3 / 16
第2話 友の頼み
しおりを挟む――翌日
朝のまだ眠たさが残る時間。
「あ、そうだ!」
智史がわざとらしく何かを思い出したような口ぶりで話しかける。
「今度俺の家の掃除手伝ってくれよ~」
「えぇ……なんでお前の家の掃除しなきゃいけないんだよ」
すると智史は、いやらしそうな顔をして言った。
「うちさぁ……蔵あんだよね」
「……蔵?」
「そうそう、今回は蔵の掃除なんだけどさぁ……もしかしたら黒い雨に関するものが~出ちゃったり~?出なかったり~?」
智史はこんなキャラだったかと悠夜は疑問に思ったが、黒雨事件に関する何かを手にするチャンスかもしれないとこの取引に応じる事にした。
「よし、わかった!やるよ」
「マジか!?助かるわ~!じゃあ明日な!よろしく~!」
そう言って智史は帰っていった。
「え、明日!?急すぎだろ~」
だが、暇だからいいかと思った悠夜はひとまず先生の事は頭の片隅に置きつつ、予定の土曜日を待った。
悠夜は智史とは仲が良いが、まだ家に遊びに行った事はない。唯一の友達と言ってもいいほど仲が良いのだが、そのきっかけとなった出来事があった……
~~~~~~~~~~~~~~~
悠夜が高校1年の春。
それは黒い雨が降っていた日だった。
悠夜は何故だか分からないがとっても黒い雨が気になってしょうがなかった。
その衝動を毎回どうにかしたくなり、その時は校庭に出て黒い雨を浴びながら、
「なんで黒いんだよおおおおお!」
と叫んでいた。
するとどうだろう、校舎のありとあらゆる窓から悠夜の事を見ている。
それもそうだ、雨の日に1人校庭で雨を浴びながら叫んでいれば注目も浴びるだろう。
校舎から先生が飛び出してきて、早く戻れと注意をされたがその時ある男も校庭に飛び出してきた。
その男も悠夜と同じく雨を浴びながらこう言った。
「なんで雨は降るんだよおおおおおお!」
悠夜はなんていう馬鹿が真似をしてきたんだと、落胆し帰ろうとしたがその男は悠夜の前に立ちはだかり話し出した。
「俺も気になったから叫んでみた!お前も俺と一緒だ!だから今日から友達だぜ!」
つくづく馬鹿だなと思った悠夜だが、学校で初めて喋ったのは彼が最初だった。
次の日学校に来ると。
「お、今日は風邪っぴきコンビは来てるな~それじゃあ出席取るぞ~」
と、先生はからかった。
それを聞いた悠夜は智史の事を見てこう言った。
「え?お前も風邪引いたの?」
「おう!馬鹿だけど風邪引いたわ!ははは」
悠夜は馬鹿だし憎めないけど、悪いやつではないと分かりそこから仲良くなっていった。
~~~~~~~~~~~~~~~
悠夜は懐かしいなと思い出に耽りながら、智史との待ち合わせ場所に着いた。
制服ではない智史を見るのは初めてだなぁと思っていると智史がやってきた。
「悠夜……お前ダサいな」
開口一番悠夜は貶された。
そして続け様にこう言われた。
「全身真っ黒はないわ~」
確かにそうだ、智史が言ってる事に嘘偽りはない。黒いシャツに黒いジャケット、黒いチノパンに黒いスニーカー。
悠夜にはファッションセンスがなかった。これがカッコいいと思って着こなしている。
まさか智史に馬鹿にされる日が来るとは思わなかった悠夜は
ショックを受けながらも智史の後をついて行く。
しばらく歩いた後、智史は立ち止まった。
「さあ、着いたぞ!」
目の前にはお寺があった。
悠夜は感づいた、智史は普段馬鹿にされてばかりなのでここで仕返しをしようとしたのではないかと。
そこで悠夜は智史にこう言った。
「おい智史、そんな冗談に引っかかるわけないだろ~!」
「いや、マジで俺ん家」
智史はこれ以上ない真面目な顔をして答えた。
悠夜は今まで見た事ない澄んだ瞳をした智史の目に吸い込まれて行きそうになったが、徐々に驚きが湧き上がってきた。
「………って、えええええ!?」
「何をそんなに驚くんだよ?」
「いや!お前寺の子だったのか!?」
「まあ……そうなるな」
悠夜は智史と3年近い付き合いになるが、まさか家がお寺だとは気がつかなかった。
智史の後ろをついていく悠夜は緊張しながら部屋に案内された。智史の部屋は普通の高校生の部屋だ。
「いきなり掃除ってのも悪いから少し部屋でゆっくりしようぜ」
そう言って智史は本棚を漁りだした。
「この漫画が面白いんだよー!貸すからちょっと読んでみてよ!」
その勢いに少し押されながら悠夜は本をもらう。
「あ、あぁ……ありがとう」
漫画など久しく読んでいない悠夜は最近流行の漫画かなと思い表紙を見た。
「ば、ばっどぐっどまん?」
「そうそう!グッドマンって言う正義のヒーローとバッドマンって言う悪いヤツの闘いがめちゃくちゃ面白いんだよ!!」
悠夜は思った。
“BADGOODMAN”ってタイトルはダサいと。
グッドマンって何だよと。
そしてバッドマンって何だよと。心の中で馬鹿にした。
悠夜達が家に着いてから1時間ほど経つ。
「さて!そろそろ始めるか!」
智史は気合いを入れて立ち上がった。
今回の目的を忘れるぐらいのんびりしていた悠夜だが、今日は掃除をしにきた。それを思い出し悠夜も気合いを入れた。
「ひとつ言っておくぞ」
智史は急に真面目な顔をする。
「うちの蔵は年代物が結構あるけど、絶対に黒い雨に関するものが出てくるとは限らないからな!まあ、出ても出なくてもその時は2人で泣こう!」
智史はいい奴だ。
悠夜はようやく掴めそうになった黒い雨の事を、校長に邪魔をされ掴み損ね少し落ち込んでいたところだった。
その事もあり、あんまり期待をしないように念を押してくれていた。
「今回は掃除を手伝いに来ただけだからあんまり気にすんな」
悠夜は智史の優しさを受け取り返事をした。
「じゃあ、案内するぜ」
智史は立ち上がり敷地内にある蔵に案内した。
「で、でけぇ…」
思わず声に出てしまった悠夜。
だが、それも仕方がない。普通の人が想像する蔵よりも遥かに大きい。大きさで言えば雑居ビルぐらいはあるだろうか。
「え、まさかここを二人で片付けるのか…?」
「…そのまさかだ」
悠夜は詳しく聞かなかったことを後悔し、そしてあわよくば手伝うという発言を撤回できないかと考えた。
「まあ全部片付けなくてもいいからさ、楽しくやろうぜ」
この一言が智史の優しさを表している。悠夜はこの優しさに惹かれ、まあいいかと思った。
「「はぁ~疲れた~」」
2人が家に集まったのが13時。
今が18時、お喋りしてた時間は1時間。
つまり掃除をしていたのは4時間……
2人ともクタクタになっていたが、収穫はあったようだ。
「これだけ探してもこの一つだけかー」
智史の手には1冊の本。
「いや、これだけでも手伝いに来た甲斐があったよ」
その本はだいぶ痛んでいるが、僅かに”黒雨”の文字が見える。
「中身は何で書いてあるんだ?」
智史が珍しく興味を示す。
悠夜は意を決して本の中身を開く。
一番最初のページを見た悠夜は智に言った。
「えーと…
【黒雨事件の記録】
って書いてある」
黒雨事件の記録とは一体何なのだろうか。
悠夜が追い求めていた答えがこの本に眠っている。
「早く中を見てみようぜ!」
急かす智史を制しながらも、緊張で震える指で次をめくる。本を開いた2人は思わず言葉を失った。
「これは一体どう言う事だ…」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
10日間の<死に戻り>
矢作九月
ミステリー
火事で死んだ中年男・田中が地獄で出逢ったのは、死神見習いの少女だった―…田中と少女は、それぞれの思惑を胸に、火事の10日前への〈死に戻り〉に挑む。人生に絶望し、未練を持たない男が、また「生きよう」と思えるまでの、10日間の物語。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
昭和レトロな歴史&怪奇ミステリー 凶刀エピタム
かものすけ
ミステリー
昭和四十年代を舞台に繰り広げられる歴史&怪奇物語。
高名なアイヌ言語学者の研究の後を継いだ若き研究者・佐藤礼三郎に次から次へ降りかかる事件と災難。
そしてある日持ち込まれた一通の手紙から、礼三郎はついに人生最大の危機に巻き込まれていくのだった。
謎のアイヌ美女、紐解かれる禁忌の物語伝承、恐るべき人喰い刀の正体とは?
果たして礼三郎は、全ての謎を解明し、生きて北の大地から生還できるのか。
北海道の寒村を舞台に繰り広げられる謎が謎呼ぶ幻想ミステリーをどうぞ。
消された過去と消えた宝石
志波 連
ミステリー
大富豪斎藤雅也のコレクション、ピンクダイヤモンドのペンダント『女神の涙』が消えた。
刑事伊藤大吉と藤田建造は、現場検証を行うが手掛かりは出てこなかった。
後妻の小夜子は、心臓病により車椅子生活となった当主をよく支え、二人の仲は良い。
宝石コレクションの隠し場所は使用人たちも知らず、知っているのは当主と妻の小夜子だけ。
しかし夫の体を慮った妻は、この一年一度も外出をしていない事は確認できている。
しかも事件当日の朝、日課だったコレクションの確認を行った雅也によって、宝石はあったと証言されている。
最後の確認から盗難までの間に人の出入りは無く、使用人たちも徹底的に調べられたが何も出てこない。
消えた宝石はどこに?
手掛かりを掴めないまま街を彷徨っていた伊藤刑事は、偶然立ち寄った画廊で衝撃的な事実を発見し、斬新な仮説を立てる。
他サイトにも掲載しています。
R15は保険です。
表紙は写真ACの作品を使用しています。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる