目覚めたら7歳児でしたが、過酷な境遇なので改善したいと思います

瑞多美音

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第1章

11 我々はグループ分けされているらしい

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 毎日が忙しなく、あっという間に過ぎ去っていき……前世を思い出してから早7日が経過していた。

 肉体的にはしんどいし疲れているけど、この部屋のみんなと支えあうことで精神的にはそこまで辛くない。
 前の部屋ではそれぞれが干渉せず、会話も少なくて……自分のことで精一杯という感じだったけど、ここは死にかけグループだからなのか妙な一体感があってまるで家族のようだ……まさに一心同体って感じかな。
 あと、前の部屋と比べ会話量が増えたからなのか、話すことになれたからなのか早口じゃなければ噛まなくなった。地味に嬉しい。


 
 ここ数日観察してみることでわかったことがいくつかあった。
 今までは見ていても気づかないことが多かったけど、話を聞いたり今世の出来事も前世の記憶があることでしっかりと理解できるようになったみたいだ。

 例えば……普通の奴隷は石造りの古い家が基本で家や部屋ごとにグループ扱いされていること。

 大体、5人から10人がひとグループ(班)とされ体格や魔力量により仕分けられているのだ。

 大きく分けると……
 鉱山などで魔石の採掘や洞窟内の魔物討伐を担当する【採掘グループ】
 森や山などで採取や木材の切り出し、魔物、魔獣を討伐を担当する【採取、狩猟グループ】
 農作業全般を任される【農作業グループ】
 子どもを産んだことで期間限定だが待遇がよくなったひとたちが暮らす【旧広場地区グループ】
 幼い子どもたちの教育と世話を担当している【養育グループ】
 そしてわたしたちのいる【死にかけグループ】に分けられる。

 【農作業グループ】はそのなかでさらに奴隷たちの食事を作る食事班、生活必需品(バケツ、器など)を作っている細工班などにわかれているが、いずれも農作業と兼任であるし、それぞれ一定のノルマがある。
 比較的魔力の多い者が集められた魔石班というのも存在する。
 魔石班は農作業などは少ないが魔石のノルマが多いのだ。わたしも前は魔石班に属し水汲みと魔石作りを担当していた。
 もっとたくさんグループがあるのかもしれないが、現時点で知っているのはこれだけだ。

 余談だが……マチルダさんが魔力量が多いにも関わらず、養育班にいたのは十数年前の待遇改善などで急激に子どもの数が増え、養育班が必要になったから。
 いろいろな班からひとが集められることになったのだが、マチルダさんはその頃はまだ健康で、魔石班のなかでは魔力が少なめだったんだって。

 そして、わたしたち【死にかけグループ】はかつての教会の部屋に数人ずつまとめて入れられていることも理解した。
 といっても聖堂なんかはすべて壊されて、ほとんど半壊している部屋にだけど……聖堂自体が大きかったのか他の死にかけの部屋とは結構離れているらしい。

 なんでも死んだら教会の裏にある共同墓地へ運ばれるので、死にかけがここへ放り込まれるのは遺体を運ぶ手間が省ける(運ぶのは奴隷だけど)からではないか?とのこと。墓地があるだけましなのかもしれないけど、嫌な気分だ。

 この死にかけ部屋制度も十数年前の世代交代くらいからはじまったらしい。
 健康な奴隷が死にかけの世話をして時間を浪費することが許せなくて、墓地に近い部屋に放り込んだのが始まりだってさ……現王がやり手なのか、くそ野郎なのか。
 一方には待遇を改善して、一方には勝手に死ねとばかりに……その上、放り込んだ者たちが生き残ったと知るやノルマが発生だもん。うん、効率主義のくそ野郎だな!

 さらに奴隷は家や部屋もボロい順に詰め込まれているみたいだ。たとえ余っていても状態のいいところはなるべく使わせたくないらしい……まぁ、子どもを生んだら報酬として住まわせてもらえるようだが。
 ただ、森や鉱山に近い家や部屋にはそこへ行く肉体労働者が集められグループにされているようで家もボロい順ではなく効率重視っぽい。

 ちなみに森へ行く採取チームは動物や魔物の狩りもあるが、森の中でしか採取できない果物や薬草採取も含むらしい……自由時間にグウェンさんにたくさん質問したことで知ることができた。
 魔物は素材しかとれないもの、魔獣は食用可能なものを指しているらしい……まぁ、解体までは奴隷の担当だが魔物の素材も魔獣の肉もわたしたちのもとにはやってこない。すべて帝国行きだ。
 あ、小説であるような魔物の心臓部に魔石が埋まっているようなことはないみたい。

 「森ん中はなぁ……ほとんどの見張りはびびってついてこねぇし、ノルマさえクリアできれば目を盗みつつ木の実や薬草を食えるんだ。持ち帰るのはリスクが高いから、その場で消費が原則だがな」

 森のなかにはグミの実っぽいものがとれたり、コケモモっぽいベリーやキイチゴなどもあるようだ。

 高い木になっている果物系はとるのが大変らしいので、盗み食いなら低木になる実が狙い目らしい。

 あ、わたしがグウェンさんから聞いた特徴から勝手にそれっぽいと思って呼び名にしてるだけだから、正式名称は知らないよ?実物見たら別物とか全然あると思うし……

 そのため採取チームは若干体つきもよい人が多いようだ。
 ただし、反抗する気を起こさぬよう武器は厳しく管理されるんだって。具体的には森の出口で武器は即回収……逆らったり、見張りによってはなにもしていなくても隷属の魔方陣が作動されるみたい。うわぁ、見張りの憂さ晴らしに付き合わされるとか最悪……

 「へぇ……でも、甘いものももちろんだけど、ほかのものも少しでも食べられるのはうらやましいな」
 「その分、危険だぞ?俺やフランカを見てみろ。それにノルマも結構厳しいから少しの盗み食いじゃ釣り合ってはいねぇな」
 「そうだった……ごめんなさい」
 「気にすんな」

 ……グウェンさんやフランカお姉ちゃんはそれで怪我してここへ来たんだった。あ、でもフランカお姉ちゃんは見張りのせいだったか。
 甘い話は転がってないってことか……


 ◇ ◇ ◇
 

 派遣されてきた帝国人は貴族が住むような立派な建物が立ち並ぶ地区に住んでいるらしいことも気づいた。

 魔石の受け渡しの建物へ行くときに明らかにきれいな建物たちが遠くに見えるんだけど……ジロジロと見るわけにもいかず、どれぐらいのひとが住んでいるかは不明だし、元々あったのか新たに建てたのかもよく知らない。
 ただ、ズラーッと塀が並んでおり、こちらからは門を利用する以外、簡単に出入りできないようだ。
 魔石の受け渡しの道中にチラチラ見ていると……
 
 「メ、メリッサちゃん、どうしたの?」
 「うん、あのね……フランカお姉ちゃん、あそこの遠くにみえるたてものしってる?」
 「あ、あそこはみ、見張りたちが住んでるところなのよ。じ、住居にはわ、私たちは侵入禁止なのよ。て、帝国の兵士見習いや使用人が生活環境をと、整えているみたい」
 「へぇ……」
 
 そこは奴隷を使わないんだ……なにか機密情報でもあるのかな。うーん、ただ単に自分たちの生活空間に奴隷を入れたくないだけかも?
 門にも見張りが立っているのでわたしたちは徹底して遠ざけられている。
 
 
 「あ、あまり見ないようにしようね……目をつけられたらた、大変」
 「わかった」

 最近の帝国からの見張りは左遷扱いらしく、半年で交代制なんだとか。
 期間が半年なのは情を持たせないためとか言われてるけど……実際はどうだか。
 ほとんどの見張りはひたすら帰還まで説明書通りに過ごしてるって感じがする。
 融通は利かないかわりに変な欲もないから、わたしたちがきちんと仕事をしていれば大体放置、時々嫌がらせ(憂さ晴らし)が基本かな。ただ、説明書にあることはキッチリしてくるけどね。
 それがいい方に転ぶ時もあれば……雨でも構わずに水汲みさせるようなことにもなるから微妙だよね。

 余談だが……
 鉱山のそばを【鉱山地区】、森や山のそばを【第一地区】、畑がほとんどを占める【第二地区】、旧教会や塔、墓地がある【第三地区】と区分けされており、旧広場がある【旧広場地区】は第二と第三地区の中間に位置する。
 ちなみに子供たちがまとめて育てられているのは第一地区に近い第二地区内である。

 派遣されてきた帝国人が暮らす地区の向こう側にもまだたくさんの土地がありそうだけど、そちらに奴隷はいないと思う。
 魔石や魔物の素材などの運搬も兵士たちが自ら行っているし、我々が入らないように徹底させているところをみてそう考えた。


 そうやって、日々少しずつ情報を集めながらも夜の自由時間には魔力を感じようと瞑想をして過ごしているのだが……残念ながらほぼ寝落ちという結果に終わっている。
 ここでは外に飛ばす系の魔法は使い方は知られていないようだし、あるのかも不明だ。
 なかなか道のりは険しい……魔法が使えればいろいろと出来そうなのになぁ……魔法はイメージ次第ってよくいうから、魔力さえ掴めればなんとかできそう気がしているのにもどかしい。


◇ ◇ ◇


 今日は珍しく寝落ちしなかった。それは……

 「ごほっ、ごほっ……」

 昨日からマチルダさんの身体の調子が悪いようなのだ。心配なこともあり瞑想に集中できなかった。
 
 「マチルダさんだいじょうぶ?」
 「ええ。ごほっ……これくらいいつものことよ」

 マチルダさんは1日中、咳がとまらなかったみたい。顔色も悪いし、起き上がることもつらそうだ。

 「数日は無理しない方がいいね」
 「でも……ごほっ、ごほっ……」
 「わたし、マチルダさんの分もがんばるね!」
 「わ、私もっ!が、頑張りますっ!」


 今日はぎりぎりノルマを達成できたけど、最後にはマチルダさんにも手伝わせてしまった。結局、あまり休むことができなかったんじゃないかな……

 「今日は早く休みな」
 「はい……ごほっ、ごほっ……」

 暖かい毛布でもあればましなんだろうけど、そんなものがないこの部屋では回復にも時間がかかる。

 寝るときはなるべく部屋の奥で集まって寝ているけど、それにも限界がある。
 集まって寝るようになったのは誰から言い出したわけでもなく自然とそうなった……まぁ、出入り口や天井から風が吹き込むからあまり意味はないかもしれないが。
 基本的にマチルダさんが真ん中で、体調を崩しやすいマチルダさんや年齢的にも要注意なおばばさまとマイケルじいちゃんをあたためる感じ。
 まぁ、わたしは寝落ちしてることが多いから起きたらそう並んでるんだけど……
 わたしはマチルダさんとおばばさまに挟まれたり、マイケルじいちゃんのとなりにいたりと様々だ。ゆたんぽがわりかな?幼児って体温高いって言うし、役に立ててるなら何よりです。

 幸いにもこの辺りは気候が温暖なおかげで、凍死者が出ることはほとんどないみたいだけど……少し先に長雨の季節があるから要注意なのだ。
 長雨の季節は部屋が水漏れして寒くなるし、濡れていないスペースも限られる。
  前の部屋でさえそうだったのだ。空が見えるほど半壊したこの部屋ではもっとだろう……雨漏りもありそうだし。
 濡れても着替えはないので体温を奪われしまうし、体の弱いひとはなおさら注意しないと……

 わたし的には雨で思いっきり水浴びができるのは嬉しいんだけどねぇ……
 今はたまに降る雨以外はぼろ布を濡らして体を拭くぐらいしかできないので……食べられないけどいい匂いのする葉っぱを服や体に擦り付けてごまかしている。
 多少、ましになるかなって程度だけどしないよりは……ね。
 あ、歯ブラシもその辺に落ちていた枝を拾ってきて、きれいに洗ってから石で叩いてほぐして磨いているよ。歯は大事だと思うの……固いパンが食べられなくなったら詰むもの。
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