2 / 120
第1章
2.女神見習い、爆誕?(2)
しおりを挟む「さあさあ、こちらです。女神様」
「ちょ、ちょっと待って……」
先ほどから司祭さんはそのまま無視してどんどん話を進めていく。
あ、司祭さんていうのはさっきすっ飛んできた偉そうな人のことね。
今、私はこじんまりとしているけど、大切に手入れされていることがわかる聖堂を複数人にガッチリ囲まれて歩いている。
いや、歩かざるをえない状況なんだけどさぁ……数メートル先へ移動するだけなんだからそんなにガッチリ囲まなくてもいいじゃない。
私の意見は全く通らず……半ば強制的に促されるまま、落ち着く暇も状況を把握する余裕すらなく、他より少し豪華な椅子に座らされる。なんでしょうね、これは……
何か言おうとしても周りの人たち「さあさあ」しか言わないんだよ。人の話を聞く気が全くないよね……はぁ。
私が椅子に座るのを今か今かと待っていた人々は、私が座った途端に椅子の前へどんどん並んでいき、あっという間に長い列ができた。揉めることなく並んで行く様子はあらかじめリハーサルしたかのようだ。
「はあ……」
少しヤケになりつつも覚悟を決め、とにかく行列に並ぶ人たちに頭の中の知識を引っ張り出して、というか勝手に浮かんできたんだけど……女神の加護? を授けたり回復魔法を使っていくものの……全然列が途絶えない。逆にどんどん長くなっている気が……
「女神様の加護を授かろうと教会の外まで人々が列をなしていますっ」
「ハァ、ソウナンデスカ……」
司祭さんはずっと興奮気味でそばにいるんだけど、ちょっとうるさい。
私としては少しでいいから練習時間が欲しかった。失敗できないから冷や汗ものなんだよ……
とりあえず考えるだけで情報が出てきてくれるのはもの凄く助かってるけど、知識と実践は違うんだからねっ!
最初の頃に並んでくれた人とか、本当に魔法がかかってるのか若干怪しいけど……た、多分大丈夫なはず。
女神の加護を授けるのは人だけでなく、結婚のお祝いの時に着る服、冒険者らしき人の装備、アクセサリーやお守りなど様々なものにも加護を授けていく。
そうなると当然時間もかかるわけで……無心で励み夕日が教会に差し込んできた頃、ようやく人の列が途切れた。
体感にして5、6時間くらいかな? 休憩なしとか流石にきついよ。ずっと同じ体勢をしてたから体がバキバキだし、お腹もすいたよ……
「はぁ、ようやく終わったー」
それに、加護や回復魔法を使っている間も……
「ありがとうございます。女神様」
「女神様。ありがとー」
「女神様に生きているうちにお会いできて本当に嬉しいです」
などなど……そう言われて悪い気はしなかったけど数百年ぶりの女神降臨だと信じているのに、なんだか周囲を騙しているようで心苦しくなり……
途中からは女神見習いなんだし、本物の女神が良いって言ってたんだからと自分を納得させないとやっていられなかった。半分ヤケクソだったよ。
今日は浄化の魔法を使うことがなかったから何とも言えないけれど、あまり機会はないのかもしれない……
とりあえず今は回復魔法と加護を授けることでいっぱいいっぱいだから浄化の魔法を使わなくていいのはありがたい。
今日のところはほとんどが加護を受けに来た人で、あとは比較的症状の軽い人が多かったのか回復魔法で何とかなったけど、もしも今後重症の人が来た時にちゃんと治すことができるのかな……いやいや、まさか今後なんてないよね。今日だけだよね?
少しの不安はあるけれど、今日1日を乗り切れたことにホッとしてる。
ようやくひと息ついたところで司祭さんに教会や敷地内を軽く案内してもらって部屋へ向かうーー
ここはリタール王国のファルニトという街にある教会で王都からは馬車で4日程の場所にあって、そこそこ栄えた街なんですとか、女神様が降臨してくださり感無量です的なこととかを司祭さんがひとりでずーっとしゃべり続けてる。
案内しながら司祭さんが女神様の世話をする者をつけますとか言ってたけれど、そこは断固拒否した。
知らない人と四六時中一緒にいられないし……せめて夜くらい気を使わずひとりでゆっくりしたい。
部屋の前に着いてようやくひとりになれるかと思ったら、司祭さんが思い出したかのように
「そうでした。確認させていただきたいのですが、女神様はお食事はいかがなさいますか?」
……食事? もちろん食べるけどっ!
「是非、いただきたいと思います」
「かしこまりました。では、後ほど部屋に持って行かせます」
どうも神にとっての食事は嗜好品ととらえられているみたい……だからお昼抜きだったのかな。嗜好品だから抜いても問題ないって?
いやいや、ごはん食べないとやる気と集中力が大いに削がれてしまう……
「本日はごゆっくりとお休みください。明日もよろしくお願いいたします」
「……ありがとうございます」
案内された部屋に入ると教会同様、多少使い込まれた感はあるもののこまめに掃除されている綺麗な部屋という印象を受ける。
「これって教会の中でもかなりいい部屋なんだろうなぁ……」
部屋には小さな机と椅子があり、机の上にはランプが置いてある。
その横にある扉を開けると水場のようだ。中には水の入った桶と布、そしてよくわからないマメ? 石? にも見えるものと目の細かスポンジ? が置いてあった。
「スポンジっぽいやつと一緒に置いてあるから、石鹸的な何かかな?」
窓際には清潔そうなベットがあり、その上には着替えまで置いてある……ありがたい。着の身着のままだったからね。でも今着てる服の方が女神っぽいから人に会うときはこちらを使い倒そうかな。
造り付けの本棚には本が数冊ある。手に取ってみると……
「おぉ、読める。話す以外の読み書きも問題なく使えるんだ。ちょっと安心した」
あとは壁に小さめだけど鏡がかかっていたので覗いてみた。
「…………コノヒト、ダレ?」
そもそも黒い髪に黒い瞳、体型だって平凡もいいとこ。
服装はチュニックにジーンズ、足元はスニーカーだったんだけど……
こちらに来た時にはすでに薄く柔らかい布が重なったワンピースと編み上げサンダルのようなものに変わっていたので……ああ、女神様仕様か。と深く考えずにいたけれど……というか考える余裕がなかったんだけどね。
「まさか、自分の容姿まで変化しているとは思いもしなかったわ……はぁ」
鏡には透けるような白い肌、グレーの瞳、柔らかそうな金髪が後ろで綺麗に結われたスタイル抜群の美人が覗き返していた。
ただ、ポカーンとした顔が映ってたけど……いやいや、間抜け面してても美人てどういうことよ?
鏡が小さくて全身が写りきらないから思わず椅子に乗って確かめてしまった。きちんとサンダルを脱いで乗りましたよ……編み上げだったからサンダル脱ぐのだいぶ面倒くさかった。
鏡に映る顔立ちは微かに面影が残っているような気もする……いや、ほぼ面影ないわ。
あるとしたら目が2つあって、鼻が1つあってその下に口があることぐらい。残念ながらそれ以外に共通点を見いだせなかった……ぐすん。
あ、ひとつあった。年齢は同じくらいな気がする。
「……そりゃ、みんな女神様だって信じるわー」
……あ、ふたつだった。声もそのままだった。
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる