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第六話 情報源は俺か

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「さてはお前、中身はナギだろ?」
「アラタ様はなにを仰っているのですか?」

 困惑のようなものが流れ込んでくる。認めたら負けな気がする。

「はぁ、プロトに見られるのはしょうがないか…」
「ご自分で嫌なこと思い出してしまうのと変わりません。何しろ私は『アラタ様』でもあるのですから」

 思い出す切っ掛けがプロトなのが何とも微妙なのだが… プロト、誇らしげだな。

「まぁ仕方ない。 切り替えて行こう」
「そうです、その意気ですアラタ様」
「………で、俺はこの世界で何をすればいいんだ」
「そうですね、私はナギ様から何も伺っておりませんが…」

 状況が状況だけに、転移を了承したが、俺はここで何をすればいいんだろうか。
 そう言えば、ナギは助けた理由があるとか言ってたな。イレギュラーな存在の俺がいれば良い的な。
 プロトのお陰で生きながらえたこと自体が目的なのか?

「プロト、何かあるのか?」
「では、先ずこれを…」

 ん?なんだ? プロトから何か来たぞ。

「今お伝えした感じで喋ってみてください」
『おお、言葉がなんか変だ』
「このままだとアラタ様が、“普段のトーンで独り言話すマン”として街の人気者になってしまうかと思いまして」

 “話すマン”って、また懐かしいな、オイ。 てか、なんで知ってる…って情報源は俺か。 気付かず思い出していたか…もう諦めよう。

「脳内で話すイメージで、話したい事、話さない事が分かれて私に伝わります」
『なるほどね… 街の人気者にならずに済んだよ。ありがとう』
「どういたしまして。 私はこのまま骨振動のような感じで」

 皮肉は理解できないのかな。それともスルーですかプロトさん?
 まぁ問題は色々と山積みだが、外に出てみるか。
 あれ? ここの宿代どうなってるんだ。 ナギ、大丈夫なんだよな…
 左目が僅かにチクッとした。その瞬間、左目の視野に、緑の蛍光色で背景を透過した『STAND BY』の文字が現れた。

「おいプロト! 左目が!文字が! 何だこれは!?」
「いえ、私はなにも!… 待ってください、私にも情報が…」

 プロトからの動揺が伝わってくる。左目を押さえながら蹲る。わっ左目が見えなくなった!

「アラタ様、大丈夫ですか! アラタ様!」

 急に左目の視界が明るくなる。絞りが設定されピントが合ってくるように元に戻ってきた。 かと思ったが、左視界が大変なことに。

「プロト、ヤバい。 左目に“SENSING”って文字が出た… なんか見た場所を調べてる…」

 左視界に入ったものが〇と+の図形でマーキングされている。

「…わかりました、アラタ様。 そのままサイドテーブルの方を見てください」

 俺は蹲ったまま、ベッド横のサイドテーブルを見る。椅子の背に黒い上着とバックパックが掛けてあることに気付いた。
 上着とバックパックがマーキングされ、別ウインドウが開く。ウィンドウ内には上着のポケットがクローズアップされて、

 場所:左内ポケット
 内容物:ルームキー
 組成:鉄 約83%
    クロム 約17%
    キーホルダーに不明な素材
    不明な素材の内、キーホルダー本体部分はスギに似た植物素材、
    コーティングは漆に似た樹液相当素材が使われている

 と表示された。視線を僅かにずらすと、バックパックがフォーカスされて、中にある袋がクローズアップされて、

 場所:バックパック主収納内
 内容物:当該世界貨幣
 組成:金 約78%
    銀 約22%
    エレクトロン貨に酷似
    バックパック主収納内にある、種別不明の革袋に50枚入っている
    革袋素材不明
    貨幣価値不明
    紙幣・他貨幣の存在不明

 と更に表示される。

「これは…」
「ナギ様が残したと思われる情報によると『拡張鑑定』となっています」
「拡張鑑定…」

 いくらかわからないが、とりあえずはホテルからこっそり逃げ出さなくて済みそうだ。
 そのままゆっくり立ち上がり、自分の手を見る。両手がマーキングされ、

 士丈司の指・手・手首
 一般的な、蛋白質、結合組織、生物組成
 <“一般的”に関して別ウインドウを開きますか YES/NO>

 と表示された。不思議と表示に酔わなくなり、文字もだんだん気にならなくなってきたな。

「こいつは凄いな… プロトがやってるのか?」
「私由来の能力の様ですが、先ほどまで存在すら把握できていませんでした」
「このウインドウ、プロト側でも確認できているか?」
「鑑定結果表示自体を見ることはできません。 ですが、名称や鑑定の仕様はナギ様の情報にありましたので、説明はできます」
「そうか」

 俺は、左目をメインにして部屋の内部や窓の外を見た。見ただけじゃ分からない情報が次々に表示される。どうやら、ON、OFFもできるようだ。

「しかし、鑑定か… 異世界転生らしくなってきたじゃないか」
「手放しには喜べません。 『拡張鑑定』の情報は私にも秘匿されていました。 部屋から出ようとしたのを切っ掛けに情報の開示があったことに何者かの意志を感じます。…ナギ様を疑いたくはありませんが…」
「たしかにな。 今は良い方向に働いたとしておこう。 そもそも情報が少なすぎるよ」

 椅子に掛けてあったバックパックを掴み上げ、『鑑定』に現れなかった中身を探る。 シャツや下着など着替えが3セット。俺の顔写真(いつの間に…)の付いた用途不明のIDカード的なものが2枚とパスポートのような小冊子が一つ。双方ともに顔写真がホログラムだ。 スマホのような謎デバイスが一つ。電源が入ったので後で確認だ。 あとは謎素材の革袋。マチの付いた長財布の様な四角形だ。中には500円硬貨サイズの琥珀っぽい色合いの貨幣が50枚。価値は分からないが、王様っぽいおっさんの横顔と、トカゲっぽい体にライオン風の頭が付いた謎生物の刻印がしてある。裏面にはおそらく数字だろう物が打刻されている。 あ、これは言葉を覚える必要があるな。
 俺は一緒に掛けてあった上着に袖を通す。トータルで、黒ジャケット、白シャツ、Gパン風パンツ、こげ茶ショートブーツ。 うーん、まあいいか。
 荷物を全部中に戻してバックパックを背負う。

「あー、先ずはロビーに行って、言葉が通じるかどうかだな」

 大きな溜息を吐いて扉のノブに手を掛けたところで、

「アラタ様、待ってください」
「どうしたプロト」
「今、一部機能の解放と情報の開示がありました」
「なんだ」
「私、女性格の様です」
「え それ今?」





つづく
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