異世界トリップしたら女神(見習い)でしたが一般人として自由に生きていこうと思います

瑞多美音

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第1章

8.女神見習い、神様に会う

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 加護を与える機会は少なくなりつつも、まだ忙しく過ごしていたある日ーー

 その生活は突如終わりを迎えることになった……
 女神降臨という名の異世界トリップから15日目のことだった。


 あの時、気づくべきだったのだ。
 女神は数百年ぶりの降臨だというのに……人々が最低でも1年に1度は加護を授かっていたということに。

 そう、神様が降臨したーーーー

 いつものように部屋へ運んでもらった朝食を食べていた時……教会が騒がしいことに気づいた。
 私がこの世界にやってきた時と同じような鐘の音が鳴り響いている。
 何か起きたのかな? 事件とか……不思議に思っていると慌てた様子の司祭さんが部屋に飛び込みこう告げたのだった。

 「女神様っ! 本日、大地神アルネルディ様がご降臨なさいましたっ」

 ……は? 神様降臨?

 まず思ったのは……神様って他にもいたの? 
 じゃあ、私が無理して女神様やる必要なかったんじゃ……ということだった。
 思わず固まってしまったのも無理ない、よね?

 「女神様、神様は西地区の教会に降臨なされたそうです」
 「……はぁ」

 その神様は他の教会に降臨したらしい。
 ちなみにファルニトにはいくつか教会があり、中には貴族の地区や孤児院が併設された教会などがある。私が降臨したのは北と東の中間にある教会だそう。

 
 「……その教会に案内してください。ご挨拶がしたいのです」

 動揺を隠し、とにかくその降臨した神様に会うべく、ざわざわする心を何とか落ち着け教会へ早足で向かう。

 西地区の教会には鐘の音で神の降臨を知った者が集まりだしていた。

 そして、その中心には遠目からでもはっきりとわかるオーラを放ち、いかにもご利益がありそうで人当たりのよさそうな白髪頭の神様がいたーー


 司祭さんたちが気を利かせたのか、奥の部屋で今は神様と2人きりだ。

 「はじめまして、女神見習いをしております。エナと申します」
 「おぉ、お主がエナか……噂には聞いておったが誠だったのだな。わしは大地神アルネルディだ。よろしくのぉ。気軽にアルちゃんと呼んでくれ」

 噂になるって……それに流石に神様にちゃん付けはできないでしょ……

 「あの、アルさん?……いくつか質問したいことがあるのですがよろしいでしょうか?」

 さん付けにちょっと不服そうだったけど、頷いてくれたので聞きたかったことを質問していく。

 「神様の降臨というのは頻繁にあることなのでしょうか? 同じ土地に同時に複数の神様が降臨して問題はおこらないでしょうか……そして私が女神の代わりをしていてもよいのでしょうか?」

 矢継ぎ早に質問しすぎたかと思ったけど、アルさんは気にすることなく教えてくれる。

 「わしは、かれこれ約30年間、ふた月に1度程この街にいくつかある教会にランダムに降臨しておる。降臨後はだいだい5日ごとに教会を移りまんべんなく回っておる。それにのぉ、同じ土地に2人以上の神が降臨することも特段珍しくはないんじゃ。よっぽど仲や相性が悪くなければ問題はないので安心せい」
 「そうですか……」

 神様ってたくさん降臨してるんだ……

 「女神見習いに関していえば問題ないわけでもないがの、責められるのはあ奴であってお主ではないわ……突然違う土地に飛ばされ、さぞ混乱しおののいたであろう。ましてやその力を悪用せず、女神の代わりをしっかりとはたしているではないか。だから気に病む必要はないぞ」
 「……ありがとうございます」

 あの女神様が数百年前に降臨したきりなのに理由は多々あるらしいが、その多くは女神がめんどくさがり時間だけが過ぎていたということらしい……女神様さぼりすぎ。
 ほかの理由は女神フィラに聞きなさいと言われてしまった。


 そうか……この世界で女神として生きる以外にも道があったんだ……


 時間の許す限り、アルさんに知らなかったことを色々と教わった。
 この国の教会は国が運営しており税を納めていれば基本的に誰でも利用可能なこと。
 教会さえあれば神様が降臨してくれるかもしれないと小さな町でも教会がいくつもあるということ。
 普通、国が教会を運営すれば問題も起こりそうなものだが、神がそこかしこ降臨するため下手なことができない状況にあり、教会について悪さをすると過去には天罰が下ったという話もあるらしい。

 「実際にはお仕置き程度じゃよ」

 ほんとかな……神様のお仕置きって結構だと思うけど。

 それから、人が少ない土地やそもそも神を信じない人が多いなど、信仰が薄い地では神の降臨の頻度が開くこと。
 降臨するためにはある程度の信仰が必要で、それと引き換えに降臨しているということ。
 つまり、降臨の頻度が高い神様は人々にとても感謝されていたり、信仰の厚い地域だったりするらしい。
 降臨の頻度は何も地上だけでなく天界での立場も変わるといい、降臨の頻度や信仰の厚さで神様たちの立場が決まり、会議などの発言に力を持ったり議長なども務めるんだとか。女神フィラも10年に1度ぐらいなら余裕で降臨できるらしい……

 天界の裏事情ですね…… 

 ちなみに、神様たちは毎日会議会議会議で降臨するのは息抜きも兼ねていて

 「降臨期間中は1度でも天界に戻ると溜まった書類や報告が待ち受けているからの……なるべく地上で羽を伸ばすんじゃ」
 「へえ、そうなんですね。降臨して天界に帰るときはどうするんでしょうか?」
 「ふむ。それは様々じゃな。神によって降臨の期間はバラバラでの。1日で帰ってしまうやつもいれば何か月も滞在する神もいるのじゃ。だから突然、神が消えてもみな不思議に思わず、それが当たり前だと受け入れているようじゃの」

 ただの見習いにそこまで話してもいいんでしょうか……それにしても今の話を聞く限りアルさんはかなり立場の上の人な感じがする。

 「あの、女神フィラさんはどういった立場なのかお聞きしても?」
 「あやつはただの問題児じゃ。会議には出んし、ほとんどのことを部下に丸投げしておる。皆ほとほと手を焼いておるわ……」

 やはり部下のコルドさんは苦労人の様子です。

 そうなんだぁ。って素直に驚いてしまった……えっ? 女神の知識に含まれてるだろって……残念ながらありませんでしたけど何か。

 女神様……都合の悪いことは知識から削除されているんでしょうか?

 「色々と教えていただきありがとうございました」

 もうそろそろ教会が開く時間なのであまり長居もできない……話を聞き終え、若干顔色の悪くなった私を見たアルさんは

 「お主も大変じゃな。何か困ったことがあればいつでも相談に乗ってやるわい」

 笑いながら連絡先を教えてくれました。優しい言葉に思わず泣きそうになってしまった……女神ひとりで判断しちゃだめだね。 

------

【交信】
 新たな連絡先 《大地神アルネルディ》が登録されました。

------


 こうして神様との邂逅を終えて手に入れたもの。 
 神様の連絡先。知らなかった知識。この世界で初めて常識のある神様の知り合いでした。
 
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