俺はモブなので。

暴れる悪役令息

ガッシャーーーン！！！


(ほら、やっぱり。)


「どうして.....どうして、この僕が振られるんだよ！！！」

そう言って廊下に並べられていた花瓶の一つを思いきり床に叩きつけたのは、先ほどレイ・スティードに手酷く振られたノア・カーティスだ。
 

「ありえない.....

僕が....この僕が好きだと....婚約者になってもいいと言っているのに、どうしてレイ・スティードはそれを受け入れないんだ！！！」

怒りに任せて壁や床を殴ったり蹴ったりを繰り返すノア・カーティスの姿に、その美しい妖精のような顔立ちに対して傲慢で自分勝手なヤバい奴なんだなと改めて思った。


「ノア様、落ち着いてくださいっ.....」

「うるさい！！！」

取り巻きの一人がノア・カーティスを宥めようと声をかけたが、逆に怒りの矛先がこちらに向いてしまったようだ。


「大体、お前達は僕がレイ様に振られている間、一体何をしていた！！

見ているだけの無能共が！！！」

と、散々な言いよう。

あの状況で逆に何をしろというのだ。


(俺だって、本当はお前の取り巻きなんて辞めたいわ。)

本当ならこんな悪役令息の取り巻きなんてやめて平穏な生活を送りたいところなのだが、そういう訳にもいかない。

なぜならこの悪役令息は、自分の取り巻きを辞める生徒がいるとその生徒に悪質な嫌がらせをし、最後には家の権力を使ってその相手を強制退学させてしまうのだ。

その中には嫌がらせに耐え切れず、自殺してしまった生徒も少なくはない。

自分がモブだと気付いた時には既に取り巻きの一人となっていた俺は、もう途中で辞める事は不可能に近いのだと悟った。


この学園に入学してから二年、あと一年で卒業できる。

一年、影の薄い取り巻きモブの一人でいれば晴れて自由の身。

卒業するまでは今のままひっそりと、自分に被害がこない程度に取り巻きのモブとしてやっていこうと思っている。

そして卒業したらすぐにでも家を出て、知っている人が誰もいないような田舎に家を建てて、ゆっくり過ごす事が俺の目標だ。


(その為にも、今は取り巻きモブをまっとうしないと。)


絶対、悪役令息に目をつけられないようにしよう。


今後の人生の為に＿＿＿