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第1章
1.女神見習い、爆誕?(1)
しおりを挟む「えっ、なにっ!?」
いつもの道を歩いていたはずなのに突然、足元の地面がなくなり穴に落ちたような錯覚に思わず身をすくめる。
あれ……錯覚じゃないっ! 落ちてるよねっ、これっっ!
一瞬……ただの夢か、もしくは誤ってマンホールに落ちたのかと思ったけど、眠りについた記憶はないし、マンホールに落ちたのならすぐに地下について怪我とかしてるはず……なにより時間がおかしい。明らかに長すぎる。なにこれ怖い。
ついさっきまで通い慣れた道を歩き大学へ向かっていたはずなのに……一体どうなってるのっ!?
『おめでとう。あなたが当選者だよ~。じゃあよろしくね~』
暗闇の中、誰かの知らない声が響いた。
多分、こうなってる原因を知ってる声なんだろうけど……正直、声とかそれどころじゃない……なんか吐きそうなんだけど。
訳も分からないまま、落下しているようなフワッと浮くような正体不明の気持ちの悪い感覚がしばらく続いた……こういうの弱いんだよ。ただ思うことはひとつだけ。
「やばい、もう吐くかも……」
体感時間としては5分くらいだろうか? そろそろ限界が近づいてきたよ……
ようやく落下が終わりフッと身体が軽くなった気がするとともに、ギュッと閉じた瞼越しでも眩しい光を感じた。
当分は……いや、もう一生経験したくない感覚からようやく解放され、たどり着いたその先は……すごく人視線を感じる場所でした。
具体的には何かしらを祀ってある祭壇の上……だった。
なんとか転ぶことは避けられたけど、へっぴり腰で両手を前に突き出し立っている姿はちょっとどころか、ものすごく恥ずかしい。それなのに大勢にそのシーンを目撃されるってどんな拷問?
自分の醜態は一旦横へ置き……周囲を見渡すとかなりの人々がこの空間に集まっているみたい。
パッと見ただけで数十人。こちらを見上げる人々の瞳はなぜか潤んでいたり、驚いていたりする……これはかなりまずいんじゃなかろうか。
急にこんな所に現れたら怒られちゃうよ! ましてや祭壇の上に乗っちゃってるわけだし……ほら、なんか偉そうな人がこっちにすっ飛んできてるっ!
やばいっ、怒られてここから引きずり降ろされるんだっ……と思いきやその人は私に背を向けたままこう宣言した。
「皆様、ついに……ついに女神様が降臨なされました!」
その瞬間、静まり返っていた空間が歓喜と涙で埋め尽くされた。
いや、冗談とかじゃなく本当に……
「…………」
女神様ってなんだそれは……
その時、頭の中でさっきと同じ声が聞こえてきた。
『あっ、そうだ言い忘れてた! あなた、女神見習いになったからぁ。私の代わりにしっかり女神様してくれると嬉しいなぁ。じゃあよろしくね~』
はぁ、女神見習い?
ちょっと何言ってるんでしょうか……意味不明すぎて……ねぇ?
『突然申し訳ありません。わたくし先ほどの女神の部下でコルドと申します。どうやら一足遅かったようです。現在、エナ様は女神としてこの教会に降臨したということになっています。火急の知識や力、使い方などはひと通り送っておきますのでとりあえずそれでなんとか凌いでください。また、ご連絡します。本当に申し訳ございません』
声が途切れた途端に頭の中にいろいろな情報が流れ込んできた。
情報が多すぎて頭痛いし、なんだか混乱してきた。
まずは情報を整理しよう……うん? つまり私が女神様?
正式には女神見習いか。さっきの当選っていうのは女神見習いに当選しましたってことかな? 全然うれしくないんだけど。
そしてここ教会だったのか。祭壇があるのも納得だわ……
先ほど勝手に流れ込んできた基本的な知識によれば、さっきの女神様が出来ることは女神見習いでもある程度出来るらしい。
劣化版みたいな感じではあるけど、今は使いこなせなくてもそのうち使えるようになるみたい……多分。
ていうかこの世界、魔法使えるのね……
そして、降臨した女神の主な仕事は教会を訪れる人に女神の加護を授け、回復魔法で人々を癒し、瘴気にさらされた人や呪いにかかった人を浄化する。
期間は未定で元の世界に帰れるかどうかも不明。
情報としてはわかった。わかったけど、突然女神様なんて言われても無理無理無理。
頭では理解できても心がまったく追い付かない……それにいくら祭壇に突然現れたからと言って普通の女子大生が出てきて女神だって信じるかな?
……あれ、現在進行形でみんな信じてるっぽいな、うん。
そういえばなんか勝手に服装も変わってるし、持ってた荷物も無くなってるじゃないか……はぁ。
とにかく一旦ひとりで考えたい。できればこのままフェードアウトしたい。
よしっ、まずは穏便に……そーっとこの場から抜け出そう。うん、そうしよう。
できる限り存在感を薄くしてこっそり台から降り、出口らしき扉に向かおうと試みる。
……はい、無理でしたー。
あっけなく惨敗してしまった。だって、私が動くたび……
「女神様いかがなさいましたか?」
「「「女神様~」」」
ってたくさんの人がぞろぞろ付いて来る。
一応、私と一定の距離を保っているけど……女神の一挙一動を見逃さまいと視線が集中している。ちょっと存在感なくしたぐらいじゃダメだったね……
周りからの期待に満ちた視線が突き刺さって痛いな……
私が何とか抜け出そうと右往左往していたその間も人々の興奮は冷め止まず、逆に嬉しさ? のあまり気絶する人もいた。え、大丈夫?
さらには街中に女神降臨の知らせがあったようで
「「「「数百年の時を経て女神様が降臨されたぞー」」」」
ガラーン、ガラーン……ガラーン、ガラーン……
鳴り響く鐘とともに教会の方まで聞こえてくる始末。
その知らせのおかげなのか、先ほどから多くの人が続々と教会にやってきていた。うん、ちょっと空気が薄くなった気がするな。
数百年ぶりの降臨とか……女神様何やってんのさ……
「あー、もう。逃げるとか無理かも……」
大きなため息とともに呟いたその声は、幸か不幸か教会の騒々しさに紛れて誰の耳にも届くことはなかった。
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