俺はモブなので。

バニラアイス

文字の大きさ
上 下
87 / 261

友達になりたい理由

しおりを挟む


自分の考えていた事とはまったく違う言葉がアメリア・クロンディアから発せられ、何を言われたのか理解できずに思考が停止する。


「....え、えっと....?」

「私とお友達になりましょう。」

「友達....ですか?」

最初は冗談を言っているのかと思ったが、あまりにも真剣な皇女の表情を見て、どうやら本気で俺と友達になりたいと言っているようだった。


「あの....どうして俺なんですか?」

まずそこだ。

一国の皇女とただの子爵令息の俺じゃ、身分的にも容姿的にも不釣り合いだろう。
それなのに、どうして他の誰でもない俺に友達になろうだなんて言うのだろうか。


「......実は私、お菓子作りが趣味なんです。」

「え?」

(皇女様が?お菓子作り?)

一国の第二皇女が?


「昔からお菓子作りが好きで、幼少の頃は作ったお菓子をお兄様に差し上げたり、お茶の席で私が作ったものだと気付かれないようにこっそり出したりしていました。

ですが勝手に厨房を借りてお菓子を作っている事を両親にバレてしまって、皇族としてあるまじき行為だと作るのを禁止されてしまいました。」

皇女はそう言って、分かりやすく肩を落とす。

「それでしばらくは諦めていたのですが.....この学園に入学してからはどうしても作る事を我慢できなくなってしまって、最近は学園の厨房を夜中にこっそりお借りしてお菓子を作っているんです。

でも....作るのは良いのですが、食べてくれる人が誰もいなくて.....」

「お兄様には差し上げないんですか?」

「お兄様は忙しいようで、私が学園に入学してからはほとんど顔を合わせていなくて.....

同じクラスの方々や先生、使用人達にも勇気を出して声を掛けたのですが、なぜか逃げられてしまって.....」

「えーっと....それは......」

(みんな恐れ多くて食べられないだけじゃ.....)


「一人では食べられる量も限られてますし......

私は自分が作ったお菓子を美味しそうに食べてくれる人がいないと嫌なんです!!」

「あ....はい......」

皇女のあまりの熱量に圧倒され、椅子を少し後ろへ引いた。


「そこで子爵令息です!」

「お、俺!?」

いや、なんでそこで俺?


「この間、子爵令息がシャーロット様とエッグタルトを食べている姿を目撃しました。」

「あぁ。あのエッグタルトすごく美味しくて....」

(もう一回食べたいなぁ......)


「その時のクレノ様の美味しそうに食べている姿を見て、私の作ったお菓子も食べてほしいと思って.....友達になりたいと思ったんです!」

「そ、そうですか....」

「だからシア子爵令息!私と友達になって、私が作ったお菓子を一緒に食べてください!」

「....えっと.....」


(うーん.....)

確かにお菓子は大好きだ。

でも正直、これ以上ゲーム内の主要メンバー達と関わりたくない。


「ダメ.....でしょうか.....?」

ゲーム内での悪役だとは思えないほど、皇女の俺を見つめる瞳は不安そうに揺れていた。


(~~~あぁ!もう!!)


「分かりました。皇女様の友達になります。」

(どうして俺って、こういう人ほっとけないんだろ.....)

平凡を願っていたのに、どんどんそれが遠ざかっていく。

でも仕方ない。だってほっとけないんだ。


「っ!ありがとうございます!!」

「おわっ!」

俺の返答を聞いた皇女は嬉しそうに俺の両手を強く握り、ぶんぶんと振り回す。

「これからよろしくお願いしますね!クレノ様!」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

(はぁ....なんか、また変なのに巻き込まれる予感がするな.....)

こうして俺は、少しの不安と共にアメリア様と友達になったのだった。

    
しおりを挟む
感想 186

あなたにおすすめの小説

【完結】隣に引っ越して来たのは最愛の推しでした

金浦桃多
BL
タイトルそのまま。 都倉七海(とくらななみ)は歌い手ユウの大ファン。 ある日、隣りに坂本友也(さかもとともや)が引っ越してきた。 イケメン歌い手×声フェチの平凡 ・この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い

たけむら
BL
「いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い」 真面目な幼馴染・三輪 遥と『そそっかしすぎる鉄砲玉』という何とも不名誉な称号を持つ倉田 湊は、保育園の頃からの友達だった。高校生になっても変わらず、ずっと友達として付き合い続けていたが、最近遥が『友達』と言い聞かせるように呟くことがなぜか心に引っ掛かる。そんなときに、高校でできたふたりの悪友・戸田と新見がとんでもないことを言い始めて…? *本編:7話、番外編:4話でお届けします。 *別タイトルでpixivにも掲載しております。

オメガ判定は一億もらって隔離学園へ

梅鉢
BL
美形アルファ×わりと平凡よりのオメガ 国は貴重なオメガを一億の支度金と共にアルファだらけ(アルファは志願入学)の学校に隔離するようになって数十年。 割り振られた番号が名前となる歪んだ学園へ強制入学させられた1-14番、羽衣 夜詩人(はごろも よしと)は、ふざけた真似をしてくる一部のアルファに嫌気が差す。 そんな中、普通の友達になりたいと1人のアルファが近づいてきて。 オメガバースです。 設定ゆるゆる、性格のいい人間はいないのでなんでもありなかたのみお願いします。 基本的にずっと暗いです。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

主人公は俺狙い?!

suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。 容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。 だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。 朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。 15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。 学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。 彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。 そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、 面倒事、それもBL(多分)とか無理!! そう考え近づかないようにしていた。 そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。 ハプニングだらけの学園生活! BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息 ※文章うるさいです ※背後注意

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

セントアール魔法学院~大好きな義兄との学院生活かと思いきや何故だかイケメンがちょっかいかけてきます~

カニ蒲鉾
BL
『ラウ…かわいい僕のラウル…この身体の事は絶対に知られてはいけない僕とラウル二人だけの秘密』 『は、い…誰にも――』    この国には魔力を持つ男が通うことを義務付けられた全寮制魔法学校が存在する。そこに新入生として入学したラウルは離れ離れになっていた大好きで尊敬する義兄リカルドと再び一緒の空間で生活できることだけを楽しみにドキドキワクワク胸を膨らませていた。そんなラウルに待つ、新たな出会いと自分の身体そして出生の秘密とは――  圧倒的光の元気っ子ラウルに、性格真反対のイケメン二人が溺愛執着する青春魔法学園ファンタジー物語 (受)ラウル・ラポワント《1年生》 リカ様大好き元気っ子、圧倒的光 (攻)リカルド・ラポワント《3年生》 優しいお義兄様、溺愛隠れ執着系、策略家 (攻)アルフレッド・プルースト《3年生》 ツンデレ俺様、素行不良な学年1位 (友)レオンハルト・プルースト《1年生》 爽やかイケメン、ラウルの初友達、アルの従兄弟

処理中です...