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恋は罪悪。【二宮×米田】

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今日も授業が終わると図書室に向かう。
外は雨が降りしきってるけど、こういうのは意外と嫌じゃない。

図書室に着くと、カウンターにいつものあいつがいた。

「米田先輩!今日も来てくれたんですね!」

二宮仁。1つ下の1年生で図書委員としてよく図書室にいる。
私は静かに読書をしたいだけなのに、彼はやたらと絡んでくる。
正直苦手だ。

「こんにちは。」

「こないだ教えてくれた、レインツリーの国読みましたよ。めっちゃ面白かったです。耳が聴こえないことってあんなに不便なんですね。恋愛ものとしても純粋に楽しめましたし、障がい者の方の実態も知れるいい話でした。
図書館戦争とどう繋がるのか気になるんでそっちも読んでみますね。」

「うん。」

「今日は何を読むんですか?」

「まだ決めてない。」

「今日入った本もあるんで見てみてくださいね。そこの机に纏めてます。」

「うん。ありがとう。」

「ごゆっくりー。」

レインツリーの国、読んだんだ。
感想も読んでないと出てこないものだったから、本当に頑張って読んだんだろうな。
ちょっと嬉しい。

私はいつもの窓際の席に荷物を置いて、今日読む本を決めに本棚を巡る。
印刷のインクなのか、紙の匂いなのか、この部屋に漂う独特の匂いが凄く落ち着く。
本を物色して回るだけでも2時間は楽しめる。

そういえば新しい本が入ったって言ってたな。
カウンター前の机に向かう。

机には新しく入荷された本が数冊立てられている。
どれも面白そうだけど、私の興味を唆るものではない。

「お気に召しませんでしたか?」

カウンターで本を読んでいた二宮くんが声をかけてくる。

「そうね。」

「それは残念。入荷して欲しい本があったら言ってくださいね。先生に掛け合ってみるので。」

「うん。」

その後少し物色して、夏目漱石のこころを読むことにした。
「恋は罪悪ですよ」
でお馴染みのあれだ。



「先輩。もう下校時間ですよ。」

「ふぇ!?」

変な声出ちゃった。
顔をあげると、二宮くんが私の顔を覗き込んでいた。
外は真っ暗だ。
そんなに時間が経っていたのか。

「ごめん、急いで準備する。」

本を本棚に戻し、帰る準備をする。
二宮くんは出入口で鍵を持って待っていた。

「お待たせ。」

「そんな待ってませんよ。」

二宮くんは職員室に鍵を返し、いつもどうり一緒に帰る。

「なんかさっきの会話良かったっすね。」

「何が。」

「お待たせ、待ってないよって。カップルみたいですね。」

「なに言ってんの?」

本当に何言ってんだろ。

外はやっぱり雨が降っている。
各々傘を差して歩きだす。

「いや、それっぽくなかったですか?」

「さあ、どうだろ。」

「先輩って好きな人とかいるんすか。」

「いないよ。恋愛とかよくわかんない。」

「へぇー、そうなんすね。」

「何嬉しそうな顔してんの。」

「そりゃ嬉しいですよ。俺が先輩を独占しても何も文句言われないわけですし。」

「何それ。私二宮くんの物じゃないんだけど。」

「俺は先輩のこと俺のものにしたいですよ。」

「ふざけてるの?」

「大真面目です。」

「人を物とか最低。」

「あ、そっちに捉えちゃってたか。」

「それ以外の意味なんてあるの?」

「あ、いや、いいです。知らなくても多分困らないんで。」

「そう。」

なんだか悪いことしちゃったかな。
少し気まずい。

「ところで、今日読んでたのって夏目漱石のこころですよね。」

「うん。そうだよ。」

「恋は罪悪ですよってやつっすね。」

「よく知ってるね。」

「国語に教科書に載ってたので。」

「なるほど。」

「先輩は、恋は罪悪だと思いますか?」

「うーん、私は恋とかよくわからないから断言はできないけど、先生みたいな体験をしたらそう感じてもおかしくないかもね。」

「確かにそうかもしれませんね。でも、俺は違うと思いますよ。」

「どうして?」

「確かに恋って誰かを傷つけたり何かを犠牲にしてしまいますけど、大抵はそれでも楽しいものですから。」

「へー。」

「もちろんこころはだいぶショッキングな出来事だったと思いますけど、現実はあれで死ぬ人ばかりじゃないです。」

「まあそうだよね。」

確かによく考えると友人の自殺は、いろんな特殊な背景があってその上での自殺。
現実世界で起こる可能性は極めて低いのかもしれない。

そんな話をしていると家の手前まで来てしまった。

「じゃあね。今日もありがとう。」

「はい、また明日。」

「うん、また明日。」

「あ、先輩。」

玄関のドアを開けようとした私に二宮くんが声をかけてくる。

「先輩、俺はたとえ罪悪でも、諦めませんから。」

「え...」

「それじゃ!」

それだけ言うと二宮くんは走って行ってしまった。

二宮くん、好きな人がいるのかな。
私?まさか。

恋は罪悪。
それが事実でもやめないなんて、彼はまるで大怪盗だ。

「変なの。」

そう呟いて玄関に入った。
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