58 / 120
第5章
58.女神見習い、ギルド公認になる(3)
しおりを挟む面倒ごとは1日で済まそうと冒険者ギルドよりも少し裕福な地区にある商業ギルドへ登録に向かう……なんか、このまま行かずに放っておいたらサブマスが暗躍して余計に面倒なことになりそうな気もするからさ……
あ、荷車と木箱はとりあえず冒険者ギルドに預けてきたよ。
さっそく商業ギルドの扉をくぐるーー
おぉー……なんか冒険者ギルドと比べると高級感漂ってるし、何よりほとんどキレイな格好をした人ばかり……冒険者ギルドは魔物の返り血や泥など結構汚い人も多いから余計にそう感じる。
決して悪い人じゃなくてもそういう時は遠巻きにしてしまいがちなんだよね……カーラさんとはそういう鉢合わせをしたことないけど、そうなったらどうしようとか、つらつらと考えてみる。
……というのもなんか、ギルド内へ入った途端にほぼ全員から値踏みされているような視線を感じるんですよ……やっぱ冒険者の服のままじゃ目立つのかな?
はぁ……ワンピースにでも着替えればよかったかもしれない。
でも、出直すの面倒だし……帰ったらもう1度ここまで来るの嫌になりそうだからなぁ。
商業ギルドも造り的にはやはり役所のようだったけど、高級感が段違いだった。
パッと見渡した限り、食堂のような飲食スペースはないみたい。お茶くらいなら飲めそうだけど。でも買い取りカウンターはあるかな。
正面にカウンターがあるところも一緒だな……さて、大人しく列に並びましょう……と思ったら知らない人に声をかけられてしまいましたよ。
「お嬢さん、ここに何しにきたんだい?」
「えっと、商業ギルドへ登録しにきました」
すると周りにいた数人が馬鹿にするように鼻で笑った。なんですかー、あなたたちは。
「ふっ、お嬢さん。ギルドをお間違えじゃないかい? ここは冒険者ギルドじゃなくて商業ギルドだ。登録するにもかなり金がかかるんだよ」
「はぁ……」
なんだ?この脂ギトギトのぽっちゃりおじさんは。さっき商業ギルドに登録に来たって言ったじゃないか。耳が悪いか妄想癖があるんだな、きっと。うんうん。
……知らないうちに周りの人も野次馬が増えてるし。馬鹿にしたような人もいるけど、中にはぽっちゃりおじさんの言葉に顔をしかめている人もいる……てことはやっぱこれ、絡まれてるのか、はぁ。
「ほら、わかったらさっさと出て行きなさい……それに、たとえお金を持って商業ギルドへ登録をしにきても紹介状がなければ登録は難しいよ。商人は評判が重要視されるからね」
へぇ、そうなんだ。
「あ、あります。紹介状……っていうか受付空いてるなら進んでもいいですかね?」
「っ……誰の紹介状なんだい? まさか冒険者のお友達かい?」
また、どこからかくすくすと笑い声が聞こえる。ねえ、これいつまで付き合わなきゃいけないの?
冒険者ギルドの時はこんな突っかかられることなかったんだけど……はぁ、めんどくさい。
「いいえ、お友達ではないです……知り合い? の人になんか、無理やり持たされたんですよねー」
そう、私はほぼ無理やり紹介状を2枚持たされたのだ……うん、拒否権はなかったと思う。
「とりあえず受付させてやればいいではないか。そうすれば受付がきちんと対処してくれるさ」
あ、さっき顔をしかめていた人だ……ぽっちゃりおじさんは対処が追い出されるという風に取ったみたいだけど、裏を返せば紹介状が本物ならきちんと登録できるということだ。
「ふんっ!☆3つが偉そうにっ。俺は☆4つだぞ!」
星3つとか4つとか……なんのことだろ。思わず料理番組を思い浮かべてしまった私は悪くないと思う。
星4つのぽっちゃりおじさんの方が偉いってことみたいだけど……まぁ、いいや。とりあえず受付へ進もう……ってまだ邪魔すんのかいっ!
あ、ぽっちゃりおじさんのせいで、私より後から来た人が先に受付に並んだじゃないかぁ。なんでその人のことは囲まないんだよー。ずるいぞー。
よそ見をしていることが気に入らなかったのか
「おい、優しくしてたらいい気になって!お前の紹介状なんて偽物だろうがっ」
なんて言ってくるんですよ……ねぇ、ぽっちゃりおじさん。つば飛ばさないでほしいんですけど。
まぁ、透明な結界があるから被害はないんですけどね……魔力消費激しいけど初めていく場所だから念のため結界張っといてよかったよ。触れられたらバレるけど、てか相手突き指するけど……見た目だけならバレないはず……
「はぁ……いい加減にしてくれませんか? 紹介状を見せたら通してくれるんですね?」
「ふんっ、そんなに自信があるなら見せてみるがいいっ!」
ぽっちゃりおじさんも何故か自信満々だし、なんか野次馬もジリジリと寄って来て包囲網が狭まってるし……あー、そのせいで止めに入ろうとしたらしき職員さんがもみくちゃにされてますね。うん、もう少し早くに止めに入ってくれたらそうなってないと思うよ。だって、さっきの人は普通に通って受付してたもんね。
このままじゃラチがあかないので、仕方なくサブマスとマルガスさんのサイン入りの紹介状をゴソゴソとバッグからそれぞれ取り出してぽっちゃりおじさんに突きつける……もちろん手には取らせませんよ。持たせたら最後、偽物だとかいってビリビリに破られそうだもの。
まぁ、破られたとしてもサブマスとマルガスさんにもう1度お願いすれば書いてくれそうだけど……そういうの面倒だから破らせないよ!
あれ? 見せた途端ぽっちゃりおじさん含め周囲を囲んでいる大多数の人がなんか固まったな……見えなかったのかな? いやいや、ちゃんと書いてあるし。1通はちょっと変だけどね。
「おい、あれって……」
「うわ、まじかよ……やべぇわ」
「誰かメリンダさん呼んでこいよ」
「お前が言えよ」
「いやっ、お前が……」
「俺ちょっと用事を思い出したわ」
「「「俺もっ」」」
何人かが用事を思い出したらしく帰っていったおかげで、職員さんがようやくこちらまで来てくれた。なんだか気弱そうな男の人だ。
「すいません。紹介状を拝見してもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ……」
2枚の紹介状を受け取って確認した職員さんが……ブルブル震えだした。え、なんで?
「少々、お待ちくださいっ……」
「はぁ」
なんか、奥の部屋へ慌てて飛び込んでいったよ……その時の周りの人の動きったら割れるように道ができたよね……私もこのまま受付に進みたい。ちっ、閉まりやがったぜ。
あれ、そういえばさっきのぽっちゃりおじさんいなくない? まさか、逃げたの……騒ぎ起こしたくせにずるいぞ。
多くの視線を集めながらしばらく待っていると先ほどの職員さんが戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
「はい」
そのまま付いていくと奥の部屋だった……あれ、なんでだ?
「はじめまして、メリンダと申します。かなり強烈な歓迎にあったそうで……」
「ええ、まぁ……そうですね」
案内された部屋にいたメリンダさんは濃いブルーの髪を綺麗にまとめ、同じ色の瞳をした真面目そうな女性だ。さっきの職員さんはさっさと部屋を出て行ってしまい2人きりだ。
「それで、こちらの紹介状なんですが……」
「はい。まぁ、その内1つは悪ふざけしか書いてないですよね? これで紹介状と言えるんでしょうか……」
そうなのだ……サブマスの紹介状は何故かラブレター形式なんだよ。
『愛する君へ~中略~面白い子いるから紹介するね。エルネスト』みたいな感じ……もちろんマルガスさんの方はしっかりした紹介状をくれたから……最悪サブマスの紹介状はなかったことにしてマルガスさんの方だけでも問題ないはず。
「ええ、本当に申し訳ないです……あれ、わたくしの夫なんです」
「……え?」
……あれ、おかしいな。いまサブマスがメリンダさんの夫って聞こえたんだけど……いやいや、まさか。
「ええ、信じたくありませんが……あれがわたくしの夫なんです」
「はぁ……まじか」
うん、サブマスの性格さえ知らなければすごくお似合いの夫婦なんだけど……
「とにかく、紹介状は本物ですので商業ギルドに登録することができます。外はなにかとうるさいので、このままこの部屋で手続きしてもよろしいでしょうか?」
「あ、おねがいします」
「かしこまりました。では冒険者ギルドのカードをお預かりしますね。こちらに情報を書き加える形になりますので。それと、年会費として金貨1枚いただきます」
うっ、年会費高いよ……はぁ。
でも……さっき沢山ポーション売ったおかげでこれが出せちゃうんだよねー。ま、支払ったのは金貨じゃなくて銀貨10枚だけど……
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。
なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。
二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。
失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。
――そう、引き篭もるようにして……。
表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。
じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。
ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。
ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる