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episode4
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次の日、俺とフラーニャは暗殺に特化した数名の部下を連れてハルト子爵の領地に南都を出発した。
俺たちのこれからの予定としては今夜中にハルト子爵の領地に着き、現地に詳しいシーカーの部下に話を聞いてそれから暗殺の方法を考えるつもりだ。
前提条件として俺は公爵家の子息なのでわざわざそんな奴が帝国南方まで行く用事はない。結局のところ身分がバレてはいけないのだ。
まあそんなわけで今は行商人に変装している。フラーニャに外見も魔法によって他者からは別人になるようにしてもらっている。領地に入るためには身分証が必要なのだが勿論それは用意済み。
-------------------------
身分証
名前 アイテーム=バイヤー
職業 行商人
-------------------------
まあこんな感じの単純なものだ。身分証の偽造を昨日のうちにフラーニャにお願いして、仕事が早いのは良いのだが、少し名前が雑すぎないだろうか?
思うところはあるものの今はいいとしておこう。
建前上、行商人なので米や果物などの比較的日持ちのする食料品を馬車の荷台に積んである。それに紛れていざ戦闘になったというときに備えて武器や戦闘専用の服なども積んである。他の部下たちはもう一台の馬車に乗っている。
「フラーニャ、いや、フラー。この感じだと後どれくらいで着くんだ?」
「はいレイン様。……いえ、アイテームさん。ぷっはははっ! この速さだと夕方までにはハルト子爵の領地に着くでしょうね」
どうやらわざと俺の名前をこんなものにしたらしい。
馬鹿にされているのはわかっているが、なかなかこんなふうに接してくれる者がおらず、心のどこがで嬉しいと感じている自分がいる。
「そうか、何かあれば教えてくれ。俺は少し寝るよ」
そうして俺は意識を手放した。
数時間後。
なんだかいい匂いがする。
意識が覚醒し始めて最初に思った事がそれだった。
ゆっくりと瞼を開けると、視界にはフラーの顔がはっきりと映し出された。
「どうしてフラーが?」
「膝枕をしていたのですよ。一度してみたかったのですがなかなかいいものですね」
機嫌がいいようで何よりだ。
「後、どのくらいで着くか分かるか?」
「もうすぐですよ」
そう言って、フラーは馬車の小窓を開け、頭をひょこっと出して先を見たあと、元の位置に戻った。
「見えましたよ。ハルト子爵の領地は直ぐそこです」
それから数分後、俺たちは諸々の手続きを終え、無事領地内に入る事が出来た。
「領地内に入ったものはいいもののこれからどうすればいいだろうか」
「それならば組織の力をお使いください。取り敢えず現地の諜報員に直接会ってみましょう」
フラーは俺の考えにすかさず対応策を言ってくれた。
「それはいいんだけど。会うって言って会えるものなのか?」
「ええ、私が情報集めを命じられたとき、通信宝珠を使って諜報員と連絡を取り合っていたんですよ。宝珠に魔力を帯びさせることによって遠くにいる人にでも音を届ける事ができるのです。録音したものを送るのでリアルタイムで話す事は出来ません。これは大きさ、質がほぼ同じものでしか送り合う事が出来ないのでなかなか手に入らないのですよ」
よくそんなものを手に入れたなと思ったが、今は話を進めることに専念することにした。
「そうか。ならそれを使って連絡を取り合ってみてくれ」
そう指示した後、俺はフラーの連絡の取り合いを待った。
「どうやら、宿屋『石焼亭』というところで待っているそうです」
「ならそこに向かおう」
そうして数十分後。
「本日はようこそおいでくださいました。早速ですがこちらへついてきて下さい」
とこんな感じで普通に入れた。
人生初の宿屋で俺は少し興奮している。
宿屋の主人に連れてこられたのは応接室のような部屋だった。
「どうぞこちらへ」
そう言われて俺は案内された椅子に座る。
宿屋の主人は魔力を使い部屋全体を防音空間にした。どうやら宿屋の主人が諜報員らしい。
「ハルト子爵についてお聞きしたい事があると伺っておりますが、話してもよろしいでしょうか?」
俺は首を縦に振り、話の続きを促す。
「ハルト子爵は毎日の習慣がございます。晴れの日も雨の日も毎日、夜に屋敷の庭園を散歩します。その間だけ、使用人も付き従わず、一人での時間を楽しんでおられるようです。狙うとしたらこのポイントかと」
「なるほど。確かに暗殺するには絶好の機会だ。この機会を逃す手はないだろうな」
「ええ、私もそう思います。そしてこの庭園には小さいですが池があるのです。暗殺と言っても手法は様々。今回に関して手っ取り早く、そして一番暗殺と怪しまれないのはおそらく溺死かと」
刺殺は出血し証拠が残る。絞殺も首にあざができる恐れがある。魔法で殺すのもいいが魔力が死体に残り、その痕跡から正体がバレる恐れもある。しかし溺死は違う。池を見ていたら足を踏み外して溺れて死んだ。哀れだとは思うが一応筋は通っていると思う。
「分かった。情報の提供感謝する。良ければ今日はこの宿で泊まらせてもらえないだろうか?」
「もちろんです。お代はしっかり払って下さいね。行商人殿」
最後の方を強調して言われ、少しからかわれた気がする。
「分かったよ」
俺はお代を払った後、部屋に案内された。
フラー達とはもちろん別部屋である。あいつらには今日はゆっくり休めと伝えてある。作戦決行は明日の夜。
万全の準備を整えるためには規則正しい生活からだ。
俺は用意された宿の部屋のベッドに寝転がり、そのまま意識を手放した。
俺たちのこれからの予定としては今夜中にハルト子爵の領地に着き、現地に詳しいシーカーの部下に話を聞いてそれから暗殺の方法を考えるつもりだ。
前提条件として俺は公爵家の子息なのでわざわざそんな奴が帝国南方まで行く用事はない。結局のところ身分がバレてはいけないのだ。
まあそんなわけで今は行商人に変装している。フラーニャに外見も魔法によって他者からは別人になるようにしてもらっている。領地に入るためには身分証が必要なのだが勿論それは用意済み。
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身分証
名前 アイテーム=バイヤー
職業 行商人
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まあこんな感じの単純なものだ。身分証の偽造を昨日のうちにフラーニャにお願いして、仕事が早いのは良いのだが、少し名前が雑すぎないだろうか?
思うところはあるものの今はいいとしておこう。
建前上、行商人なので米や果物などの比較的日持ちのする食料品を馬車の荷台に積んである。それに紛れていざ戦闘になったというときに備えて武器や戦闘専用の服なども積んである。他の部下たちはもう一台の馬車に乗っている。
「フラーニャ、いや、フラー。この感じだと後どれくらいで着くんだ?」
「はいレイン様。……いえ、アイテームさん。ぷっはははっ! この速さだと夕方までにはハルト子爵の領地に着くでしょうね」
どうやらわざと俺の名前をこんなものにしたらしい。
馬鹿にされているのはわかっているが、なかなかこんなふうに接してくれる者がおらず、心のどこがで嬉しいと感じている自分がいる。
「そうか、何かあれば教えてくれ。俺は少し寝るよ」
そうして俺は意識を手放した。
数時間後。
なんだかいい匂いがする。
意識が覚醒し始めて最初に思った事がそれだった。
ゆっくりと瞼を開けると、視界にはフラーの顔がはっきりと映し出された。
「どうしてフラーが?」
「膝枕をしていたのですよ。一度してみたかったのですがなかなかいいものですね」
機嫌がいいようで何よりだ。
「後、どのくらいで着くか分かるか?」
「もうすぐですよ」
そう言って、フラーは馬車の小窓を開け、頭をひょこっと出して先を見たあと、元の位置に戻った。
「見えましたよ。ハルト子爵の領地は直ぐそこです」
それから数分後、俺たちは諸々の手続きを終え、無事領地内に入る事が出来た。
「領地内に入ったものはいいもののこれからどうすればいいだろうか」
「それならば組織の力をお使いください。取り敢えず現地の諜報員に直接会ってみましょう」
フラーは俺の考えにすかさず対応策を言ってくれた。
「それはいいんだけど。会うって言って会えるものなのか?」
「ええ、私が情報集めを命じられたとき、通信宝珠を使って諜報員と連絡を取り合っていたんですよ。宝珠に魔力を帯びさせることによって遠くにいる人にでも音を届ける事ができるのです。録音したものを送るのでリアルタイムで話す事は出来ません。これは大きさ、質がほぼ同じものでしか送り合う事が出来ないのでなかなか手に入らないのですよ」
よくそんなものを手に入れたなと思ったが、今は話を進めることに専念することにした。
「そうか。ならそれを使って連絡を取り合ってみてくれ」
そう指示した後、俺はフラーの連絡の取り合いを待った。
「どうやら、宿屋『石焼亭』というところで待っているそうです」
「ならそこに向かおう」
そうして数十分後。
「本日はようこそおいでくださいました。早速ですがこちらへついてきて下さい」
とこんな感じで普通に入れた。
人生初の宿屋で俺は少し興奮している。
宿屋の主人に連れてこられたのは応接室のような部屋だった。
「どうぞこちらへ」
そう言われて俺は案内された椅子に座る。
宿屋の主人は魔力を使い部屋全体を防音空間にした。どうやら宿屋の主人が諜報員らしい。
「ハルト子爵についてお聞きしたい事があると伺っておりますが、話してもよろしいでしょうか?」
俺は首を縦に振り、話の続きを促す。
「ハルト子爵は毎日の習慣がございます。晴れの日も雨の日も毎日、夜に屋敷の庭園を散歩します。その間だけ、使用人も付き従わず、一人での時間を楽しんでおられるようです。狙うとしたらこのポイントかと」
「なるほど。確かに暗殺するには絶好の機会だ。この機会を逃す手はないだろうな」
「ええ、私もそう思います。そしてこの庭園には小さいですが池があるのです。暗殺と言っても手法は様々。今回に関して手っ取り早く、そして一番暗殺と怪しまれないのはおそらく溺死かと」
刺殺は出血し証拠が残る。絞殺も首にあざができる恐れがある。魔法で殺すのもいいが魔力が死体に残り、その痕跡から正体がバレる恐れもある。しかし溺死は違う。池を見ていたら足を踏み外して溺れて死んだ。哀れだとは思うが一応筋は通っていると思う。
「分かった。情報の提供感謝する。良ければ今日はこの宿で泊まらせてもらえないだろうか?」
「もちろんです。お代はしっかり払って下さいね。行商人殿」
最後の方を強調して言われ、少しからかわれた気がする。
「分かったよ」
俺はお代を払った後、部屋に案内された。
フラー達とはもちろん別部屋である。あいつらには今日はゆっくり休めと伝えてある。作戦決行は明日の夜。
万全の準備を整えるためには規則正しい生活からだ。
俺は用意された宿の部屋のベッドに寝転がり、そのまま意識を手放した。
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