俺はモブなので。

バニラアイス

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初めての会話

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(どうしてここにレイ・スティードが......というか、どことなく悲しそうに見える.....)

レイ・スティードの目線の先には、主人公と皇太子がいまだ二人で愛を確かめ合うように抱き合っている。

そんな二人をレイ・スティードは、微動だにせずただ静かに見つめていた。


(あぁ、そっか......レイ・スティードはカグラの事が.....)

このBLゲームは主人公のカグラが五人のイケメンに迫られるハーレムゲーム。
そしてその中の攻略対象の一人に、レイ・スティードは入っていた。

もしも今シナリオ通りにストーリーが進んでいるとすれば、この場でレイ・スティードは失恋した事になる。
 

「......」

二人を見つめるその緑色の瞳は、美しくも儚げに揺れていた。


そしてそんな彼を、俺はなぜか放ってはおけなかった。


「.....どうぞ。」

そう俺は、自分のポケットに入れていたハンカチをレイ・スティードの前に差し出した。


「お前は.....」

俺の存在に気付いた第二皇子が、驚いた表情で俺を見る。


「クレノ・シアと申します。」

「それは分かっている。私はなぜここにいるのかと聞いたんだ。」

「偶然通っただけです。盗み見するつもりはありませんでした。」

そう俺が言うと疑うような視線を送ってくる。

本当なのに...と思いながら、俺はレイ・スティードを見上げた。


「.....そうか。」

しばらく見つめ合った後、あっさりと引き下がった第二皇子。
今度は視線を俺から、俺が差し出したハンカチへと移した。


「なんだこれは。」

「ハンカチです。」

見れば分かるだろ。


「そういう事ではない。なぜ私に渡すのかと聞いている。」

あ、そういう事か。


「泣いてしまうかもと思いまして。」

「......この私が泣くと思うか?」

「泣かないと思います。
でも自分の意志とは無関係に流れてしまう時もあるのではと思いまして。」

流したくなくても、不意に涙が出てしまうかもしれない。
冷酷で血も涙もない第二皇子でも、自分と同じ人間なのだから。

そう考えたから、俺はハンカチを第二皇子に差し出したのだ。


「.....お前は面白い男だな。

あの煩わしいノア・カーティスの後ろを着いて回る取り巻き共の一人とは思えない。」

俺の事なんて名前すら知らないだろうなと思っていたが、どうやら覚えてくれていたらしい。


「はぁ....ありがとうございます?」

(これは褒めてる....のか?

とりあえず自分の都合良く、褒め言葉として受け取ろう。)


「これは貰っておこう。......ありがとう。」

そう言って薄く微笑んだ彼は、噂とはまったくの別人だった。

(冷酷で血も涙もない生きる人形なんて嘘じゃん。)


美しく微笑んだレイ・スティードに、不覚にも俺はときめいてしまった。

    
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