1 / 120
第1章
1.女神見習い、爆誕?(1)
しおりを挟む「えっ、なにっ!?」
いつもの道を歩いていたはずなのに突然、足元の地面がなくなり穴に落ちたような錯覚に思わず身をすくめる。
あれ……錯覚じゃないっ! 落ちてるよねっ、これっっ!
一瞬……ただの夢か、もしくは誤ってマンホールに落ちたのかと思ったけど、眠りについた記憶はないし、マンホールに落ちたのならすぐに地下について怪我とかしてるはず……なにより時間がおかしい。明らかに長すぎる。なにこれ怖い。
ついさっきまで通い慣れた道を歩き大学へ向かっていたはずなのに……一体どうなってるのっ!?
『おめでとう。あなたが当選者だよ~。じゃあよろしくね~』
暗闇の中、誰かの知らない声が響いた。
多分、こうなってる原因を知ってる声なんだろうけど……正直、声とかそれどころじゃない……なんか吐きそうなんだけど。
訳も分からないまま、落下しているようなフワッと浮くような正体不明の気持ちの悪い感覚がしばらく続いた……こういうの弱いんだよ。ただ思うことはひとつだけ。
「やばい、もう吐くかも……」
体感時間としては5分くらいだろうか? そろそろ限界が近づいてきたよ……
ようやく落下が終わりフッと身体が軽くなった気がするとともに、ギュッと閉じた瞼越しでも眩しい光を感じた。
当分は……いや、もう一生経験したくない感覚からようやく解放され、たどり着いたその先は……すごく人視線を感じる場所でした。
具体的には何かしらを祀ってある祭壇の上……だった。
なんとか転ぶことは避けられたけど、へっぴり腰で両手を前に突き出し立っている姿はちょっとどころか、ものすごく恥ずかしい。それなのに大勢にそのシーンを目撃されるってどんな拷問?
自分の醜態は一旦横へ置き……周囲を見渡すとかなりの人々がこの空間に集まっているみたい。
パッと見ただけで数十人。こちらを見上げる人々の瞳はなぜか潤んでいたり、驚いていたりする……これはかなりまずいんじゃなかろうか。
急にこんな所に現れたら怒られちゃうよ! ましてや祭壇の上に乗っちゃってるわけだし……ほら、なんか偉そうな人がこっちにすっ飛んできてるっ!
やばいっ、怒られてここから引きずり降ろされるんだっ……と思いきやその人は私に背を向けたままこう宣言した。
「皆様、ついに……ついに女神様が降臨なされました!」
その瞬間、静まり返っていた空間が歓喜と涙で埋め尽くされた。
いや、冗談とかじゃなく本当に……
「…………」
女神様ってなんだそれは……
その時、頭の中でさっきと同じ声が聞こえてきた。
『あっ、そうだ言い忘れてた! あなた、女神見習いになったからぁ。私の代わりにしっかり女神様してくれると嬉しいなぁ。じゃあよろしくね~』
はぁ、女神見習い?
ちょっと何言ってるんでしょうか……意味不明すぎて……ねぇ?
『突然申し訳ありません。わたくし先ほどの女神の部下でコルドと申します。どうやら一足遅かったようです。現在、エナ様は女神としてこの教会に降臨したということになっています。火急の知識や力、使い方などはひと通り送っておきますのでとりあえずそれでなんとか凌いでください。また、ご連絡します。本当に申し訳ございません』
声が途切れた途端に頭の中にいろいろな情報が流れ込んできた。
情報が多すぎて頭痛いし、なんだか混乱してきた。
まずは情報を整理しよう……うん? つまり私が女神様?
正式には女神見習いか。さっきの当選っていうのは女神見習いに当選しましたってことかな? 全然うれしくないんだけど。
そしてここ教会だったのか。祭壇があるのも納得だわ……
先ほど勝手に流れ込んできた基本的な知識によれば、さっきの女神様が出来ることは女神見習いでもある程度出来るらしい。
劣化版みたいな感じではあるけど、今は使いこなせなくてもそのうち使えるようになるみたい……多分。
ていうかこの世界、魔法使えるのね……
そして、降臨した女神の主な仕事は教会を訪れる人に女神の加護を授け、回復魔法で人々を癒し、瘴気にさらされた人や呪いにかかった人を浄化する。
期間は未定で元の世界に帰れるかどうかも不明。
情報としてはわかった。わかったけど、突然女神様なんて言われても無理無理無理。
頭では理解できても心がまったく追い付かない……それにいくら祭壇に突然現れたからと言って普通の女子大生が出てきて女神だって信じるかな?
……あれ、現在進行形でみんな信じてるっぽいな、うん。
そういえばなんか勝手に服装も変わってるし、持ってた荷物も無くなってるじゃないか……はぁ。
とにかく一旦ひとりで考えたい。できればこのままフェードアウトしたい。
よしっ、まずは穏便に……そーっとこの場から抜け出そう。うん、そうしよう。
できる限り存在感を薄くしてこっそり台から降り、出口らしき扉に向かおうと試みる。
……はい、無理でしたー。
あっけなく惨敗してしまった。だって、私が動くたび……
「女神様いかがなさいましたか?」
「「「女神様~」」」
ってたくさんの人がぞろぞろ付いて来る。
一応、私と一定の距離を保っているけど……女神の一挙一動を見逃さまいと視線が集中している。ちょっと存在感なくしたぐらいじゃダメだったね……
周りからの期待に満ちた視線が突き刺さって痛いな……
私が何とか抜け出そうと右往左往していたその間も人々の興奮は冷め止まず、逆に嬉しさ? のあまり気絶する人もいた。え、大丈夫?
さらには街中に女神降臨の知らせがあったようで
「「「「数百年の時を経て女神様が降臨されたぞー」」」」
ガラーン、ガラーン……ガラーン、ガラーン……
鳴り響く鐘とともに教会の方まで聞こえてくる始末。
その知らせのおかげなのか、先ほどから多くの人が続々と教会にやってきていた。うん、ちょっと空気が薄くなった気がするな。
数百年ぶりの降臨とか……女神様何やってんのさ……
「あー、もう。逃げるとか無理かも……」
大きなため息とともに呟いたその声は、幸か不幸か教会の騒々しさに紛れて誰の耳にも届くことはなかった。
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

とある婚約破棄の顛末
瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。
あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。
まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる