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第1章
12.女神見習い、初めての買い物(3)
しおりを挟む~雑貨店~
かなり荷物が多くなった……主にジャガイモと玉ねぎの重さでふらつきながら大通りの端にあった雑貨店へーー
雑貨店の店内は衣料品店や食料品店よりも雑多に物が積みあがっていた。
何がどこにあるんだろうか……全くわからないな。こういう時はさっさとお店の人に聞こう。
「いらっしゃい、気になるものがあったら声かけとくれ」
「あのー、旅に必要なものってどこにありますか?」
「旅か……宿には泊まるのかい?」
「うーん……できたら泊りたいですけど、状況次第でどうなるかわかりませんね」
するとおかみさんが商品の山からゴソゴソと何かを引っ張り出してきた。こんなに雑多でもきちんと把握してるんだ……すごい。
「これなんかどうだい? 野営に必要なものをセットにしてあるんだ」
「……野営セットですか」
おかみさんの見せてくれた野営セットにはテント、毛布、水袋が2つ、火打石、ロープが数本、魔よけ香、簡易コンロ、ハイポーションとマナポーションの初級が1本ずつ、鍋や食器まで付いていてかなりお得みたい。
魔よけ香っていうのは小さな巾着袋に入っていて身に付けるだけで、弱い魔物なら近寄ってこないというもの。ただし、嗅覚が鈍い魔物や強い魔物には効かないらしい。
うーん……
「この野営セットのテントって組み立てるの大変ですか?」
何せ、生まれてこのかたテントなんて組み立てたこともない。いざというときに困るのでは本末転倒だし……
「いや、慣れてしまえば簡単だよ。何なら、店の裏で試してみるかい?」
「……いいんですか?」
「ああ、ついといで」
おかみさんは息子さんに店番を任せ、店の裏にある洗濯などを干すためであろう小さなスペースへ案内してくれた。
「狭くて悪いけど、早速試してみるかい」
「お願いします」
「これ……ちょっとボロいけど野営セットのテントと同じ型だから、やってみな」
「はい」
おかみさんに教えてもらいながらテントを組み立ててはバラすこと数回……だんだんとコツがつかめてきた気がする。最初より半分以下の時間で組み立てられるようになった。
「うん、それだけできれば十分さ」
「ありがとうございます」
道中に宿があるらしいので、テントは必要ないかもしれないけど、万が一のことを考えて購入することにした。
何といっても別々に買うよりもだいぶ安いし、ここまでしてもらって要りませんとは言えない。
おかみさんについて店内に戻り……
「野営セット以外になにか買った方がいいものはありますか?」
「そうだね……あとはランプと革袋はあった方が便利だね。あんた魔法は使うのかい?」
「人並程度には使います。剣とか武器を使うものはからっきしですね」
おお、こんなこともあろうかと事前に考えてきたおかげでスラスラ答えられたよ。
「だったら……魔力効率の上がる指輪と護身用にナイフくらいは持っといたほうがいいんじゃないかい?」
「へー、そんな指輪があるなんて初めて知りました」
「魔力効率が良くなって、威力が上がったり消費魔力が少なくて済むんだとさ。指輪は真ん中にはめ込まれた魔核で全然効果が違うからね。高いのもあれば安いもんもある。ま、うちには安いものしか置いてないけどね」
おかみさんが見せてくれた指輪はほとんど同じ形だったけどはめてある魔核? の色が違った。
「この色が違うのは何か意味があるんですか?」
「ああ、それはどの魔物から取れたかによって違うだけで、ここにある指輪に関しては効果はほとんど変わらないね」
どれを選んでも一緒なら、いちばん透明度が高い指輪にしよう。その方がきれいだし……あ、なんかこれだけ透き通ってる。
「そうなんですね。じゃあ、この琥珀色の指輪にします」
「ふーん、あんたいい目してるね」
「え?」
「いや、なんでもないさ。ランプはどうする? 魔核交換型か魔力注入型があるけど」
ランプはどちらにするかで値段が違うんだけど、魔力が多いなら魔力注入型の方がお得らしいのでそちらにした。ランプの石に触れ魔力を込め、はめてある石が光ったら満タンになったってことみたい。
ナイフはいくつか種類があったが、よくわからないのでおかみさんのオススメの数本から刃渡りが手の平ほどあり、持ち手が白いナイフを選んだ。
い、色で選んだわけじゃないんだからねっ!
革袋はひとつ買うよりもまとめて買うと安くなるという誘い文句に見事はまり複数購入。
余ったら仕分け袋にするから問題ない、はず。
あと、シュービッツとスポンジも購入した。
結構な量になったな……まぁストレージさんのおかげで問題ないけど。
街からの移動に何が必要で何を買えばいいのかわからなかったし相談に乗ってくれて正直助かった。
「計算するからちょっと待ってて」
「はい」
買い物の計算を待つ間、カウンターの隅に物が雑多に詰め込まれた箱が目に入る。
その視線に気づいたのか、おかみさんは
「ああ、その箱かい? 亭主が使えもしないガラクタばかり集めちまってねえ……そこにあるものは何でもひとつ銅貨1枚だよ。気に入るもんがあれば言っとくれ」
「そうなんですか……手に取ってみてもいいですか?」
そう言うとおかみさんは見やすいように箱を持ってきてくれた。ありがとうございます。
気になるものを心眼でチェック……
宝石の取れた指輪、穴の開いたマジックバッグ(使用不可)、ナイフの鞘のみなど使えそうにないものが多い中、気になるものがあった。
-----
〈幸運(微)のリボン〉
運の値が2上昇する。
〈???石〉
???石。※レベルが不足しています
〈変容のネックレス〉
細いチェーンの先に魔石がついたネックレス。
身につけている間、魔力を消費し瞳の色を自由に変えられる。
-----
〈幸運(微)のリボン〉は少しでも運が上昇すればいいなと思う。魔物とか野盗に会う確率が減れば万々歳だし。
〈???石〉は何なのか気になるし、心眼レベルが上がったら確かめてみたい。
とりあえず頑丈そうなのでまとめ買いした革袋のひとつに入れて、いざという時には振り回したい。
〈変容のネックレス〉は瞳の色だけでも変えられるなら印象が変わって旅の間女神だとばれないかもしれない。でも……
「あの……このネックレスはどうしてこの箱に入っているんですか?」
「ああ、それかい? つけている間、目の色を好きな色に変えられる魔道具ってんだけどねぇ……魔力消費が半端なくてね。よっぽど魔力のある人か、それに複数人を雇って魔力を込められる金持ちくらいしか興味を持たないねぇ。一応小さいながら魔石がついてるってんで効果は期待できるんだけど……ま、これに魔力を使うくらいなら他の魔力消費の少ない魔道具に使った方がいいって私ら庶民にとってガラクタ同然てわけさ」
「へー、そうなんですね……じゃあ、このリボンとこの石とこのネックレスも追加でください」
「その説明を聞いて諦めたやつも多かったんだけど、あんた変わり者だねぇ。気に入った! ナイフホルダーおまけしてあげるよ! さっきのナイフにぴったりなはずだからね」
「わー、ありがとうございます!」
会計を済ませ店を出る。荷物が増え、腕はプルプルし、歩くのがやっとだけど……どこかの路地まで我慢がまん。
ここでも店を出た後、こっそりおかみさんと息子さん、お店に女神の祝福をかけた(3回目 え、しつこい?)
*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*
ーエナが店を出た直後ー
「かあちゃんっ! あれ、いいのか?」
息子が駆け寄ってくる。理由はわかっているが、あえて知らないふりをする。
「……なにがだい?」
「だってあの指輪、ウチに唯一あった高ぇ方の指輪だろっ! それにナイフホルダーまでっ」
おかみは昔を懐かしむように
「昔、じいさんに言われたんだよ……もし、お前がこの人ならと思ったら安い指輪に混ぜて出してみなって……今まではみんな安い指輪を選んで行ったんだけどねぇ」
「あの娘は高ぇ指輪を選んだってわけか……」
「ナイフホルダーは本当にあの娘を気に入ったから、私からの選別だよ」
「はー、珍しいこともあるもんだ」
「うるさいよ……あの娘、将来大物になるかも知れないね」
「かもしれねぇな……」
あの娘なら本当になにかをやってのけるかもしれないと親子はそっくりな顔で笑ったーー
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