上 下
17 / 19

歓迎祭

しおりを挟む
 俺たちは三人で先輩たちが運営している、屋台を回っていた。

「ノルン、あそこの焼きそば買いに行こうよ」

「いや、それはないっす。祭りは遊びっすよ」

とラルフとジョンの二人は俺を挟んで言い争いをしている。正直止めたいけど、まだ知り合って間もないし、立場も立場だから言いにくい。いったいどうすれば……。

「ノルン、どっちがいい?」

「どっちっすか?」

と二人は俺を真剣な目で見つめてきた。

 どっちでもいいという選択肢を選べばどうなるかわからない……。どうすれば……。

 そんなことを考えている時だった。

「喧嘩はダメですよ!」

 後ろから声がかかる。その声に俺は聞き覚えがあった。俺は後ろを向いて声の主を確認する。やはり間違いなかったようだ。

「シャルさん!」

 俺の予想通り、生徒会長のシャルさんだった。俺はシャルさんの方へ近づく。呼ばれたシャルさんはキョトンとした顔で反応した。

「……ノルン君?」

「はい! ノルンです。あの喧嘩じゃないので大丈夫なんですけど……」

と言いつつ、俺は後ろの二人を見る。

「あら? あの二人は第二王子殿下と宰相の御子息よね?」

「は、はい。そうです。あれ? でもなんで知ってるんですか?」

 俺がそう聞くとシャル先輩は笑顔で答える。

「ノルン君には言ってなかったけど、私一応貴族なの。シャルロッテ=カルノメア、カルノメア公爵家の次女です。幼い頃からあの子たちとはたくさん遊んでいたわ」

 なんかそんな予感はしてたけど、まさかシャル先輩が公爵家の次女だったとは……。なんだか新しく関わる人のほとんどが高貴な方達なんだけど、そんな人たちと普通に会話できることがすごい。なんだか夢を見ているようだ。

「そうなんですか」

としか俺は言えなかった。

 ラルフとジョンは俺が離れたのがようやく気づいたのか、声をかけてきた。

「ノルン、どっちがいいん……」

「どっちっ……」

 あれ? 二人ともなんか止まってるんだけど、どうしたんだろ?

「「しゃ、シャル姉さんすみませんでしたっ!!」」

 なんか、凄い勢いで首を上下に振って土下座してるんだが……。しかもよくよく考えると、ジョンの口調が変わってる。そして二人とも震えている。いったい過去に何があったのか気になるが、それを聞くとダメな予感がする。そんなにシャルさんが怖いのかな……。

「あら? 私は何も怒ってないわよ。せっかくの歓迎祭なのに揉め事はごめんだからね。小さな火種が大きな炎にならないようにこうして監視しているのよ」

 ラルフとジョンの二人はそれを聞いて胸を撫で下ろした。

「そ、そうでしたか。生徒会長様も大変ですね」

「迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

それを聞いてシャルさんはうなづいた。

「分かればいいのよ、分かれば。ノルン君を困らせないようにしなさい。分かったわね?」

 なんか最後だけすごい威圧を感じたんだけど気のせいだよね?

「「分かりましたっ!!」」

「では、楽しい歓迎祭を満喫してくださいね」

 そう言い残し、シャルさんは俺たちの前から去っていった。

 シャルさんが立ち去った後も、ラルフとジョンは震えていた。
 俺はこのままではいけないと思い、声をかけた。

「……あのさ、あそこの焼きそばの屋台行かない? ちょうどお腹空いてきたし……」

 俺がそういうと、二人は互いに目を合わせうなづいた後、俺の方を向いて言った。

「うん、行こう」

「行くっす」

 なんだかシャルさんと会ってから二人の態度がぎこちないものになっていたけど、それもちょっとずつ治ってきた。

 俺たちは焼きそばを食べた後、輪投げ、唐揚げ、フライドポテト、などの屋台をたくさん回った。

「はあ~、疲れたね」

「そうすっね。お腹いっぱいっす」

「そうだね~。でも楽しかったよ。こんな経験初めてだ」

 屋台を回るうちに俺たちは、気軽に話すことができた。

 時刻はもう夕方。そろそろ歓迎祭も終わる時間となり、別れの時間となった。

「じゃあね、ノルン。また明日!」

「また明日っす」

「うん! また明日!」

 そうして俺たちは別れ、歓迎祭は幕を閉じた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に射出された俺、『大地の力』で快適森暮らし始めます!

らもえ
ファンタジー
旧題:異世界に射出された俺、見知らぬ森の真中へ放り出される。周りには木しか生えていないけどお地蔵さんに貰ったレアスキルを使って何とか生き延びます。  俺こと杉浦耕平は、学校帰りのコンビニから家に帰る途中で自称神なるものに拉致される。いきなり攫って異世界へ行けとおっしゃる。しかも語り口が軽くどうにも怪しい。  向こうに行っても特に使命は無く、自由にしていいと言う。しかし、もらえたスキルは【異言語理解】と【簡易鑑定】のみ。いや、これだけでどうせいっちゅーに。そんな俺を見かねた地元の地蔵尊がレアスキルをくれると言うらしい。やっぱり持つべきものは地元の繋がりだよね!  それで早速異世界転移!と思いきや、異世界の高高度の上空に自称神の手違いで射出されちまう。紐なしバンジーもしくはパラシュート無しのスカイダイビングか?これ。  自称神様が何かしてくれたお陰で何とか着地に成功するも、辺りは一面木ばっかりの森のど真ん中。いやこれ遭難ですやん。  そこでお地蔵さんから貰ったスキルを思い出した。これが意外とチートスキルで何とか生活していくことに成功するのだった。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる

月風レイ
ファンタジー
 あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。  周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。  そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。  それは突如現れた一枚の手紙だった。  その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。  どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。  突如、異世界の大草原に召喚される。  元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。

【 60話完結済み】ゲームっぽい世界に転生したので人間性を捨てて限界まで頑張る ~転生勇者もヒロインズも魔王もまとめてぶちのめす~

無職無能の自由人
ファンタジー
経験値2倍?秘密ルート?スキルビルド?勝手にやってろ ゲームっぽい世界に転生したので頑張って頑張っていこう! 馬鹿で才能が無く特別な知識も無い、それでも人格持ち越しこそがウルトラチート

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

処理中です...