俺はモブなので。

バニラアイス

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渡せない

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カグラが足を避けると、ハンカチは土やホコリで汚れ、とても悲惨なものになっていた。


「こんなゴミをレイ様に渡そうだなんて、いい気になるなよ、クレノ・シア。」

「......」

「そんな汚いものレイ様に贈らないよう、僕が捨てといてあげるよ。」

そう言って汚い物を持つようにハンカチを持ったカグラを見た瞬間、俺の中で何かがブツリと切れる音がした。


「ぎゃっ....」

通り過ぎようとしたカグラに俺は足を出し引っかけ、倒れたカグラが惨めな声を出す。


「痛っ....何すんだよ!」

「すみません、足が勝手に出てしまって。」

「勝手に足が出るわけないだろ!バカにしてるのかよ!!」

「してますけど?あ、ハンカチは返してもらいますね。」

カグラからハンカチを奪い返し、見下ろしながら俺はカグラを睨みつけた。


「そうやってずっと地べたに這いずってろよ。


このゴミクズが。」

我ながら素晴らしい暴言をカグラに吐き捨て、殴りたい衝動を抑えて倒れたままのカグラをその場に置いて歩き出す。

後ろでカグラの怒鳴り声が聞こえてくるが、俺はハンカチを握り締めながらその声を無視して足早にその場を後にした。


そしてしばらく歩いた後、誰もいない場所を見つけた俺は、ぐしゃぐしゃになり酷く汚れてしまったハンカチを見つめる。

(頑張って縫ったんだけどな....)

第二皇子の為に、時間を割いて必死に頑張った。
でもこんなに汚れてしまったハンカチを、第二皇子に渡す事なんてできない。


「殿下に喜んでもらいたくて、必死に頑張ったんだけどなぁ....」

俺の目から悔しさで自然と涙が溢れてくる。

「っ....ふっ....うぅ....」

拭っても拭っても、涙は止まらない。


そんな誰にも気付かれないような物陰に隠れながら、涙を流す俺を....


「クレノ。」

どうして第二皇子は見つけてくれて、優しく後ろから抱き締めてくれるのだろうか。

    
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