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第2話 友の頼み
しおりを挟む――翌日
朝のまだ眠たさが残る時間。
「あ、そうだ!」
智史がわざとらしく何かを思い出したような口ぶりで話しかける。
「今度俺の家の掃除手伝ってくれよ~」
「えぇ……なんでお前の家の掃除しなきゃいけないんだよ」
すると智史は、いやらしそうな顔をして言った。
「うちさぁ……蔵あんだよね」
「……蔵?」
「そうそう、今回は蔵の掃除なんだけどさぁ……もしかしたら黒い雨に関するものが~出ちゃったり~?出なかったり~?」
智史はこんなキャラだったかと悠夜は疑問に思ったが、黒雨事件に関する何かを手にするチャンスかもしれないとこの取引に応じる事にした。
「よし、わかった!やるよ」
「マジか!?助かるわ~!じゃあ明日な!よろしく~!」
そう言って智史は帰っていった。
「え、明日!?急すぎだろ~」
だが、暇だからいいかと思った悠夜はひとまず先生の事は頭の片隅に置きつつ、予定の土曜日を待った。
悠夜は智史とは仲が良いが、まだ家に遊びに行った事はない。唯一の友達と言ってもいいほど仲が良いのだが、そのきっかけとなった出来事があった……
~~~~~~~~~~~~~~~
悠夜が高校1年の春。
それは黒い雨が降っていた日だった。
悠夜は何故だか分からないがとっても黒い雨が気になってしょうがなかった。
その衝動を毎回どうにかしたくなり、その時は校庭に出て黒い雨を浴びながら、
「なんで黒いんだよおおおおお!」
と叫んでいた。
するとどうだろう、校舎のありとあらゆる窓から悠夜の事を見ている。
それもそうだ、雨の日に1人校庭で雨を浴びながら叫んでいれば注目も浴びるだろう。
校舎から先生が飛び出してきて、早く戻れと注意をされたがその時ある男も校庭に飛び出してきた。
その男も悠夜と同じく雨を浴びながらこう言った。
「なんで雨は降るんだよおおおおおお!」
悠夜はなんていう馬鹿が真似をしてきたんだと、落胆し帰ろうとしたがその男は悠夜の前に立ちはだかり話し出した。
「俺も気になったから叫んでみた!お前も俺と一緒だ!だから今日から友達だぜ!」
つくづく馬鹿だなと思った悠夜だが、学校で初めて喋ったのは彼が最初だった。
次の日学校に来ると。
「お、今日は風邪っぴきコンビは来てるな~それじゃあ出席取るぞ~」
と、先生はからかった。
それを聞いた悠夜は智史の事を見てこう言った。
「え?お前も風邪引いたの?」
「おう!馬鹿だけど風邪引いたわ!ははは」
悠夜は馬鹿だし憎めないけど、悪いやつではないと分かりそこから仲良くなっていった。
~~~~~~~~~~~~~~~
悠夜は懐かしいなと思い出に耽りながら、智史との待ち合わせ場所に着いた。
制服ではない智史を見るのは初めてだなぁと思っていると智史がやってきた。
「悠夜……お前ダサいな」
開口一番悠夜は貶された。
そして続け様にこう言われた。
「全身真っ黒はないわ~」
確かにそうだ、智史が言ってる事に嘘偽りはない。黒いシャツに黒いジャケット、黒いチノパンに黒いスニーカー。
悠夜にはファッションセンスがなかった。これがカッコいいと思って着こなしている。
まさか智史に馬鹿にされる日が来るとは思わなかった悠夜は
ショックを受けながらも智史の後をついて行く。
しばらく歩いた後、智史は立ち止まった。
「さあ、着いたぞ!」
目の前にはお寺があった。
悠夜は感づいた、智史は普段馬鹿にされてばかりなのでここで仕返しをしようとしたのではないかと。
そこで悠夜は智史にこう言った。
「おい智史、そんな冗談に引っかかるわけないだろ~!」
「いや、マジで俺ん家」
智史はこれ以上ない真面目な顔をして答えた。
悠夜は今まで見た事ない澄んだ瞳をした智史の目に吸い込まれて行きそうになったが、徐々に驚きが湧き上がってきた。
「………って、えええええ!?」
「何をそんなに驚くんだよ?」
「いや!お前寺の子だったのか!?」
「まあ……そうなるな」
悠夜は智史と3年近い付き合いになるが、まさか家がお寺だとは気がつかなかった。
智史の後ろをついていく悠夜は緊張しながら部屋に案内された。智史の部屋は普通の高校生の部屋だ。
「いきなり掃除ってのも悪いから少し部屋でゆっくりしようぜ」
そう言って智史は本棚を漁りだした。
「この漫画が面白いんだよー!貸すからちょっと読んでみてよ!」
その勢いに少し押されながら悠夜は本をもらう。
「あ、あぁ……ありがとう」
漫画など久しく読んでいない悠夜は最近流行の漫画かなと思い表紙を見た。
「ば、ばっどぐっどまん?」
「そうそう!グッドマンって言う正義のヒーローとバッドマンって言う悪いヤツの闘いがめちゃくちゃ面白いんだよ!!」
悠夜は思った。
“BADGOODMAN”ってタイトルはダサいと。
グッドマンって何だよと。
そしてバッドマンって何だよと。心の中で馬鹿にした。
悠夜達が家に着いてから1時間ほど経つ。
「さて!そろそろ始めるか!」
智史は気合いを入れて立ち上がった。
今回の目的を忘れるぐらいのんびりしていた悠夜だが、今日は掃除をしにきた。それを思い出し悠夜も気合いを入れた。
「ひとつ言っておくぞ」
智史は急に真面目な顔をする。
「うちの蔵は年代物が結構あるけど、絶対に黒い雨に関するものが出てくるとは限らないからな!まあ、出ても出なくてもその時は2人で泣こう!」
智史はいい奴だ。
悠夜はようやく掴めそうになった黒い雨の事を、校長に邪魔をされ掴み損ね少し落ち込んでいたところだった。
その事もあり、あんまり期待をしないように念を押してくれていた。
「今回は掃除を手伝いに来ただけだからあんまり気にすんな」
悠夜は智史の優しさを受け取り返事をした。
「じゃあ、案内するぜ」
智史は立ち上がり敷地内にある蔵に案内した。
「で、でけぇ…」
思わず声に出てしまった悠夜。
だが、それも仕方がない。普通の人が想像する蔵よりも遥かに大きい。大きさで言えば雑居ビルぐらいはあるだろうか。
「え、まさかここを二人で片付けるのか…?」
「…そのまさかだ」
悠夜は詳しく聞かなかったことを後悔し、そしてあわよくば手伝うという発言を撤回できないかと考えた。
「まあ全部片付けなくてもいいからさ、楽しくやろうぜ」
この一言が智史の優しさを表している。悠夜はこの優しさに惹かれ、まあいいかと思った。
「「はぁ~疲れた~」」
2人が家に集まったのが13時。
今が18時、お喋りしてた時間は1時間。
つまり掃除をしていたのは4時間……
2人ともクタクタになっていたが、収穫はあったようだ。
「これだけ探してもこの一つだけかー」
智史の手には1冊の本。
「いや、これだけでも手伝いに来た甲斐があったよ」
その本はだいぶ痛んでいるが、僅かに”黒雨”の文字が見える。
「中身は何で書いてあるんだ?」
智史が珍しく興味を示す。
悠夜は意を決して本の中身を開く。
一番最初のページを見た悠夜は智に言った。
「えーと…
【黒雨事件の記録】
って書いてある」
黒雨事件の記録とは一体何なのだろうか。
悠夜が追い求めていた答えがこの本に眠っている。
「早く中を見てみようぜ!」
急かす智史を制しながらも、緊張で震える指で次をめくる。本を開いた2人は思わず言葉を失った。
「これは一体どう言う事だ…」
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