俺はモブなので。

初めての友達は悪役令嬢

女の子はしばらく泣いてから、やっと落ち着いたのか顔を上げた。
涙は止まったようだが目は赤く腫れている。

(大丈夫かな？)


心配になった俺が、女の子の顔を覗こうとした時だ。

「ねぇ、あなた名前は？」

そう、女の子が俺に尋ねてきた。


「俺はシア子爵家のクレノ・シアと言います。」

隠す必要もないと、俺は素直に自分の名前を教える。

「クレノね。......ねぇ、クレノ。その....良かったら.....

.....私と友達にならない？」

「友達....ですか？」

「えぇ、友達よ。
こんなに私の事を心配して、慰めてくれた人あなたが初めてなの。
だから私、あなたと友達になりたい。

ダメ.....かしら？」

弱々しく俺に友達になろうと言う女の子に、胸が痛む。
 

(友達か.....正直一人の方が楽だし.......凄く目立つ容姿をしている綺麗な人だから、近くにいたら俺まで目立っちゃいそうだな.....

.....だけど.....)

ハンカチを強く握り締め、少し震えたその手が俺の目に映った。


(勇気....出してくれたんだろうな.....)

この子が勇気を出して、俺に友達になろうと言ってくれているのが分かる。


なら.....俺の答えは一つだ。


「.....分かりました。これから友人として、よろしくお願いします。」

同じモブ同士。


「っ.....ありがとう！こちらこそよろしくね、クレノ！！」

嬉しそうに笑顔を見せている女の子を見て、そんな顔もできるんだなと俺もつられて笑顔になった。


「よし！初めての友達もできたし、今日はもう遅いから寮に戻るわね。」

そう言って女の子は立ち上がり俺に背を向けて立ち去ろうとしたが、そんな女の子を俺は呼び止めた。

「あ...待ってください！行く前に名前だけは教えて貰えませんか？」

友達になったのだから、名前くらいは聞いておかないと。

そんな俺の声に反応した女の子は振り向き、大きな声で俺に言った。

「私はバーベル公爵家のシャーロット・バーベルよ！
シャーロットで良いわ！特別に名前で呼ぶ事を許してあげる！

それと私に敬語は必要ないわよ！友達なんだから！！」

(シャーロットね.....ん？シャーロット....？)

「それじゃあまたね、クレノ！」

手を振りながら足早に歩いて行ってしまう彼女の姿に、俺はやっと思い出した。


(お....思い出した.....

シャーロットって.....


悪役令嬢のシャーロット・バーベルじゃねぇか！！)

モブなんかじゃない。

そう思った時にはもう遅かった。