上 下
4 / 28

かわいいひと。【亀山×白田】

しおりを挟む
「恋などバカバカしい。」

 会計の赤城さんが帰り、生徒会長の亀山さんが呟く。
 会長は勉強のみを武器に生徒のトップに登り詰めた、いわば努力の鬼。
 恋愛などしてこなかったのも頷ける。

「恋は良いものですよ。恋は人を成長させます。」

 知ったように言ってみたが、私も恋愛はしたことが無い。
 男というのは、いつも子どもでどうもみんなのように恋愛的な感情を抱くことができない。

「それよりも会長。さっきの私と赤城さんの会話、聞いていたのですか?」

「仕方ないだろ。いくら俺でも今日の赤城が何かおかしいことくらいはわかった。同じ生徒会役員として気になるのは当然だ。」

「気づいていたのなら、なぜ声をかけて差し上げなかったのです。」

「それは、あれだ、俺が声をかけてはいけない事情があるかもしれないだろう。」

「そんなものありますか?」

「あるとも。実際は違ったようだが。」

「例えば?」

 なんとなく察しはついている。
 これはちょっとした悪戯だ。

「...赤飯。」

「せきはん?」

 予想外の答え方だ。
 確かにあの日が初めて来たら赤飯を炊くという風習はあるが、あれは全滅器具の風習なのでは?

「そうだ。赤飯だ。それでわかるだろう。」

 勝ち誇った顔をする会長。
 そんな顔されたら、もっと虐めたくなっちゃうじゃないですか...。

「わかりませんね。なぜお赤飯が聞いてはいけない事情なのですか?」

「白田、お前は察するということができないのか。」

「察するもなにも、お赤飯がなぜ聞いてはいけないのかわからないのです。会長は何かお赤飯にやましいことでもおありですか?」

 会長の顔が徐々に強ばる。
 追い詰められている証拠だ。
 ああ、その顔が見たかった。

「やましいことなどはないが、それを口に出すのははばかられる。俺も一応男だからな。」

「とはいえ私はさっぱりなのですが、教えてくださいませんか?」

「断る。赤城に言えないのに白田にも言えるか。」

 ここで一芝居打ってやる。

「そうですか、会長は私を信じてくださらないのですね。」

「え、いや、そういうわけではなくてだな」

「いいえ、そういうことです。副会長である私とは生徒会の中でも最も長い時間行動を共にし、信頼関係ができていると思っていたのですが、私の勘違いだったようです。」

 ちらりと会長の方を見る。
 一見ポーカーフェイスのように見えるが、非常に困っている。

「そんなわけないだろ。俺は誰より信頼しているから副会長に白田を選んだし、今はもっと信頼している。」

 あら、サラッと嬉しいことを言ってくださるじゃない。
 このまま告白でもしてくれたら、それも一興だと思うのだけど。

「言うだけなら誰でも言えます。ましてやいつも無表情な会長に言われても、本心かどうかわかりません。」

「じゃあ行動で示せばいいのか。」

 そう言うと会長は立ち上がり、私の後ろに立ち止まった。
 何が起きるのかわからないが、流石にバックハグとか愛の言葉を囁くとか、そういうことはないだろう。
 会長、チキンですから。

 フラグは1秒も経たずに回収された。

 私は会長に後ろから抱きしめられた。

 予想外の展開に呆然としていると、会長が耳元で囁く。

「白田、俺はお前がいないとダメだ。お前は特別だ。」

 まさかの反撃に私は硬直してしまった。
 会長の腕はまだ私を優しく包み込んでいる。
 普段からこれくらい積極的だったらいいのに。

「あっ」

 生徒会室の入口から声がした。
 そういえばドア開けっ放しだったかも。

 見ると生徒会書記で唯一の2年生、岩崎君が顔を真っ赤にして立っていた。

「ご、ごゆっくりー」

 そう言うと岩崎君はドアを閉めて足早に帰って行った。
 会長が焦って岩崎君を追いかける。

「待て、岩崎!誤解だ!おい!岩崎!」

 誤解、か。
 ちょっと嬉しかったんだけどな。

でも、そういうところも...。

「可愛い人。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

処理中です...