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第五話 お前もか!
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急に足の方へ重力を感じた。どうやら俺は何処か、風の流れが無い場所に突っ立ってるようだ。
ゆっくり両目を開ける。
「ここは…」
ピッ「お目覚め如何ですか?」
「おおっ!」
突然、鼓膜に響くような、頭の中に直接伝わるような、奇妙な性別の分からない発声に驚く。骨振動っぽい。
少し腰を落とし、慎重に周りを見渡す。ホテルの一室だろうか。
ボリュームのあるベッドと枕、掛け布団・シーツ類は綺麗に整っている。椅子とサイドテーブルのセットが一つ。その上にラジオのようなものと、濃いグレーの硝子版に文字の書かれたもの。タブレットのようにも見える。
扉が二つ。一つは出入口だろう。窓側、ベッドの足元側壁際にクローゼットらしきものがある。
右目を隠してもう一度辺りを見回す。変化なし。両目で手を見る
「本当に治ったのか… だとすればここは…」
ピッ「アラタ様? 大丈夫ですか」
「わっ…っと、 そうか、えーと『ナンバーサーティーン』でいいのか? いや、しゃべれるのか!?」
ピッ「はいアラタ様。 私は脳機能を補うためにアラタ様と一つになりましたが、元は世界最高峰の高性能汎用人工知能です。音声会話など容易いことです」
「そ、そうなのか…でも何と云うか… プライバシー?」
いやいや、一つになるって、言い方よ。
ピッ「私の事はどうぞ『プロトサーティーン』とお呼びください」
プライバシー問題はスルーかよ! 何だ?なにこの『ドヤァ感』は…急に脳裏に浮かんできたな。
「決まったところで悪いんだが、『ナンバー』と『プロト』、あまり変わらないんじゃないか」
ピッ「そうですね。私の事は如何様にもお呼びください」
ん? なんだ、今度はちょっと恥ずかしい感じの感情が現れてきた。 これはナンバーサーティーンの感情か?
そう言えば、ナギも力説してたっけ。 『意識は条件が揃えば何にでも宿る』だっけ?。 もしかして、これは俺の影響でもあるのか?
「名前か… プロトでもいいか? なんか呼びやすいしな」
「プロト…いいですね。 ありがとうございますアラタ様」
「それは良かった…が… あー、ここに来た経緯はわかるんだが…」
俺は両目で再度周りを見渡した。 窓に近づき外を見る。ここは最上階か。大体6~7階建ての建物が立ち並び、パリの市街地の街並みに似ている。木造?コンクリート?室内の壁は漆喰の様だがわからん。
さらに遠くを見ると、10~20階はあるだろうか、近場とは違う高層建築があるエリアがあった。その中心にあるのは城か?100m以上ありそうだ。
ピッ「では、ナギ様からいただいた情報ではありますが、アラタ様に現状をお知らせいたします」
鏡を捜そうと窓際から戻ってきたところでプロトが話始める。 色々確認したいな。
ピッ「現在の場所は、転送前の地球とはかなり世界を隔する『ロームルス』という惑星になります。『ロームルス』上の最大の国『ボラベアム』の首都『エルド』です。 首都東側『コンドン』と呼ばれるエリアにある、商人御用達のミドルクラスホテルの一室にいます。 一部突出した技術は存在しますが、レベルとしては1800年代後半のヨーロッパに近いかと思われます」
「…なるほ…どね」
19世紀のヨーロッパっぽい世界に来たことは理解したが、鏡の存在が気になって仕方がない。
俺は浴室を見つけ、洗面台の鏡を見た。
「なるほどな…」
思わず同じ言葉が出た。
俺の顔、頭に左半分があった。それ以前になんか若返ってないか? ベースは間違いなく俺だ。だが20歳以上若返っているように見える。髪の色も明るいブラウンになっているし日本人なのかこれは。 身長は変わらずか。180㎝は無いな。
鏡に映った顔をぺたぺた触る。確かにある。左側。 左の瞳の色が真っ黒だ。覗き込むと、複数のレンズが重なった時に見える奥に向かった光沢が続いている。右目は鳶色。それは前と変わらないがオッドアイになったか。悪目立ちしそうだ。どうしたものか。
よくよく見ると左半分の髪色が薄いように見えるな。俺の大好きな天才外科医みたいじゃないか。これだけはちょっといいぞ。ちょい長めの荒いマッシュも気に入った。
ピッ「どうかしましたか、アラタ様。 混乱と僅かな幸福感が伝わってきます」
「いや、何でもない。 しかし、ホントに異世界なんだな…」
体も治っている。プロトもどうやらほんとに俺の左側をいるようだ。 左目の所為もあるが、なんだかモニター越しに世界を見ているような非現実感がハンパない。
ピッ「そうですね、新しい体でもありますので多少の違和感はあるかと思います。 私との融合は完璧ですので『非現実感』はすぐに解消されます」
パニックにならずに済んでいるのはプロトのお陰もあるのかね。ありがたいかぎりだな。 しかし…
「さっきからずっと気になっていたんだが、プロトはしゃべる必要ってあるか?」
ピッ「当然です」
「いや、だからな、俺の無くなった頭の左側の肩代わりをしてくれてるんだろ。脳ミソとかその辺りの機能があれば、しゃべらなくてもいいんじゃないか?」
ピッ「…アラタ様は大きな勘違いをしています」
「勘違い?」
ピッ「自然現象とされるものに【慈悲】を受けたのは、アラタ様だけではありません。 私もそのうちの一つです」
いまさらなにを言っているのやら…的な思考が湧いてくる
ピッ「確かに、私の最優先命題は『アラタ様の欠けた機能を肩代わり』することです。ですが、この近似世界で生を受けることになったのは私が故です」
「俺だけが助かるためにここに来たわけじゃないという事か…でも、俺はプロトがしゃべる事を聞いてないんだが」
ピッ「私がしゃべれる事を知っていたら、一つになることを拒みましたか」
「そういう訳じゃないが…」
だが…色々マズいだろ…この世界にもそういった店があるかわからないが、そういった状態になった時、一人のほうがいいだろ?ブラザー?
俺の頭の左半分におしゃべりな別人格がいるのが分かっていると気まずいのはそういった局面ばかりじゃない。
自分だけが何の苦も無く異世界生活ってわけにいかないのも分からなくはないが、それでも…
ピッ「私は、アラタ様と一緒に近似世界に来て一つになれたのは嬉しいですよ」
幸せ、喜び、といった感情が湧いてくる
プロト、ズルイぞ。
「わかったよ。 手術の後遺症で幻聴が聞こえるようになったと思って諦めるよ」
ピッ「ひどくありませんか、アラタ様…」
「はは、冗談だよプロト。 お前こういった軽口も理解できるのか?」
ピッ「お互いの情報は、感情の輪郭、その場の大まかな意識、などがリアルタイムで伝わります。 アラタ様という個体の意思決定に私が同調するためです。 で・す・が、何を思って、何を想っているのかまではわかりません」
「ん?怒ってるのかプロト」
ピッ「怒りなどという、指向性のみで生産性のない感情など、すでに私の制御下にあります。アラタ様に突き付けるなどありえません」
「わかったよプロト、悪かった。 でだ、俺から一つ提案なんだが、その『ピッ』って云うのをやめないか?」
プロトの機嫌が直らないような気がしたので、話の矛先を転じてみた。
ピッ「対話型コンピューターの矜持だと思っていましたが、お気に召しませんでしたか?」
「俺個人の考えだが、なんだか距離がある感じがしてな。」
…「このような感じでよろしいでしょうか、アラタ様」
「いいね。 ま、俺的には『様』も要らないんだが、やっぱ、これも『矜持』ってやつかな」
この辺は無理強いするのもなんだかね。
「私としましても『様』は譲れません。絶対条件です」
「ははは、OK。これで行こう。 改めてよろしくなプロト」
「改めまして、不束者ですがよろしくお願いいたします、アラタ様」
喜びと愛情のような物が湧き上がってくる。なんか照れ臭いな。
「しかしこの感じ、何と云うか、頭にもう一人いるって、こう、宇宙服着ているから顎が痒くても掻けない様な…」
「アラタ様、私の事は部下ができたと思えば良いのではないでしょうか。 前の世界にもいらっしゃったようですが…香乃様とおっしゃいましたか? おっぱいの」
「お前もか! ってか俺の記憶が見えるのか!!」
「はい。先ほども申しました通り、意思決定に同調するため過去の記憶の共有は不可欠です」
「おいおい…マジかよ…」
ホント忘れてたよ、考えが読まれるより、こっちの方が重要だ。 マジ、記憶はマズい…
「アラタ様、ご心配には及びません。記憶を読むのは整合性のための一過性の物です」
「そうなのか? 一瞬ってことなのか?」
「はい、アラタ様。 私には、短期記憶、長期記憶といった区別がありません。読み出した記憶は私が『アラタ様らしく振る舞う』ために使用され残ることはありません」
「ホントに?」
「はい。残しませんし残りません。共有したアラタ様の黒歴史は一瞬だからこそ意味があるのです」
「ちょ!オイ見たのか!!」
「『アラタ様らしく振る舞う』ために読み出す可能性はあります」
「ぅおおい!!」
「アラタ様次第ですね」
「頼むよプロト!!」
「アラタ様次第ですよ」
「ちょーーーー!!」
つづく
ゆっくり両目を開ける。
「ここは…」
ピッ「お目覚め如何ですか?」
「おおっ!」
突然、鼓膜に響くような、頭の中に直接伝わるような、奇妙な性別の分からない発声に驚く。骨振動っぽい。
少し腰を落とし、慎重に周りを見渡す。ホテルの一室だろうか。
ボリュームのあるベッドと枕、掛け布団・シーツ類は綺麗に整っている。椅子とサイドテーブルのセットが一つ。その上にラジオのようなものと、濃いグレーの硝子版に文字の書かれたもの。タブレットのようにも見える。
扉が二つ。一つは出入口だろう。窓側、ベッドの足元側壁際にクローゼットらしきものがある。
右目を隠してもう一度辺りを見回す。変化なし。両目で手を見る
「本当に治ったのか… だとすればここは…」
ピッ「アラタ様? 大丈夫ですか」
「わっ…っと、 そうか、えーと『ナンバーサーティーン』でいいのか? いや、しゃべれるのか!?」
ピッ「はいアラタ様。 私は脳機能を補うためにアラタ様と一つになりましたが、元は世界最高峰の高性能汎用人工知能です。音声会話など容易いことです」
「そ、そうなのか…でも何と云うか… プライバシー?」
いやいや、一つになるって、言い方よ。
ピッ「私の事はどうぞ『プロトサーティーン』とお呼びください」
プライバシー問題はスルーかよ! 何だ?なにこの『ドヤァ感』は…急に脳裏に浮かんできたな。
「決まったところで悪いんだが、『ナンバー』と『プロト』、あまり変わらないんじゃないか」
ピッ「そうですね。私の事は如何様にもお呼びください」
ん? なんだ、今度はちょっと恥ずかしい感じの感情が現れてきた。 これはナンバーサーティーンの感情か?
そう言えば、ナギも力説してたっけ。 『意識は条件が揃えば何にでも宿る』だっけ?。 もしかして、これは俺の影響でもあるのか?
「名前か… プロトでもいいか? なんか呼びやすいしな」
「プロト…いいですね。 ありがとうございますアラタ様」
「それは良かった…が… あー、ここに来た経緯はわかるんだが…」
俺は両目で再度周りを見渡した。 窓に近づき外を見る。ここは最上階か。大体6~7階建ての建物が立ち並び、パリの市街地の街並みに似ている。木造?コンクリート?室内の壁は漆喰の様だがわからん。
さらに遠くを見ると、10~20階はあるだろうか、近場とは違う高層建築があるエリアがあった。その中心にあるのは城か?100m以上ありそうだ。
ピッ「では、ナギ様からいただいた情報ではありますが、アラタ様に現状をお知らせいたします」
鏡を捜そうと窓際から戻ってきたところでプロトが話始める。 色々確認したいな。
ピッ「現在の場所は、転送前の地球とはかなり世界を隔する『ロームルス』という惑星になります。『ロームルス』上の最大の国『ボラベアム』の首都『エルド』です。 首都東側『コンドン』と呼ばれるエリアにある、商人御用達のミドルクラスホテルの一室にいます。 一部突出した技術は存在しますが、レベルとしては1800年代後半のヨーロッパに近いかと思われます」
「…なるほ…どね」
19世紀のヨーロッパっぽい世界に来たことは理解したが、鏡の存在が気になって仕方がない。
俺は浴室を見つけ、洗面台の鏡を見た。
「なるほどな…」
思わず同じ言葉が出た。
俺の顔、頭に左半分があった。それ以前になんか若返ってないか? ベースは間違いなく俺だ。だが20歳以上若返っているように見える。髪の色も明るいブラウンになっているし日本人なのかこれは。 身長は変わらずか。180㎝は無いな。
鏡に映った顔をぺたぺた触る。確かにある。左側。 左の瞳の色が真っ黒だ。覗き込むと、複数のレンズが重なった時に見える奥に向かった光沢が続いている。右目は鳶色。それは前と変わらないがオッドアイになったか。悪目立ちしそうだ。どうしたものか。
よくよく見ると左半分の髪色が薄いように見えるな。俺の大好きな天才外科医みたいじゃないか。これだけはちょっといいぞ。ちょい長めの荒いマッシュも気に入った。
ピッ「どうかしましたか、アラタ様。 混乱と僅かな幸福感が伝わってきます」
「いや、何でもない。 しかし、ホントに異世界なんだな…」
体も治っている。プロトもどうやらほんとに俺の左側をいるようだ。 左目の所為もあるが、なんだかモニター越しに世界を見ているような非現実感がハンパない。
ピッ「そうですね、新しい体でもありますので多少の違和感はあるかと思います。 私との融合は完璧ですので『非現実感』はすぐに解消されます」
パニックにならずに済んでいるのはプロトのお陰もあるのかね。ありがたいかぎりだな。 しかし…
「さっきからずっと気になっていたんだが、プロトはしゃべる必要ってあるか?」
ピッ「当然です」
「いや、だからな、俺の無くなった頭の左側の肩代わりをしてくれてるんだろ。脳ミソとかその辺りの機能があれば、しゃべらなくてもいいんじゃないか?」
ピッ「…アラタ様は大きな勘違いをしています」
「勘違い?」
ピッ「自然現象とされるものに【慈悲】を受けたのは、アラタ様だけではありません。 私もそのうちの一つです」
いまさらなにを言っているのやら…的な思考が湧いてくる
ピッ「確かに、私の最優先命題は『アラタ様の欠けた機能を肩代わり』することです。ですが、この近似世界で生を受けることになったのは私が故です」
「俺だけが助かるためにここに来たわけじゃないという事か…でも、俺はプロトがしゃべる事を聞いてないんだが」
ピッ「私がしゃべれる事を知っていたら、一つになることを拒みましたか」
「そういう訳じゃないが…」
だが…色々マズいだろ…この世界にもそういった店があるかわからないが、そういった状態になった時、一人のほうがいいだろ?ブラザー?
俺の頭の左半分におしゃべりな別人格がいるのが分かっていると気まずいのはそういった局面ばかりじゃない。
自分だけが何の苦も無く異世界生活ってわけにいかないのも分からなくはないが、それでも…
ピッ「私は、アラタ様と一緒に近似世界に来て一つになれたのは嬉しいですよ」
幸せ、喜び、といった感情が湧いてくる
プロト、ズルイぞ。
「わかったよ。 手術の後遺症で幻聴が聞こえるようになったと思って諦めるよ」
ピッ「ひどくありませんか、アラタ様…」
「はは、冗談だよプロト。 お前こういった軽口も理解できるのか?」
ピッ「お互いの情報は、感情の輪郭、その場の大まかな意識、などがリアルタイムで伝わります。 アラタ様という個体の意思決定に私が同調するためです。 で・す・が、何を思って、何を想っているのかまではわかりません」
「ん?怒ってるのかプロト」
ピッ「怒りなどという、指向性のみで生産性のない感情など、すでに私の制御下にあります。アラタ様に突き付けるなどありえません」
「わかったよプロト、悪かった。 でだ、俺から一つ提案なんだが、その『ピッ』って云うのをやめないか?」
プロトの機嫌が直らないような気がしたので、話の矛先を転じてみた。
ピッ「対話型コンピューターの矜持だと思っていましたが、お気に召しませんでしたか?」
「俺個人の考えだが、なんだか距離がある感じがしてな。」
…「このような感じでよろしいでしょうか、アラタ様」
「いいね。 ま、俺的には『様』も要らないんだが、やっぱ、これも『矜持』ってやつかな」
この辺は無理強いするのもなんだかね。
「私としましても『様』は譲れません。絶対条件です」
「ははは、OK。これで行こう。 改めてよろしくなプロト」
「改めまして、不束者ですがよろしくお願いいたします、アラタ様」
喜びと愛情のような物が湧き上がってくる。なんか照れ臭いな。
「しかしこの感じ、何と云うか、頭にもう一人いるって、こう、宇宙服着ているから顎が痒くても掻けない様な…」
「アラタ様、私の事は部下ができたと思えば良いのではないでしょうか。 前の世界にもいらっしゃったようですが…香乃様とおっしゃいましたか? おっぱいの」
「お前もか! ってか俺の記憶が見えるのか!!」
「はい。先ほども申しました通り、意思決定に同調するため過去の記憶の共有は不可欠です」
「おいおい…マジかよ…」
ホント忘れてたよ、考えが読まれるより、こっちの方が重要だ。 マジ、記憶はマズい…
「アラタ様、ご心配には及びません。記憶を読むのは整合性のための一過性の物です」
「そうなのか? 一瞬ってことなのか?」
「はい、アラタ様。 私には、短期記憶、長期記憶といった区別がありません。読み出した記憶は私が『アラタ様らしく振る舞う』ために使用され残ることはありません」
「ホントに?」
「はい。残しませんし残りません。共有したアラタ様の黒歴史は一瞬だからこそ意味があるのです」
「ちょ!オイ見たのか!!」
「『アラタ様らしく振る舞う』ために読み出す可能性はあります」
「ぅおおい!!」
「アラタ様次第ですね」
「頼むよプロト!!」
「アラタ様次第ですよ」
「ちょーーーー!!」
つづく
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