目覚めたら7歳児でしたが、過酷な境遇なので改善したいと思います

瑞多美音

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第1章

3 1日のはじまり

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 カーン、カーン……カーン、カーン……カーン、カーン……

 いつのまにか気を失うように眠ってしまったらしい。

 「あ、あしゃだー」

 うわぁ、噛んだ……恥ずかしい。
 えっと……いち、に、さん……鐘が6回鳴っているから朝6時だな。
 ふぅ……寝過ごしてしまったわけではないようでひとまず安堵した。
 
 昨日の夜?と比べると気分もずいぶんと良い。昨日は力の入らなかった手足も思い通りに動くし、楽に起き上がることもできた。
 ちょっとだるいけど……これなら十分動き回ることができそうかな。若いからかな?回復力すごいね……この世界ではあたりまえとか?うーん、よくわからないや。

 そっと見回すと両隣には昨日いろいろとお世話をしてくれていた火傷のお姉さんと少し顔色の悪いおばさ……お姉さんが寝ていた。
 もしかして冷えないように温めてくれたのかな……そうだとしたら、その気遣いすごくありがたいな。

 「おや、起きたのかい?」
 「……はい。おはようございます」

 おばあさんはすでに起きていたみたい……噛んだの聞かれちゃったかな?よし、恥ずかしいから聞かれてなかったことにしよう!そう、わたしは噛んでなどいないのだ!

 「おはよう……体調はどうだい?」
 「えっと……だいじょうぶです」
 「それはよかった。早速だけど、ここは役立たずが集められた死にかけグループだ。知ってるかい?」
 「きいたことあります」
 「そうかい」

 やっぱり役立たずグループだったか……
 たしか部屋は半壊、冷たい床に薄い布団、ご飯は他のグループと比べるとかなり少なくて1日1食、固いパンが3個とスープ2杯になるんだっけ?
 今のところ、ご飯以外はすべてあっているなぁ……ん?何故、そんなことを知っているかって?
 それは……役立たずにならないようにと言い聞かされて育つし、見張りにもよく役立たずは死にかけに入れてやるぞと脅されていたからだ。ふた言目には『役立たずは……』なんだから、いやでも覚えてしまった。

 ここへ来る前は1日1食に変わりはないけど、固いパンが6個とスープ3杯、5日に1度生野菜か果物を食べることができたのだ。あとは薄い布団のしたに藁がひけるのだったか。
 あ、これは前いた部屋での記憶だから部屋の人数によって多少の差はあるはず……でも概ね間違ってないと思う。


 そして、もうひとつ。
 1度死にかけグループに入れられると死ぬまで死にかけグループから出ることはできないらしい。
 たとえ死にかけたあと回復しても……その後はそこで動けないひとの世話をし、最後を看取らせるためらしい……これもすべて見張りや大人たちが言っていたことだ。大人たちのなかには死にかけに行くくらいなら潔く逝きたいとこぼすものもいたっけ……
 なんだか、色々と都合よく脅し文句に使われている印象だし、大人たちからしたらいちばん避けたい場所のようだった。
 
 「ま、扱いが他よりちょっとひどいが……部屋でできる仕事がまわってくる。慣れればなんとかなるさ」
 「……はぁ」
 「何とかならなきゃ私らはとっくに死んでるだろ?それにここ数年、この部屋で死人は出てないからね」

 それもそうか……というか、死にかけグループなのに亡くなったひとが出てないとか、かなりすごいことだと思う。大人たちや見張りの話と違う……
 

 「死人が出るかとヒヤヒヤしたのは数年振りだ……回復してよかったよ」
 「そう、ですか……」

 そう聞くとわたし自身もかなり危ない状態だったのかもしれないなぁ……

 「そういやぁ……お前さんは伝染性の熱病と思われてここに突っ込まれたんだと」
 「ねつびょう……」
 
 伝染性かぁ……インフルエンザとかそういうやつかな。あー、この土地ならではの風土病の可能性もあるか……

 「ごほっ……多分、伝染病ではないと思うわ。そうならすでに私にうつってるはずだもの……ごほっ、ごほっ……あ、この咳はいつものことだからきにしないでね」
 「……はい」

 あ、隣で温めてくれたおば……お姉さんだ。鐘を合図にそれぞれが起床したようで、気付けばほとんどが起きてわたしたちの話を聞いていた。

 「うーん。たしかに体の弱いマチルダにうつらなかったのなら伝染性の熱病とは違ったのかもしれないねぇ」
 「だが、他の部屋の死にかけに入れられた子の何人かはくたばっちまったらしいぞ」
 「そうだったのね」

 あぁ……この部屋が特別だっただけで見張りの言っていたことは正しいのかも。
 そうか。わたし以外にも病にかかった子がいたんだ……
 病に打ち勝てるだけの体力がなかったのかな。どうか、来世では幸せに暮らしてほしいな……

 「そうかい……そりゃ、あんなガリガリじゃあね……お前さんも似たようなものか。運が良かったね」

 あー、これはわたしもかなりガリガリだってことですね……

 「はっ……帝国は奴隷を減らしたくはないが、役に立たない死にかけは減らしたかったんだろうよ」
 「うむ。伝染病なら役立たずを上手いこと減らせるとでも思ったかもしれんのぉ……」
 「今回やたら子どもが死にかけに入れられたのはそのせいなのね」
 「いつもなら、まだ入れないような子どもも死にかけに押し付けたみてぇだしな」
 「ひ、ひどいです……」
 「それが事実さ」
 「まだ、何人かは生きてるらしいけど、どうなるかわかんねぇな……」
 「そうかい」

 うわぁ……すごく嫌な話を聞いてしまった。
 どうやら子どもばかりが倒れたようだ……それならば心当たりがある。

 「あ、あまり大きな声でい、言わない方が……」
 「おっと、そうだったな」
 「うむ」

 
 わたしだって生死をさまよって前世を思い出したぐらいだもんね……それに、他の死にかけグループがこの部屋のようにお世話してくれたかわからないし。
 わたしの場合、寝るときは両隣であたためてくれていたみたいだし、火傷のお姉さんは昨日わたしが考え込んでいる間もこまめにお世話してくれていた。
 きっと、寝込んでいる間もこうしてくれていたと考えたら……ほんとうに少しの差だったのかもしれない。まさにこの部屋に入れられたわたしは運が良かったのだろう。

 「それに見張りの話を盗み聞きしたら、ノルマが達成できてない班に子どもを多めに振り分けて部屋ごと潰そうとしたみてぇだしな」
 「……そうだったのかい。どおりで子どもの振り分けかたが変だと思ったよ」
 「嫌なことをするのぉ」

 ほんっとに、くそだな……

 生死をさまよったせいなのか……人格は前世寄りになってしまったみたいだけど、今世のわたしも確実に混ざっているのを感じる。よかった……乗っ取ってしまったとか憑依したというわけではなさそうだ。多分。
 といっても、前世の記憶がよみがえる前までのわたしはあまりしゃべらずボーッとしていることが多かったみたい。
 ただ、睡眠と食べ物に対してはかなり貪欲だったようで、食事時のお祈りは欠かさなかったけど……普段は必要最低限しか動かなかったし、朝は作業時間のギリギリまで寝て、夜は自由時間の鐘が鳴ると同時に眠りについていたぐらいだ。うん、知らず知らずのうちに体力温存してたおかげでギリギリ回復が間に合った可能性もあるのかも。

 感情の起伏がないというよりもどことなく大物感が漂うどっしり構えているタイプかな?見張りに怒鳴られても平然としてたもんね……前世のことを取り乱さず自然と受け入れられているのは今世の性格が大きい気がする。前世の私だけなら、もっと取り乱して奇行にはしってたはずだ……
 

 「まぁ、いい……仕事は7時からだ。お前さん名前はあるかい?」

 そうだ。まだ、自己紹介もしていなかった。

 「えっと、メリッサです……たぶん7しゃい」

 なんの因果か、前世の名前と似ているんだよね……前世はりさ。今世はメリッサ。
 この質問で分かるかもしれないけど、子どもの中には名前をつけてもらえない子もいるのだ。ほとんどいないんだけど……それに関してはまた今度。


 あれ、おかしいな……さっき、噛まなかったことにしたはずなのにっ。今回はごまかしようがないじゃないかっ……どうやら今世のわたしはひとと会話する機会が少なかったからか噛みやすいようだ。
 短い言葉ならば問題はないけど、長文は舌が回らないみたい……ボーッとしていた弊害がこんなところにでるとは……
 『あえいうえおあお』とか発声練習すべきだろうか。それとも早口言葉で鍛えるとか?……うーん、ひとりでブツブツやってるの見られたら変な子ども扱いされそうだよなぁ……え?すでに前の部屋では変わった子ども扱いだったって?いやいや、まさかぁ……そんなことない……よ、ね?
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