異世界トリップしたら女神(見習い)でしたが一般人として自由に生きていこうと思います

瑞多美音

文字の大きさ
上 下
53 / 120
第4章

53.女神見習い、人助けする

しおりを挟む


 「うぉっ、あぶなー」

 今日は美味しいりんごを取りにやってきたんだけど……まえ宝珠の花の採取に来た時に多分?りんごを見つけたんだ……あんまり熟したのがなかったから数は少なかったけど、リディも気に入ってたみたいだし、熟したものがあるかなーって取りにきたんだよね……

 なんだけども……前方では魔物と男の人が戦っているようだ。
 その周囲には魔物と人が倒れている。かなり危うい状況みたい……体格からして男の人だと思うけど、ひとりに対して魔物は複数いるし、倒れた人達を守るために必死に耐えて戦っている。

 「ふう、見つかるとこだったよ。危ない危ない。それにしてもこんなところまでよく来れたなぁ」

 このままほっておいて目の前で死なれるのは夢見が悪いし、男の人が膝をついた時にほとんどの魔物のターゲットが自分に移ったみたいで魔物は猛然とこちらへ向かってくる……咄嗟に男の人に当たらないように魔力をちょっと多めに込めて風魔法の《突風ガスト》で吹き飛ばし《風刃ウィンドブレード》や水魔法《水刃ウォーターブレード》で何度か攻撃すると散り散りに逃げていった。
 男の人を攻撃しようとしてた魔物にも魔法を放った……なんかアレがボスっぽかったから狙ったんだけど、効果があったみたい。
 多分、倒せてはないと思うけど、戦意を失わせることができたみたいでよかった。逆上して襲ってくる場合もあったから余計に。

 もし、この人が余計なお世話だとか私を敵だとみなし攻撃してきても結界があるから多少は大丈夫なはず……なんせ声もかけずにいきなり攻撃したから勘違いされても仕方ない。本当は声をかけて相手に知らせるのがベターらしいんだけど……
 緊張しつつジッと待つも……男の人は私に背を向けて膝をついたまま動かない。いや、あんまりここに長居すると瘴気にやられるんじゃ……倒れてる人達も。

 「あの……」

 そっと声をかけるも微動だにしないので軽く肩を叩くとその人は崩れ落ちてしまった。

 「えっ……あ、よかった気絶してるだけみたい」

 泥や魔物の返り血、男の人自身の血でドロドロだけど刈り上げられた榛色の髪、顔立ちはかなり整っている。瞳の色はわからないけどこんなドロドロじゃなかったらかなりモテそうな感じ……ま、私には関係ないけど。
 
 残ったのは彼らが倒したであろう魔物の死骸……そこらへんに転がっている荷物も含めてストレージに詰めていく。

 「うわ、ストレージ結構ギリギリだったわ……」

 倒れている人の怪我も命の危険がない程度、治してから気絶した隊員をひとりずつ瞬間移動で広場近くのかつての倉庫跡の安全な場所へ移動させる。
 あーあ、今まで使ってたけど、これでこの場所も使えなくなったな……また瞬間移動する場所考えないと。

 「それにしても皆、デカすぎだよ……もっと軽かったら2人一緒に運べたのに……」

 鎧や剣など重いものも多くて結構苦労した。瘴気によって気絶してる人もいて怪我や状態は様々だった。
 全員を安全な場所まで移動させた後、最後まで戦っていた人の手に宝珠の花があるのを見つけた。その人は握ったまま離そうとしない。

 宝珠の花は魔力を溜め込んでおり、採取した時点から徐々に魔力が抜けていくらしい……ストレージに戻し忘れた時にわかったんだけど、魔力が抜けるとキラキラして綺麗だった花は輝きを失った。
 つまり、採取してから早く調合できればできるほどポーションの効果も高まるらしい。
 宝珠の花は宝石のような見た目をした美しい花で花自体は大きくないが遠くからでも目立つ。

 調合すると粒子になり溶けてしまい……少しもったいないような気もするけど飾っておけるわけでもないので仕方ない。

 「最後まで仲間を守ろうと戦っていた人だ……ああ、宝珠の花を取りに来てたんだ……ポーションに使うんだよね? でもこのまましゃ量が足りないんじゃ……」

 彼が握っていた花は私が採取した花よりだいぶ小さい上に輝きが失われてかけている。

 「これで効果あるのかな……」

 せっかく持ち帰ってもポーションの材料にならないと知ったらさぞ落ち込むだろうな。
 
 「魔物の好物だから、余計に大変だったろうなぁ……まぁ、さっきの魔物はここでは弱い方だったけど」

 よっぽど大事な人の為じゃないとここまで来ないよね……
 そういえばギルドでこれを時間内に採取して、持っていくという無理依頼が貼ってあったな……かなりの高額で。

 「……あれ、私が早々にサブマスリスト買い取りに持って行ってたらこの人たちこんな事になってない?」

 この場所まで到達できるなら、かなり腕が立つはず。それにこの格好……冒険者じゃないみたいだから依頼主が軍に依頼したか軍が自分たちでやる事にしたのか……

 なんか罪悪感が湧いてきて仕方ない。やはり目の前で死なれかけたのが大きい。冒険者として初めて人が死にかけている現場に出くわしたのだ。無理もない。
 瞬間移動で家まで戻り、畑から宝珠の花を必要な分より少し多めに採取し、その人に握らせておく。群生地には最低限の花しかなかったから畑から持ってきた。

 「たまには人助けもいいよね。これも何かの縁だし、うんうん。さて、まずは……浄化しないと。よし! おまけに加護も授けてあげようっ! 特別サービスだぞー」

 その場の全員、十数人と宝珠の花に浄化と加護。変な罪悪感とノリで加護まで……後でやっちまったー。って後悔するやつ。
 まぁ、浄化はしないといけなかったから問題はないけどさ。顔も見られてないし加護が増えても平気な……はず、多分。
 細かい傷はまぁ、いいか。とりあえずのゲガは治したし。浄化さえしておけばあとはなんとかなるかな……というかなんとかしてくれ。本当は《清浄クリーン》で鎧とか服も綺麗にしたかったけど……無理。それやったら私がリディの待つ家に帰れなくなるもの。
 
 ここは魔物もほとんど出ない安全な場所だし、きっとすぐに目が覚めるはず。あそこまで来れる実力者なら目覚めてすぐでもこの辺りの魔物に負けないはず……
 
 ストレージに入れておいた荷物や魔物の亡骸もそばに置いておく。
 魔物も結構な買い取りになると思うけど……倒したのは彼らだし。
 出し忘れがないかチェックして確認……あ、この背負い袋もこの人たちのじゃん。あ、ナイフもあったわ……うん、あとは大丈夫かな。

 「ま、これでいっか」

 そろそろ、数人が目覚めそうな雰囲気なのでそそくさとその場を去る。この時のこの行動が後に新たな厄介ごとになるとは知らずに……


 「いやー、魔力たくさん使ったら疲れちゃったよ。今日は爆睡コースだな。あ、果実採取忘れちゃったよ……まぁ、いいか。また明日にでも行こう」





しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

神様がチートをくれたんだが、いやこれは流石にチートすぎんだろ...

自称猫好き
ファンタジー
幼い頃に両親を無くし、ショックで引きこもっていた俺、井上亮太は高校生になり覚悟をきめやり直そう!!そう思った矢先足元に魔法陣が「えっ、、、なにこれ」 意識がなくなり目覚めたら神様が土下座していた「すまんのぉー、少々不具合が起きてのぉ、其方を召喚させてしもたわい」 「大丈夫ですから頭を上げて下さい」 「じゃがのぅ、其方大事な両親も本当は私のせいで死んでしもうてのぉー、本当にすまない事をした。ゆるしてはくれぬだろうがぁ」「そんなのすぎた事です。それに今更どうにもなりませんし、頭を上げて下さい」 「なんて良い子なんじゃ。其方の両親の件も合わせて何か欲しいものとかは、あるかい?」欲しいものとかねぇ~。「いえ大丈夫ですよ。これを期に今からやり直そうと思います。頑張ります!」そして召喚されたらチートのなかのチートな能力が「いや、これはおかしいだろぉよ...」 初めて書きます!作者です。自分は、語学が苦手でところどころ変になってたりするかもしれないですけどそのときは教えてくれたら嬉しいです!アドバイスもどんどん下さい。気分しだいの更新ですが優しく見守ってください。これから頑張ります!

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...