俺はモブなので。

被害者達

(一体どこに向かってるんだろう.....)

俺は女生徒達に着いて行きながら、呑気にそんな事を思っていた。


『少々お時間よろしいでしょうか。』

そう言われた時、真っ先にどうやってこの場から逃げようか考えた。


だが他の女生徒達に周りを囲まれ、逃げる事は不可能だと悟った俺は仕方なく着いて行く事にした。

そして広い裏庭へ足を踏み入れれば、そこには女の子だけではなく男の子も俺を待っているかのように集まっていた。

(な...何これ。俺、今から何されるの？

怖いんだけど.....どこぞの悪役令息の時より多いんじゃないか？)

ノア・カーティスの時以上の人数の多さに後ずさり、一体俺に何をする気なのかと恐怖で身体が震えた。


「クレノ・シア子爵令息。」

俺を連れてきた女生徒の一人が振り返る。


「な....なんでしょうか......？」

俺は怯えながらも、恐る恐るその女生徒に聞き返す。

すると他の生徒達が一斉に近付き、俺の前で止まった。

(俺、知らない間にこの人達に何かした？第二皇子のファンの子達とか？

....もしかしてこれから囲われて、顔の原型がなくなるくらいボコボコにされるのかな？
それともこのまま連れていかれて、海に沈められるとか？)


最悪な状況を想像しながら、よく分からないがとりあえず謝罪しておこうと頭を下げた時だ。

「と、とりあえずごめんなさ「ありがとうございました！！」........え？」

沢山の声から出た感謝の言葉に驚き顔を上げると、ここにいる全員が深く頭を下げていた。


「えっと....え？どういう事......？」

今の状況がまったく理解できず混乱している俺に、集団の中から一人の女の子が前に出てきた。

「実はここにいる全員が、カグラに婚約者や恋人を奪われた者達なのです。」

「え？君達が？」

(確かシャーロットが七十人くらいはいるって言ってたけど.....)

最初は俺を油断させる嘘かもと疑ったが、みんなの表情を見る限り俺に危害を加えようとしているようにも、嘘をついているようにも見えない。


「えっと....なんで俺にお礼を？」

何もしていないのに。と思った俺がそう問い掛けると、また一人の女生徒が前に出てきた。


「私.....体育祭の時に見たんです。

シア子爵令息が、カグラ様といるところを。」


「え.....あれを見てたんですか？！」