俺はモブなので。

バニラアイス

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バラ園

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部屋を出てから皇后陛下とものすごく広い庭園を散歩し、今はバラ園でお茶をしている。

......が、俺は優雅に茶を啜りながらも、心の中ではまったく別の事を考えハラハラしていた。


「......クレノくん。」

「は、はい!」

「そんなに心配しなくても大丈夫よ?少なくとも殺し合いの喧嘩はしないだろうから。」

「.....はい....」

皇后陛下は心配ないと言うが、それでも心配なのだ。
まだ体調も万全ではないのに、皇帝陛下とどんな話をするのだろうか。


「今はあの二人の事は忘れて、お菓子でも食べましょう?このミルフィーユ、とても美味しいわよ?」

目の前に差し出された美味しそうなミルフィーユ。
いつもなら喜んで食べるのだが、今はそれどころではないくらいに第二皇子が心配だ。

だが皇后陛下から差し出されたものを食べない訳にもいかず、俺はミルフィーユを一口食べる。


「.....美味しいです。」

美味しい......でもすぐに第二皇子が頭に浮かび、食べていた手を止めてしまう。

「......クレノくんは、レイのどこが好きなの?」

「え?」

「母親の私が言うのもなんだけど、無表情で無愛想で笑いもしないし、話もつまらないし会話も続かない。

普通の人間よりちょっとお金を持っていて、すべてにおいて秀でた才能を持っている子ではあるのだけれど、私だったらあんなのと恋人だなんて絶対お断りよ。

だから知りたいの。あなたはレイの一体どこが好きなのかしら?」

実の息子に酷い言いようだな。と思いながら、俺は少し考えた後、皇后陛下の問に答える。

「.....全部....です。

俺を優しく撫でてくれたり、頑張って会話を続けようとしてくれたり、優しく微笑んでくれたり......全部が大好きです。」

こんな惚気を第二皇子の母親にするなんて、すごく恥ずかしい。

でも言いたかった。

俺がどれだけ、第二皇子を.....皇后陛下の息子を好きなのか、ちゃんと知ってほしかった。


「ふふっ....惚気られちゃったわね。」

「すみません......」

「いいのよ。.....クレノくん。これからもどうか、私の息子をよろしくね?」

「っ.....はい!!」

優しく微笑む皇后陛下の姿に、どれほど第二皇子を愛しているかが伝わってきた。


「......あら。どうやら今日はここまでのようね。」

俺の後ろを見つめながら、皇后陛下が残念そうにため息をつく。


「クレノ。」

「殿下!」

どうやら皇帝陛下との話が終わり、俺を迎えに来てくれたようだ。

「クレノ、私の熱がまた上がってきたみたいなんだ。

だから、一緒に私の部屋へ帰ろう。」

「えぇ!?分かりました!すぐに部屋に戻りましょう!」

第二皇子の言葉を聞き、俺は急いで立ち上がる。


「母上。クレノは返してもらいますよ。」

「もう少し一緒にいたかったのに、残念ねぇ.....クレノくん。明日もこうやってお散歩しましょうね?」

「あ、はい「クレノとの時間は先約がありますので、それでは。」

第二皇子が言葉を遮り、俺の手を掴んで皇后陛下に背を向け歩き出した。

「あっ.....こうご.....お義母様、申し訳ありませんが失礼します!」

そして俺は第二皇子に引っ張られながらも皇后陛下へお辞儀し、第二皇子に着いて行く。


「......私の息子は父親に似て本当に嫉妬深いわぁ。

クレノくんはこれから苦労するでしょうねぇ......」

そう自分の息子とその恋人を眺めながら、小さく皇后陛下は呟いた。

    
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