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第1章

5.女神見習い、女神代行に励む(1)

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 コンコン……
 
 「うん? なんの音だろ……ノックか」

 ……ノック? ああ、現実だったのか。
 部屋にはすでに朝日が差し込んでいる。眩しい……

 「もう朝かぁ。さすがに全部夢でしたとか都合のいいことにはならないか……それにしてもいつの間に寝たんだろ? 」
 
 はぁ……少しの落胆を経て部屋の外で待っている人の存在を思い出した。
 急いで服を着替え、髪を整える。

 「げっ……髪がぼっさぼさ」

 昨日みたいに綺麗な髪形にすることができなかったので、櫛でといて適当にハーフアップにした。美人さんは何しても美人さんですね……

 「はい」
 「女神様、恐れ入ります。朝食はいかがなさいますか? 昨晩はお返事がなかったもので……」

 つまり昨夜はノックの音にも気づかず熟睡していたってことかぁ。 
 こういうときって普通なら眠れぬ一夜を過ごすと思うんだけど……どうやら疲れていたとはいえなかなか図太い神経を持っているようです。
 まあ不眠症になるよりいいよね? それに、ぐっすり寝たおかげか体がかなり軽い気がする……あれだけお腹空いてたのにそれすら忘れて寝ちゃうぐらい疲れてたんだな……

 「ありがとうございます。いただきます」

 それにしても、寝過ごしたらまたしてもごはん抜きだったよー。危なかった。

 「ただいま持ってまいりますので、しばしお待ちください」


 そういえば昨日ステータスで減っていた魔力や体力は回復しているのかな?
 早速確認してみたら

------

 種族:女神(見習い)/人族
 氏名:エナ・ハヅキ
 状態:通常
 体力:235/235
 魔力:55000/55000 
 運:75 

------

 回復していた。というより体力増えてるんですが……うーん、使えば使うほど上限も増えるのかな?

 「……ひと晩休めば回復するってことでいいか」

 あとで詳しく確認してみよう。

 「今はそれよりごはんっ、ごはんっ」
 「お待たせいたしました。失礼いたします」

 運ばれてきた食事は温かくて、普通においしい。若干パンが硬めだったけどスープに付ければ問題なく食べられた。
 そりゃあ、元の世界と比べれば少し物足りなく感じてしまうけど、おいしく食べられてよかったとホッとした。
 だって、ご飯が美味しくないとモチベーション下がっちゃうもんねー。

 朝食を済ませ、食後のお茶を飲んでいると……意気揚々と司祭さんが部屋を訪ねてきた。

 「女神様のおはようございます」
 「おはようござ……」
 「本日もよろしくお願いします。皆も朝早くから並んで女神様を心待ちにしております」

 どんどんと逃げ道がふさがれていった。口を挟む隙間がないじゃないかぁ。

 ねぇ、昨日返事しなかったでしょ? 
 今日もやるとは言ってなかったのに……司祭さん、恐るべし。

 今日も教会でせっせと仕事をする羽目になりそうだ。

 「女神様って結構重労働だったんだ……何気に拒否権ないし……」

 ちょっとだけあの女神様が私に押し付けた理由が理解できたかも。


 ◇ ◇ ◇


 教会は昨日よりも多くの人で溢れていた。
 女神の降臨効果らしく、普段の何倍もの人がこの教会を訪れているという。

 「女神様こちらもお願いします」
 「あ、はい」

 昨日と同じように促されるまま流れ作業のように目の前の人々に魔法を使う。

 あ、この子は加護ですか?

 「女神の名の下に汝に祝福を」
 「女神さま、ありがとうございました!」

 ハイ、次の方―。

 「女神の名の下に汝に癒しを、ヒール」
 「おお、ひざの痛みが引きました。女神様ありがとうございます」

 あら、浄化は初めてです。たしか毒にも効くんだっけ? キュアポイズンもあるけど本人が浄化って言ってるし、いいよね?

 「女神の名の下に汝を悪しきものより救いたまえ、浄化」
 「ありがてぇ、これでまた仕事に行けるぜ」

 ハイ、次の方―。

 魔法を使うと暖かなほんわかとした光が彼らの身体を包む……
 加護の時はオレンジっぽい光、回復魔法の時は青っぽい光、浄化の時は白っぽい光をそれぞれ放っている。

 あ、ちなみに魔法を使うときに言ってる文言だけど、別に必要ないんだよね………
 例えば回復魔法なら〈ヒール〉って唱えれば効果が出るし、女神の祝福だって〈祝福〉って言えばいい。
 じゃあなんで言ってるのってことなんだけど……昨日、思わず言っちゃったんだよ。なんとなくその方が神々しいかなって。今日の浄化の文言も揃えてみたけどノリと勢いって怖い。
 なんか、教会だと変なテンションになっちゃうんだよ……今さら変えられないし、冷静になると少し恥ずかしくて後悔しそう……いや、もう既にしてる。


 それから……辺りが暗くなるまで仕事は続いた。
 今日もわずかな休憩(昼食)のみで乗り切った! うん、頑張った!

 「ふぅ、それにしても女神様は疲れないとか思われているのかな……それとも本物の女神様は疲れないのかな? もしくは人(女神)使いが荒いとか?」

 そして、聞いてしまったんだよ……他の街からもこの教会めざして向かう集団がいるらしいことを……

 「いーやー!ますます逃げ道がなくなるじゃないかっ」


 女神としてお仕事をする中で加護や回復魔法を使いながら世間話や聞き耳を立て、人が途絶えた隙を狙って教会の目につく所に女神の心眼を使用してわかったことーー

・ひとつめは女神の加護について。
 女神の加護を授かると普通なら大怪我するところかすり傷で済むという効果のよう。
 要は身代わりとなるらしい。
 ただし、効果が発揮されるのは一度のみで、大きな怪我や病気などをしなければ1年くらい加護のもとにあり、その後徐々に効果が薄れていくためほとんどの人は1年に1度加護を授けてもらいに教会を訪れるらしい。


・ふたつめは日付と時間について。
 1年は12の月で構成されていて、ひと月は30日まであり曜日や週の感覚はなく日にちで示す。
 呼び方は1の月15の日。早生まれとかの感覚はないようで1~12の月生まれが同じ年。
 つまり1月生まれが1番早く歳をとるけど、年が明けたら全員が1歳をとるという感覚でいる為あまり関係ない。
 あと、加護をもらいに来た子供が嬉しそうに教えてくれたのは貧民でも30までは数えられるということ。
 日にちを数えられるように教会などで月に数回、文字や数を教える勉強会が開かれているらしい。
  なかなか計算までは手が回らないみたいだけど、そこで見出され安定した生活につける子もいるんだって。

    時間に関しては、朝6時から夜6時までは30分ごとに時を知らせる鐘が鳴る。
 それ以降は1時間に1度。それも夜9時まで。
 聞く限りでは元の世界と変わらず1日は24時間みたい。
 門は夜9時で締め切るようで開閉の際に長い鐘が鳴り、それ以降は出入りが規制されるらしい。
 小さな町や村では門番や見張りなどはおらず、あくまでも魔物や動物の侵入対策なんだとか。
 大きな街になると警備隊が門や詰所に詰めていて、緊急事態にも対応できるよう訓練される。
 この街では警備隊が詰め所に詰めているものの緊急事態が起こるようなことはほとんどないらしい。 

 鐘は教会に設置義務があり、魔道具で制御されている。
 それ以外の非常時(魔物や敵襲撃)などの鐘の音は違う音で鳴らしリズムも異なるとか。
 ちなみに神様降臨のリズムもきちんと確立されており、鐘がなっただけで神様の降臨がわかるらしい……そのほかにも鐘は街全体に聞こえるように要所要所に設置されている。
 あと、教会の鐘の魔道具のそばにステータスが確認できる魔道具も設置されていて無料で使えるみたい。
 冒険者らしき人がたびたび利用しているの目撃した。ただし、そこは無料なのであまり詳しい情報は出ないらしい。


・みっつめは魔力の残量について。
 クラクラしてきたら限界が近く、そのまま使い続けると防御機能が働き気絶するということ。
 ほとんどの場合は体力も含めひと晩寝ると回復するという(調べる手間が省けた)。
 怪我や病気の時を除き、睡眠時の方が回復が早く起床時でも動き回っているときよりじっと座っている方が回復速度が早い。
 気絶するまで魔力を消費することを繰り返すと魔力量が増えるが、子供のころまで。
 無理に限界突破をしてそのまま魔力を使い続けると死ぬ。これは生死にかかわることなのでほとんどの人が子供のころに教えられるという。
 中にはそれを逆手にとって子供時代に無理をして魔力量を増やした人もいるとか。やはり危険が伴う為、推奨はされていない。
 これは司祭さんに教えていただきました。


・最後に瘴気について。
 瘴気にやられるのはほとんどが冒険者らしい。その場合は教会で浄化の魔法をかけてもらう。今のところ分かったのはこれだけ。
 女神の知識で瘴気について検索してもあまり多くのことはわからなかった。ただ呪いや一部の状態異常にも使えるみたい。
 実際、今日も毒の浄化したしね。


 なんか……思ったより知らないことが多くて、女神の知識も万能じゃないんだなと考えを改める。

 「あまり頼りすぎず、気になったら自分でも色々調べよう……」

 
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