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第4章
50.女神見習い、少女を街へ連れていく(1)
しおりを挟む翌日……
「まず、リディに話しておくことがあるのね」
「……ん」
「街までは瞬間移動をします……って言っても森の浅い部分までで、そこからは徒歩で向かうんだけど」
「……ん」
なんか反応薄いな……もっと驚くかと思ってたよ。
「前に見たの……」
どうやら私がどうやって日帰りするのか気になってこっそり見ていたらしい……
「そうだったの……あと門では門番さんが言うことに従ってね……大丈夫かな?」
こればっかりは従ってもらわないと街に入れないからなぁ……下手に逆らうと面倒なことになりそうだし
「……ん」
「じゃ、早速行こうか」
一応リディと手を繋ぎ、ブランを肩に乗せ……いつものように瞬間移動する。
「……よし。大丈夫?」
「ん、平気」
森を出て、草原を歩き門が見えてきた。リディの表情は硬い。
「リディ、無理なら今度にしてもいいんだよ?」
「……ん、大丈夫。行く」
リディの決意は固いみたい……
「わかった……もし瘴気が出そうになっても安心して。ちゃんと結界で周りに影響が出ないようにするから」
「……ん」
「それと、ブランは登録が済むまではリディの外套の中で大人しくしててね」
ブランは渋々ながらリディの外套の中へおさまった。うん、だいぶ涼しくなってきたから外套をまとっていても不自然じゃない。
リディと手を繋ぎ門へーー
「おはようございます」
「おう……その子は?」
なんてこった。強面お兄さんじゃないですか……リディ平気かな?……まったく怖がってない、よかった。
「私の連れです……身分証は今から取りに行きます」
「そうか……悪いが一応プレートに触れてくれ」
リディはおずおずとプレートに触れる……白く光った。
「よし、犯罪歴はないようだな。いくら連れでも身分証がない場合は街に入るときに保証金として銀貨1枚をもらうぞ」
「はい」
バッグから銀貨を1枚取り出し、門番さんへ渡す。
「じゃあ、これが木札な。繰り返しになるが、身分証を作ったら3日以内に木札と一緒に門へ持ってきてくれれば銀貨は返却するからな。ただし、3日以上過ぎると銀貨は帰ってこないから気をつけろよ」
「わかりました」
ふう……顔は強張ってるけどリディも頑張ってる。
「じゃ、冒険者ギルドへ行くよ」
「……ん」
リディはフードを深く被り、下を向いて歩いている……私が手を繋いでいなかったら今すぐでも逃げていてもおかしくない。
少し歩くとギルドが見えてきた。
「多分、今の時間は人も少ないと思うし、すぐ奥の部屋に案内してもらえるはずだから……」
「……ん」
ギルドへ入ると……
「エナさん、お待ちしてました」
「カーラさん、おはようございます」
よかった……あまり人もいないし、騒ぎを起こしそうな人もいないみたい。
「早速ですが、奥へどうぞ」
「はい」
緊張しているリディの手を引き、慣れた奥の部屋へ進む。
リディと共に椅子へ座り、ストレージからポーションを出してテーブルへ置く……一応ポーションの買い取りがここを使う名目だしね。
「はじめまして、カーラです」
「……リディ」
「カーラさん、登録お願いします」
「かしこまりました。では、こちらにご記入と手数料として小銀貨1枚いただきます。記入はエナさんの代筆でも大丈夫ですよ」
「わかりました。リディ自分で書く?私が書く?」
「……ん、自分で書く」
リディが記入している間に小銀貨1枚をカーラさんに手渡す。
「……ん、書いた」
「はい、ありがとうございます。では次にこちらに手をかざしてください。犯罪歴の有無を調べさせていただきますね」
リディが大人しく手をかざすのを見守る……本当はお茶を入れたいんだけど離れたら不安だろうし、我慢がまん。
「はい、犯罪歴はないようですので、このまま手続きに入りますね」
カーラさんが登録作業をしている間に、リディと一緒にお茶を入れる……うん、美味しいな。このお茶どこのなんだろ? ギルドで扱ってないのかな……
「はい、これで冒険者登録は完了しました。もし、紛失してしまった場合は再発行に銀貨3枚かかってしまうのでくれぐれもなくさないようにお気を付けください。こちらは身分証のみでなく冒険者のギルドカードとしても使用できますので、その際は受付で毎回提示してくださいね」
「はい」
リディもコクリと頷いた。
その後、ギルドの説明をひと通り聞きギルドカードを受け取った。
「今回はエナさんが後見人としての登録ですので冒険者のランクはEまでしか上がりません。13歳になれば後見人も必要なくなりランクもさらに上げることができます。現在リディさんのギルドカードにはエナさんが後見人だと記されていますので……」
「へぇ……」
後見人の自覚を持たないと……変なこととか犯罪などリディが不利益を被るようなことはするなってことだよね。もちろんするつもりはないけど。
「あとは……従魔登録ですね……あの、魔物はどちらに?」
や、やべー……ブランのこと忘れてたよ……ずっと外套の中だった。
「……ん」
リディが外套を開けると中から勢いよく飛び出してきたブランはちょっと怒ってるっぽいな……
「あ、この魔物です」
「暗殺者じゃないですか……」
カーラさんは途端に緊張しているみたい。
「暗殺者?」
「ええ、冒険者のなかでは暗殺者といえばこのキラーバードなんです」
「へー」
「警戒心が強い上、隠密スキルを保持しており上空から音もなく降下し、鋭いくちばして相手を背後から貫くことからそう呼ばれているんですが……」
あー、結構危険な魔物だからカーラさんも緊張してるのか……
「あ、ブランはリディの言うことは聞くし、リディの為なら少しは私の言うことも聞きますので……」
「そ、そうですか……」
なんか半信半疑っぽいな……でもここで信頼を得ないと討伐されかねないし……
「ブラン、ちょっとこっちきて」
ブランはこっちに勢いよく飛んできた……ねえ、わざと翼で顔をバサバサしてない? 嫌がらせかな、ねぇ……ずっと外套の中にいたのが窮屈だったかな。
「ブラン、『はい』なら右腕に『いいえ』なら左腕に乗ってくれるかな?」
ブランは右腕に乗った。よしよし。
「ブラン、リディのために協力してくれるかな?」
ブランは右腕に乗った。
「ブラン、街中でむやみに人を襲ったりしない? あ、もちろんリディが危険な場合はのぞくよ」
ブランは右腕に乗った。
「ブランはリディを危ない目にあわせますか?」
ブランは左腕に乗った……ブランさん爪が食い込んで痛いんですが。そんなこと聞くなっていう意思表示ですか。
「カーラさん、こんな感じでどうでしょうか? リディは私よりももっとブランと意思疎通ができますけど」
「……そうですか。従魔には主人がわかるよう印を身につけてもらうんですけど……もう付いてますね」
ブランは胸を張るように首輪を見せつけた。はいはい……リディとお揃いですね。よかったですね。
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