスはリディと私から受けとったギルドカードをチェックしている。

 「んー……残念だけどやっぱり討伐記録が残ってないなぁ」
 「そんなことあるんですか?」
 「うん、後見人がいる場合そっちに記録が残ることもあるんだけどこっちもないし……あ、別にリディくんと従魔が倒したのを疑ってる訳じゃないからね?」
 「っていうかエナ、お前また討伐記録増えてんじゃねぇか!」
 「えっ、そうでしたっけ?」

 んー、あの時の足元から飛び出して来てびっくりして攻撃したワームかな?それとも木の上から落ちて来て思わず攻撃した蛇かな……あ、でもアント系の魔物はよく遭遇してるしなぁ……なるべく攻撃しないようにしてるんだけどなぁ。

 「お前……ワームにポイズンスネーク、ヒュージアントにキラーアント……素材は?」
 「あ、ありますっ。魔核以外はいりませんので!」
 「はぁ……」
 「ねえ、話を戻してもいいかな?」
 「ん、別に記録なくてもいい……」
 「そうなの? え、じゃあ買い取りだけでもいいの」
 「ん、私は別に……ブランも食えないものはいらないって」

 食えないものって……食いしん坊みたいな理由だな。

 「あ、ブラッドベアのお肉はこっちで使いますので……魔核以外の素材の買い取りをしてほしいんですけど……」
 「わかった。マルガス鑑定よろしく」
 「ああ」

 サブマスはニコニコとご機嫌だ。

 「そういえば、以前カーラさんに尋ねていたリディの口座の件なんですけど……」
 「あー、それね。いいよ!開設してあげる」
 「ほんとですか?」
 「うん、ブラッドベアのお肉を少し分けてくれるなら」

 あちゃー、この人ブラッドベアのお肉の美味しさを知ってるんだわ。

 「リディ、サブマスに分けてもいい?」
 「ん、エナが買ったんだから好きにしていい」

 それを聞いていたマルガスさんまで

 「できれば俺にも少し分けてほしい」
 「リディ……どうしよっか」
 「……ブランが買い取りに色をつけるならって言ってる」

 いやいや、ブランさんどこでそんなこと覚えたの?

 「すまん、それはできない。肉を買い取るってのはどうだろうか」
 「ん……私はそれでもいい」
 「じゃあ、1キロ小銀貨2枚で」
 「それはっ、安すぎないかっ?」
 「えー、嫌ならいいです」
 「……それで頼む」

 まあ、3メートルから5メートルにもなるブラッドベアから取れるお肉だから1キロぐらいならいいかなって……

 「ただし、他の人に言いふらしちゃダメですよ! 私たちの分がなくなっちゃうので」
 「……わかった」

 マルガスさんはなんだか嬉しそうに鑑定へ戻った。

 「じゃ、僕もちゃっちゃと口座開設しちゃうねー」
 「あ、お願いします」
 「……口座?」
 「リディごめん、勝手に話を進めちゃって。口座っていうのはギルドにお金を預けて好きな時に引き出せるんだけど……ほら、ブランの持てるお金にも限度があるし、大金になると持ち歩くのも不安でしょう」
 「ん……」
 「もちろん口座に預けたくないなら、それでもいいし作っておいて損はないと思うの」
 「ん、わかった。口座、作る」
 
 ブランは自分がいくらでも持つって言ってるみたいだけど、ブランのソレはマジックバッグじゃないから容量に限りがあるんですよ。

 「はい、できたよー。受付でギルドカードを出せばいつでも出し入れできるからねー。あと、後見人も被後見人の口座にお金を入れたり出したりできるようになってるから」
 「へえ……」
 「くれぐれも悪用はしないように」
 「いや、しませんから!」
 
 さっそく、ブランが気を逸らしているうちにサブマスにリディ貯金を口座に入れてもらった。
 ちょっと耳打ちしただけでこの連携プレーすごいよね。

 「鑑定が終わったぞ……少し傷が多いから全部で銀貨8枚と小銀貨7枚ってとこだな」
 「ん、それでいい……銀貨5枚は口座に入れて」
 「わかった。エナの方はいつも通りだったぞ……素材の代金はどうする?」
 「はい。じゃあ、私も金貨は口座に入れてください」
 「わかった。ちょっと待ってろ」

 リディは残りのお金をブランのリュックと自分の巾着に分けていた。
 その間にサブマスとマルガスさんのお肉を取り出す……けど

 「なんか、入れ物あります?」
 「うん、ほらちゃんと皿を用意した僕ってすごいよね。ほら、マルガスもこれでいいよね」
 「ああ……」

 なんだか高そうなお皿の上に生肉……いいのかな? 私、しーらない。
 
 「では、また……」
 「おう、気をつけてな」
 「はい」
 「ん」
 

 さて、ギルドへ納品を済ませたし、代金も受け取ったから……頭の中でやることを確認する。次は肝心の料理人のところへ行かないとっ。

 「リディ、行こっか」
 「……ん」

 軽くなった荷車を引きながら向かうのは……もちろん『黄金の羊亭』だ。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...