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バレンタイン戦争!
しおりを挟む世の中には顔面偏差値なる言葉がある。
人の顔を評価するのはいささかどうかと思うが、
これが高いのと低いのとでは大違い。
人生180度変わるぐらい大事なことでもある。
これはそんな見た目の良さが最重視される世界のお話…
「総理!そんな勝手な事いけませんって!!」
「黙れ!私を誰だと思ってる!」
「総理です…」
「んー…?何か足りないな~?」
「イケメン総理です…」
「そうだ!私はイケメン総理だ!!」
――国会
「今日からこの国はイケメンが正義!
ブサイクは悪とする!」
「おかしいだろー!!
そんなの通るわけないだろー!!」
「ブサイクは黙れええ!!私が法律だ!!
そこのブサイクどもをしょっぴけええ!!」
こうしてこの国はイケメンが正義、ブサイクが悪となった。
これに伴い頭脳日本一の学校、「糖京大学附属男子高校」は一旦全生徒を退学させ
新たに全国の最上位イケメンを集めた「新糖京大学附属男子高校(以下、糖京高校)」へと生まれ変わった……
そして、全国で一番アホな高校、「阿呆男子校高」も同様に全生徒を退学させ、新たに全国の最上位ブサイクを集めた「新阿呆男子校高(以下、阿保校高)」へと生まれ変わった……
この2つの学校、
悲しい事に1つ高校を挟んで隣り合っている。
その学校とは……
日本一の美少女を集めた
「聖プリンセス女子高校(以下、聖プリ」
この学校が戦いの引き金となる。
時季はもうすぐバレンタインッ……!!
チョコを多く貰った者が勝者、
貰えなかったものは敗者……
時代はそう変わってしまった。
今ここに、バレンタイン戦争…………
開戦!!!
――糖京高校
「いや~お前かっこいいな~!」
「いや!お前こそカッコいいって!」
「おい、そこの2人。池谷先輩の前でも同じ事言えるのか?」
「やべ………」
「いいえ!!池谷先輩が1番カッコいいです!!」
「そうだ、これからは気をつけろ」
糖京高校は総理の一言により、
イケメンばかりが集められたエリート高校。
しかし、イケメンの中にもランクはある。
今話していた2人はランクC。
ランクCとは、この高校内では最下位!!
いくらイケメンといえど、
肩身の狭い思いをしなければならない。
その上がB、Aと続く。
ちなみに、Aランクはこの高校に3人しか存在しない。
1人は《半澤 カエデ》
3年生の彼は、顔も良ければ頭もいい。
イケメンが編入される前から糖京高校にいた
超エリートだ。
しかし、ナチュラルに人を見下してしまう性格で
学校内では嫌われている。
2人目は《来栖 シュン》
唯一の1年生でのランクAである。
上級生に対してかなり攻撃的であり、
2、3年生のC、Bランクには嫌われている。
その反面、1年生の味方は多い。
そして最後の1人。
《池夜 セイヤ》
Aランクの中でもずば抜けており、
学校は彼に支配されているといっても過言ではない。
その姿を見たものは、数少ないが
そのオーラは他を圧倒するだろう。
――生徒会室
1人の男が生徒会室に入ってきた。
「池夜、また1年が馴れ合いをしていたぞ」
入室早々口を開いた男は、湖浜(コハマ)だ。
彼は池夜の幼馴染であり、右腕だ。
「またか、彼らは自分達が選ばれた人類だという事に気づいていない愚かものなんだ。私たちが教えてあげなければならない」
生徒会室に作られた玉座についているは、
最上位ランクの池夜だ。
彼は来たる日のために改革を起こそうとしていた。
「おい、湖浜。校内全員体育館に集めろ、全校集会だ」
「わかった」
『全生徒に告ぐ、直ちに体育館に集まるように。
これは池夜からの命令だ』
放送室に向かった湖浜は、
全生徒に向けて招集をかけた。
――体育館
「なあ、なんで俺たち集められたんだ?」
「俺もわかんねー」
ざわつく会場。
今回のように全校集会が行われるのは初めてだった。
各々様々な推測が頭を巡っている中、
全員が一瞬、同じタイミングで何かを感じる。
そう、池夜が来た。
圧倒的なオーラで全員が動く事も出来ないくらいに、
固まってしまった。
「やあ、諸君。わざわざ集まってもらって申し訳ない。
今回集まってもらったのは他でも無い。
君達にはこれからが何の時期か分かるか?」
全員が頭をフル回転させるが緊張で歯車がうまく回らない。
「私たちイケメンがチョコの数という暴力で、ブサイクどもを圧倒できる日!そう!!バレンタインだ!!」
彼らはバレンタインといっても楽しいイベントではない。
毎回沢山のチョコを貰い持って帰るのに苦労し、終いにはお返しを人数分用意するのはとてつもない労力を要する。
そのため、なぜ池夜がこんなにもバレンタインに躍起になっているかわからなかった。
「私たちは勝たねばならない…イケメンの誇りにかけて……」
一方その頃…
――阿保校高
「(え、俺あいつと同じぐらいブサイクなの?)」
「(あいつ俺のこと見てるけど、
もしかしてブサイクって思ってる?)」
「おい!お前ら!自信なさそうな顔をするな!
余計ブサイクになるぞ!!」
「す、すいません…(ランクBBBだ)」
「気をつけます…(何でこいつが偉そうに…)」
「分かればいいんだ!!
いい事をすると気持ちがいいなー!!」
彼は阿呆校高ランクBBBの
〈田中 太郎〉だ。
ランクBBBとはこの校高のブサイクランクである。
ブサイクランクは、B<BB<BBBの順で
ブサイクになっている。
Bランクに振り分けられた生徒は、
自分の事をブサイクだと思ってないギリギリの生徒が多いため自信を失っているものとみれる。
一方、
ランクBBBはもはや自分をブサイクだと思っていない。
しかし、側から見ればかなりのブサイク、クリーチャー。
なのに何故か自信に満ち溢れている。
振り切れると…とはまさにこの事、怖いもの無しだ。
ちなみにBBBは、田中太郎ただ1人だ。
そんな阿保校高のランクBBBの田中太郎は、
校庭に飛び出して大声で叫び出した。
「みんなー!!聞いてくれー!!」
突然校庭でBBBが大声で叫び出すと怖い。
よくその顔でその声量を出せる自信があるなと
全員が思っていた。
「もうすぐ何の時季か分かるかー!?」
ブサイクはイベントに疎い。
自分には関係ないから。
頭をフル回転させても出てこない、空っぽだ。
「バレンタインだよ!!バレンタイン!!」
生徒は全員が、よくその顔でバレンタインの話をしたなと心の中で総ツッコミ。
「俺たちは戦わなければいけない相手がいる!
だから共に戦おう!!」
何故このBBBこと田中太郎が、バレンタインに情熱を燃やしているのか……
それは遡ること2日前……
2月7日の出来事。
――聖プリンセス女子校 校門前
池夜が学校から帰る途中の出来事。
「よー!池夜!!久し振りだなー!!」
バカでかい声で名前を呼んだのは、阿呆校高の田中だ。
周囲の注目をいっぺんに集めてしまった池夜は
「お前俺に話しかけるなっていったよな??」
そう田中に詰め寄った。
「何でだよ、俺とお前中学の頃」
「黙れ!それ以上言うな!!」
田中並みの大声で池夜は制止した。
「池夜いつからそんな風になったんだよ」
「いいか?今はイケメンが正義なんだ!
だから俺はお前より偉いんだよ!!」
2人の騒ぎが起きたのは聖プリの校門前。
騒ぎを聞きつけた生徒たちが集まる。
その中の1人がまたも田中に負けない大声で叫んだ。
「うー!るー!さー!いー!!」
辺りは静けさに満ちた。
「あんた達ね!
私達の学校の前でなんて醜い争いをしてるのかしら!」
彼女は聖プリ3年、生徒会長の《西園寺 美佳》
「醜いだって……?聞き捨てならないな……!
聖プリのお嬢さんよ、俺を誰だと思ってるんだ?
日本一のイケメン学校に通い、その中でも1番な池夜だぞ」
聞いてもないのに自己紹介をする池夜だが、
西園寺には関係なかった。
「貴方こそ私の事を誰だと思ってるの?
貴方は選ばれる側なのよ」
「くっ……なんだと……」
今まで選んできた人生だった池夜は、
とてつもない屈辱を味わった。
「こんなイケメンを放っとくと言うのか?」
「ええ、少なくとも今の貴方はいらないわ。
何だったら彼のほうがいいまであるわね」
そう言って、指をさした相手は田中太郎だ。
「え、俺?なんか照れちゃうなぁ」
「本気で言ってるのか……?」
「私はいつでも本気よ」
この言葉で池夜に火がついた。
「よし分かった、こうしよう!
今から1週間後はバレンタインだ。その時までに俺の高校とあいつの高校でお前のとこの生徒にアピールする。それでどっちがチョコを多く貰ったかで勝負をつけようじゃないか」
「何を勝手な事を…」
「いつでも本気って言ったよな?」
「……いいわ、やりましょう」
「そう言う事だ、分かったな田中」
「え、まあいいか」
こうしてバレンタイン戦争の火蓋が切って落とされた。
――糖京高校
「~ということがあった。
阿呆高校に負けないために君たちの力が欲しい!」
えらく真剣に話をする池夜を初めて見た。
その眼差しには
男である生徒達も思わず引き込まれてしまった。
「よし!やるよ!」
「先輩のためなら頑張ります!!」
こうして一致団結かと思いきや、
1人の男が壇上に登ってきた。
その男は、来栖だ。
「先輩、悪いっすけど俺たち協力できないです」
「俺たち…?」
「そう、俺たち一年全員です」
「……なんだと!?」
来栖はイケメンという武器を持ちながらも、
その武器で人を攻撃することはなかった。
特にBランクの生徒の中には、同じBランクでも学年が下だという理由でパシらせたり虐めたりしている。
「それじゃ先輩、頑張ってください」
来栖は一年生全員を連れて体育館を後にした。
残された2年と3年を目の前にした池夜は絶望した。
数が3分の1になってしまえばそれだけで不利だ。
このままでは負けてしまう可能性も出てくる。
しかし、その気持ちを吹き飛ばした男がいた。
それは彼の右腕だ。
「池夜、俺たちはなんだ?」
「俺たち…?」
「俺たちはイケメンとして集められた男だろ?」
「……そうだ、俺たちはイケメンなんだ!」
「だろ?だから恐れる事はないんだ、
勝負はすでに決まっている」
この言葉にホッとした池夜の顔は自信に満ち溢れていた。
その顔を見てまた生徒達は彼に引き込まれてしまう。
「よし聞けお前らぁ!!
バレンタインはもう始まっている!!
負ける事は絶対に許されない!!
それは何故だ!!」
「「俺たちがイケメンだからです!!」」
「そうだ!!あと5日全力でいけ!!以上!!」
こうして糖京高校の士気は上がり、
各々身なりを整え出陣した。
――阿呆校高
「~という事があった!!」
校庭から勝負があった事を伝えた。
しかし、生徒の反応は薄かった。
「何やってんだあいつ」
「という事があったじゃねぇよ」
「バカだろ」
冷めた言葉が飛び交う。
「つまりは君達に協力して欲しいんだ!!」
「勝てるわけねぇだろ」
「1人でやってろよ」
「バカだろ」
誰1人として関心を示してくれず、
校庭を見る者はいなくなった。
「じゃあ俺1人で頑張ってみるよー!!
みんな応援してねー!!」
もう誰の心の声も聞こえない。
彼1人の声が校舎に跳ね返って帰ってきた。
孤独な戦いが今始まる。
――聖プリ 校門前
2月8日
突然の雨が降り出した。
「え、嘘ー!天気予報は晴れだったよね?」
「うんうん、雨降らないって言ってたから
傘持ってきてないよー」
天気予報は晴れ……なのに突然の雨……?
この時期にしては珍しいゲリラ豪雨。
「よし、順調だ。全員直ちに作戦に移れ!」
「「ラジャー!!」」
「あれ?傘持ってないの?一緒に入る?」
「俺の傘使っていいよ」
「車で送って行ってあげるよ」
これは池夜の作戦だった。
彼は糖京高校の精鋭達に雨を降らせるよう指示した。
各々独自のやり方で任務を遂行した。
詳しい事はここでは伏せておこう。
そうして降ってきた雨に困る聖プリ女子。
そこに生徒を送り込み助ける。
という好感度爆上げ作戦に打って出た。
「完璧だ……!これで勝負は決まったようなものだ!!」
ところがその願望は儚くも砕け散った。
ある1人の男によって……
「うぉっ!えー!雨降ってるじゃん!!」
阿呆校高、田中だ。
「ヤベーまじか…こりゃ踊るしかないな……」
彼は踊り出した。
タコか?イカか?蛇か?鰻か?
くねくね踊り出す彼は大声で叫んだ。
「会社の金を使うのは横領!!俺のダンスは魑魅魍魎!!」
訳がわからない。
いや、最後だけは合っているか?
しかしこれがすごい効果で、空は見る見る晴れ渡っていく。
彼は晴れ乞いをしたのだ。
「何故だ…何故晴れる…!?」
すんなり帰れるようになった聖プリ女子は、
皆、田中に一礼だけして帰っていく。
決して声はかけない、めんどくさそうだから。
これにて、初日の戦いは田中の大活躍?によって
阿呆校高の一歩リードと言ったところか?
「まだだ、まだ始まったばかりだ……」
池夜の目の炎はまだ赤く燃えていた。
翌日、池夜は2、3年生を体育館に集めた。
「諸君、前回の作戦は思わぬ形で敗北を喫してしまった……
たが、戦いは始まったばかりだ!」
「「うおおおおおおお!!!」」
日を追うごとに団結力は高まっている。
そして明日、新たな作戦が決行される……
――再び、聖プリ校門前
2月10日の出来事。
「な、何ですか……」
塀に詰め寄られる沢山の聖プリ女子……
「今だ、やれ!」
その掛け声とともに、ドンっという音が響き渡る。
これは大壁ドン作戦だと池夜はいう。
どんな女子でも、
イケメンに壁ドンされたら落ちてしまうらしい(池夜談)
「お前が好きだ」
「お前が好きだ」
「お前が……」
「お前が……」
「お……」
何故みんな同じ台詞なのだろうか……
池夜曰く、女子にはみな平等に接するべきだと言う。
いくらイケメンでも、それは気持ち悪さがある。
「お、何だこりゃ!みんなして壁に手ついてる!」
憎っくき田中の登場だ。
「ふん、これは手も足も出るまい……これで俺たちの勝ちだ」
勝利を確信した池夜に笑みがこぼれる。
しかし、それもまたすぐに流れ落ちた。
「俺も真似してみよー!」
塀に手を当てた田中……
その塀はギリギリで持ちこたえていた。
田中1人の体重がかかるその時までは…
「危ない!」
田中が大声を出した事に反応して
女子達はイケメンの脇から逃げ出す。
イケメン達は塀に体重をかけていたため、
共に崩れ落ちいく……
文字通り手を出した結果だった。
「痛ぇ……」
「何なんだよこいつ……」
士気が落ちていく池夜陣営。
「何なのこの人……」
「危なかったー……」
ドン引きする聖プリ女子。
「くそっ!何なんだよこいつは!!」
池夜は怒りに身を震わせていた。
「こいつらは役立たずだ、俺がやる……」
決戦はバレンタイン前日まで縺れる事となった。
ここで、聖プリ女子に
どちらが優勢かインタビューをしてみよう。
「えー……正直なところどっちもどっちというか…」
「糖京高校わぁ、やってる事が露骨すぎて冷めるぅ」
「阿呆校高ですか……?あまり興味ないです……」
という事で、まだまだどちらも拮抗しているようです。
そして運命の日の前日。
2月13日……
大きく戦力を失った糖京高校は危機に陥っていた。
未だ圧倒的有利な状況は作れず、池夜を悩ましていた。
「なあ、池夜。俺にいい作戦があるんだ」
右腕、湖浜が耳打ちした。
「お前は日本一のイケメンだろ?
ならお前がやればいい、お前なら出来る」
この言葉に池夜は我に返る。
「そうだ、こいつらに頼る必要はないんだ」
糖京高校最後の砦が今動き出す……
下校の時間。
聖プリ校門前に立つ池夜。
門をくぐる女子達に、池夜は最後の手段に出た。
圧倒的イケメンオーラで満たされた校門は、
通る女子達が皆、池夜の虜になってしまう。
「はっ……!池夜くん今度デートしてください……」
「池夜くんその後でいいから私も……!」
「私も~……」
「私も~……」
「全く困ったちゃんだね~……
明日のバレンタインにチョコをくれた娘には
デートしてあげるよ?」
「「キャー!!絶対作るー!!」」
勝ちを確信した池夜は拳を高く突き上げた。
「ざまあみろ……これがイケメンの力だ……」
だが、これで終わればよかった。
あいつがまたやってくる……
「何だ……この不穏な空気は……」
嫌な予感が体中を駆け巡る。
言わずもがな、田中だ……
「ねえ?田中君はどんなチョコが好きー?」
「俺か?優子が作ったのなら何でも好きだよー」
田中の横にいるのは誰だ?
「あいつは田中の彼女だ……」
池夜君が教えてくれました。
「なぜだ、なぜ俺の前に現れる!?」
みるみるイケメンオーラがなくなっていく。
「あれ、私何してたんだろ……」
「やば、帰って見たいテレビあるのに早くしないと!」
不思議な力で魅力されていた聖プリ女子は、
我に返り校門をくぐり抜けていく。
「何でここにいる……!何でだ!!」
取り乱した池夜が叫んだ。
「俺か?そりゃ学校がそこだから」
「違う!お前じゃない!!隣の優子だ!!」
「あ、池夜くん久しぶりー!私ここ通ってるの」
田中の隣にいる聖プリに通う優子とは何者なのか?
それは遡る事4年前……
中学3年生のことだ。
――中学校
「いやー、もうすぐバレンタインかー!
イケメンには困る季節だなー!」
今と変わらないのは中学生の池夜だ。
「池夜くん今年の目標はー?」
「あー!知りたいー!!」
「んー、そうだな!100個……かな?」
「「キャー!私頑張るー!!」」
ちやほやされてる池夜だが、内心ドキドキしていた。
「なあ、湖浜。優子は誰にチョコをあげるんだ?」
「俺に聞かれても困るな……直接聞けばいいじゃないか」
実は池夜は優子の事が好きだった。
昔からモテモテだったが、
自分から人を好きなったのは初めてなのだ。
「なあ、優子は誰かにチョコあげるのか?」
「んー……内緒♪」
「ちょっと池夜くん私達にも聞いてー!!」
絶対に俺に決まってる、俺より良い男はいない。
そう言い聞かせて、バレンタイン当日を迎える。
「みんな落ち着いてくれ!順番に受け取る!
(優子はどこに行った?)」
内心気が気じゃない池夜。
チョコを持つ優子の姿を見つけたがどこかへ行ってしまった…
「ちょっとどいてくれ、後で受け取る!」
校内を探しまくる池夜。
ようやく後ろ姿を見つけ声をかけようとした。
「優子!そのチョコってもしかして俺の……」
「田中くん……その……これ貰ってくれる?」
「え…お、俺でいいの?
こここんなブサイクでみんなからイジメられてるのに?」
「私、見た目より中身だから。田中くんがいいの」
「あ、ありがとう。すごい嬉しいよ」
優子が好きだったのは田中だった。
「い、池夜!?」
「池夜くん……?どうしたの?」
「何で、こいつなんだ……
こいつのどこがいいんだ……」
その日から池夜は学校に来なくなった。
みんなにはモデルの仕事が忙しく学校に来れないと伝えているが、湖浜だけは真実を知っていた。
湖浜は毎日池夜の家に行き、励まし続けたが次第に歪んでいき今の池夜が完成した。
こうした経緯があるため池夜は動揺してしまった。
時は再び聖プリ校門前に戻る。
「もう、終わりだ……」
池夜はそう呟いた。
「一個でも多く貰えれば勝ちなんだ、諦めるな池夜!」
湖浜が励ますが、池夜のメンタルはもうボロボロだった。
「早く明日が終わってくれ……」
こうしてようやく運命の日を迎える。
2月14日
「みんな、今日はしょうもないバレンタインの勝負につき合わせちゃってごめんね」
聖プリ女子達を前に西園寺は言った。
「誰にあげるかちゃんと決めたかしら??」
「「決めたよー」」
「なら行くわよ!」
――聖プリ校門前
バレンタインのチョコが配られる。
が、配られた個数は1個。
内訳は、優子から田中への1個のみ……
つまり結果は……
阿呆校高の勝利!!
はて?他の生徒のチョコはどこに行ったのか?
「ちょっとみんな!誰にあげるのよ!?」
困惑する西園寺。
「あの、私西園寺さんに受け取ってもらいたくて……」
「私も!西園寺さんに!」
「あいつなんかより西園寺さんの方がカッコいいです!」
なんと、聖プリ女子は西園寺にチョコをあげたいと……
俗に言う友チョコというものだろうか?
「みんな……そんなに私にチョコを食べさせて太らせたいのね!!」
聖プリ女子達の間に平和な時間が流れる。
「俺たちが1つもチョコを貰えなかっただと……」
糖京高校の完全敗北で終わったと思いきや、
まだ勝負は終わっていなかった。
「池夜くん、これ。義理チョコだけどね」
優子は池夜にチョコを渡した。
義理なのに、池夜は涙が溢れて止まらない。
「くそっ……!くそっ……!」
あの時貰えなかったチョコが貰えた嬉しさと、
貰えたチョコが義理だという悲しみでぐるぐるしていた。
「池夜くん、私があげるチョコはこれで最後だけど
私よりも好きになる娘が必ず出来るから!
頑張ってね、応援してるよ」
完敗だ……
その場で池夜は泣き崩れた。
「池夜、とりあえず帰ろうか」
湖浜に肩を貸してもらい池夜はその場を後にする。
その時、
「ちょっとあんた!その泣き顔ブサイクね!」
西園寺はキツめの言葉を池夜に浴びせる。
ブサイクなんて人生で初めて言われたであろう。
だが、池夜はもう返す気力もない。
「でも、それでもカッコいいと思うわ……
また、這い上がってきなさいよね!!」
池夜の心に今小さな、小さな明かりが灯る。
池夜は一人で立ち、その場を去っていった。
「んんー!!チョコうまー!!」
田中は空気が読めない。
「はー……無くなっちゃった。
また来年が楽しみだなー!」
「来年はもっと美味しいチョコ作ってあげるね!」
こうしてバレンタイン戦争は、
阿呆校高1個、糖京高校1個の引き分けに終わった……
――帰り道
「なあ、池夜これ食うか?」
湖浜が池夜にチョコを半分渡す。
「……苦っ。何だこれ」
「カカオ30パーのチョコ。美味いだろ?」
「もういいや」
「でも、これでお前は2個チョコ貰ったから実
質お前の勝ちだな」
「ふっ……そうだな……」
「俺たちイケメンに負けはないからな!」
池夜の顔に笑顔が戻った。
「なんか吹っ切れたわ!見てろよ、田中!!
お前よりいい女と付き合ってやるからなー!」
「よし!その意気だ!」
後に池夜は本当の日本一のイケメンになった。
――総理宅
総理と夫人が何やら揉めている。
「ちょっとあなた!なんて法律決めてるの!!」
「い、いや!それはその……」
「今すぐこんなくだらない法律やめなさい!!」
「わ、分かったから……」
「早くしないと晩御飯作らないからね!!」
「はい!今すぐ行ってきます!!」
「総理!緊急の会見という事ですが一体なんでしょうか?」
「イケメンとブサイクに境界線はありません!
皆平等に接するべきだ!前言撤回!
国民の皆様!共に平和な国を作りましょう!!」
「総理!何かあったんですか!!」
「突然意見が変わった理由はなんでしょうか!!」
「総理はイケメンではないという意見が多数出てましたが、それについてはどう思いますか!!」
「え!?イケメンじゃないの!?」
こうして日本はイケメン至上主義から、
万人みな平等の国へと戻り、平和が訪れた。
ここで田中から一言あるそうです。
「彼女が出来て自信がついたよ!!
つまり、自信がつけば彼女が出来る!!
頑張れみんな!ハッピーになれ!!」
雑誌の最後の広告みたいになっちゃったけど、
田中が総理になれば平和になるかもね……
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