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第11章 紅姫と四黎公
3 城下町へ
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「これが妾の過去の全て。
…妾は赤子であった為覚えていないが、妾を育ててくれた者達から聞いた話だ」
そう締めくくるルリ様。けれど私は想像していた以上の過酷な内容に、言葉が出なかった。
「あんたみたいな人でも苦労してるんだな」
重苦しい空気の中レヴィ君の低い声が響く。
公の場では許されない態度も、ルリ様はくすっと笑うだけ。
「そうだな。覚えていないにしても自分がこんな経験をしているなんて聞いた時は妾もそこそこ驚いたものだ。
それよりそんな悲観的にならなくて良いぞ、エル。これは過ぎた話。妾も記憶にないのだから気にしていない。
寧ろレヴィのように友人のただの昔話と思って聞き流してくれて構わないくらいだ」
魔族とヴァンパイアの因縁を説明するにあたって、この話はしなければならなかった、とルリ様は言う。
確かにそうかもしれないけれど、レヴィ君のように気丈にはいられない。いつも感情移入してしまい、取り乱してしまう。
「私には聞き流すのは難しいですね。その瞬間をやはり想像してしまって……」
「エル様…」
「全くこの子ったら、本当に優しい子ね。でもあまり同調し過ぎちゃうのも駄目よ」
「お人好しな奴だからな。仕方ないだろう」
ルカに続いてユキ、そしてレヴィ君にまで心配される始末。アリンちゃんも口には出さないものの、こちらの様子を伺っている瞳には心配の色が滲んでいた。
おかしいな、私の方が精神的には年上のはずなのに。最近この身体の年齢に精神が引っ張られている気がする。
「重い空気にしてしまったすまないな。
ここで少し休憩としよう。クラウス」
「はい」
場の空気を変えるように元気良くそう言い、ルリ様は立ち上がると後ろに控えていたクラウスさんを見上げた。
みなまで言わずともクラウスさんには彼女の要望が分かるらしく、少しお待ち下さいと言って早々に客室を後にする。
長い時間一緒にいると相手が何を考えているのか、手に取るように分かるんだな、と二人のやり取りを見ていて感心したのだった。
その後、数分もしない内にクラウスさんがワゴンを押しながら戻って来た。
彼は私達が見守る中、手際良くテーブル上に用意した物をセッティングしていく。
テーブルの上には、お菓子等の軽食、体が温まるような飲み物と、それを注ぐカップがあっという間に人数分並べられる。
まだ朝食を済ませたばかりだと言うのに、こんなにも美味しそうなお菓子達を見ていると、恥ずかしくもお腹が今にも鳴りそうだ。
「お待たせしました。心ばかりではありますが、クッキー等の簡単なお菓子と、体も温まる紅茶をご用意しました。冷めない内に皆さん、どうぞ召し上がり下さい」
「ありがとう、クラウス。では早速頂こうか」
「ありがとうございます、クラウスさん」
気を使わせてしまったな、と思いつつもこの目の前の甘い誘惑からは逃れられなかった。
用意してくれた彼にきちんとお礼をして、いざ実食。まずは淹れたて温かな紅茶に口を付ける。
控えめだがほんのり甘さがあって飲みやすい。香りも良く、ついうっとりしてしまう。
続いてクッキーも頂いたけれど、簡単に用意されたものとは思えない程、味はしっかりとしており、甘さも丁度良くこの紅茶とも良く合い、気を付けないと食べ過ぎてしまいそうだ。
あまりにも美味しいお菓子達に、私は恥ずかしながらも頬が緩んでしまうのだった。
こんな感じで休憩中は皆食事を楽しんだり、なんでもないような談笑をしてみたり、ルリ様やユキなんかはそれぞれの国の最近の流行りの物について話したりと、楽しいひと時を過ごしたのだった。
「そろそろ話を戻しても良いか」
一時の楽しい時間もここまで。ルリ様のその一言に皆の表情が強張るのが分かった。
皆切り替えが早い。
私も手に持っていたカップをテーブルに戻すと、話し合いの態勢を取る。
「では話の続きだ。
今度はお前達の体験した事を聞かせてくれ」
「なら俺が話そう」
張りつめる空気の中、あまり積極的な方では無い筈のレヴィ君が自ら話を切り出した。
その事にやや驚きがあったけれど、今はそんな事で口を挟める空気でもない為、大人しく彼の話に耳を傾ける事にした。
レヴィ君の話には隙がなく、とても分かりやすい内容だった。
本人は淡々と事の次第を語っていたが、詳細な説明も要点がまとめられていて、余分なところはなく、私のように余計な私情と言ったものも勿論ないから、全て話終えるまでにそう時間もかからなかった。
私自身一度体験している事とは言え、こう改めて聞くと世にも恐ろしい体験をしたのだと今更ながら自覚する。
今までも何度か危険な目には合っていたが、これ程の経験をして、今こうして五体満足な状態でいる事が、まるで奇跡のようにすら思えてくる。
ましてや一貴族の令嬢が一生で経験するようなものではないだろう。
そう考えると運が良いのか悪いのか……最早分からない。
「そうか。情報感謝するぞ、レヴィ」
事の顛末を聞き終えたルリ様は、双眸に輝く紅の瞳をそっと閉じ、暫しの間、何かを考え込むように口を閉ざしてしまった。そしてまた暫くするとゆっくりと目を開け呟く。
「以前エルから聞いた話にも魔族がいたな。最早全滅したものとばかり思っていたが……。
まさかこれ程力のある魔族がまだこの世に存在来ていたとはな」
「確かに。魔族1人でも強大な力を有するというのに、他にもそんな存在がいるとしたら――それも私達と敵対する場合、人間だけではなく他種族にとってもその存在は驚異となるでしょうね」
「最悪戦争が起きる可能性もあるな」
「そんな……」
ルリ様の見解にユキとレヴィ君が、今後の起こるかもしれない可能性を口にした。
冷静に物事を見る二人も、戦争と言う言葉を聞いた瞬間、その表情が険しくなる。
二人だけではない。
この場にいる誰もがその最悪な状況を想像しただろう。口には出さないが、皆表情が暗い。
そんな想像はしたくないが、現実そうなる可能性はゼロではないのも事実。皆の反応も当たり前だ。
「ともかくこの件は妾の方でも探る。
魔族が関わっているとなれば我々も他人事では無いからな。
それに今になってその姿を現したことに何か意味があるのかもしれない。
奴らは何を企んでいるか分かったものではないからな。
ああ、それとこの件に関しては勿論他言無用で頼む。既に知っている者、知る権利がある者は除くが、下手に混乱を招くのは得策ではないからな」
そんなルリ様の申し出に、私達は顔を見合わせて頷き合う。
もしこの話が公になってしまえば混乱もそうだが、まだ目的も良く分かっていない魔族側にも話が筒抜けとなり隙が生じてしまう。そうなっては魔族の思う壺、元も子もないと言うものだ。
「姫様、では――」
「ああ、王家直属の配下、四黎公を集めこの件について話し合いを行う」
あっ、今ルリ様の言っていた四黎公って、彼女の語った幼い頃の話に出てきた、王家に次いで権力のある四大貴族の事だよね。
王家に次ぐ権力と実力を持っている吸血鬼――精鋭だ。一体どんな人達なのだろうか。
「という訳だ。今回の件はここまでにしよう。こちらで話し合わねばならない事もあるが、せっかく我が王国に来てもらったんだ。
お前達は暫くの間ゆっくりして行ってくれ。
それに二日後には祝祭があるのでな。良ければそちらも楽しんでいって欲しい」
「祝祭ですか?」
話の流れが急に変わり、彼女の口から何やら気になる単語も飛び出て、私は思わず反応してしまった。
「ああ。古い時代からの伝統行事なんだ。
祭りの日は、力合わせをする血気盛んな連中や、その日にしか振舞われない食事やダンスを楽しむ者達等様々。城下町では店も沢山出るぞ。
祝祭に合わせてここ城内も会場として開放されるからな。賑やかになるだろう。
タイミング良くも妾が先程紹介した四黎公もこの城にやって来る。
丁度良い機会だ、お前達も興味があれば彼らに会ってみると良い。
そして祝祭の最後には、毎度恒例の花火が打ち上がるのだがそれも見ものなのだ」
祝祭に花火か。何だか懐かしい気分になるな。
それに四黎公の方達も集まるなんて、ルリ様もしかしてタイミングを計ったね。
それにしてもなんと言うか…吸血鬼も人間と同じようにお祭りを楽しむんだな、何て感慨深く思ってしまったり。
「では話し合いは以上。
祝祭までの二日間お前達の好きにこの国を見てもらっても構わない。
ただ町へ出るのなら一言声は掛けてくれ」
この城も好きに見て回って良いぞ。ではまたな。そう言いルリ様はクラウスさんを伴い部屋を後にする。
去り際、クラウスさんからテーブルの上の物は後でメイドが片付けるので、そのままで結構ですよ。との事なので、まだ残っていたお菓子を少し頂く事に。
「話も終わったし、俺は部屋で休ませてもらうぞ」
「では私もそうしようかしら」
ルリ様達が退出すると、それに続いてレヴィ君とユキも席を立ち、そう言い残すと各々の部屋へと早々に戻ってしまった。
こうして残ったのは私とルカ、そしてアリンちゃんの三人。
「エル様、この後はどうされますか?お二人のようにお部屋で休まれますか?」
ルカから声が掛かり顔を上げる。と言うかルカの声を久しぶりに聞いた気がするのですが。
話し合いの間黙っていたから尚更そう思うのだろうけれど。それは未だ一言も喋ろうとしないアリンちゃんにも言えた事で。
まあ話し合いの最中は余計な口を挟まないように控える、と言うのが二人なりの気使いなのだろう。
……と思いつつアリンちゃんに関しては、そもそも元から無口なところがあったね。
「うーん、せっかくですし町に降りてみようかなと思ってます。ルリ様も言っていましたし、他国の城下町がどのような所なのか興味があります」
「エル様ならそう言うと思いましたよ。では僕もお供します。もちろんアリンも一緒に」
私の提案にルカは快く了承してくれて、アリンちゃんに関しても首を小さく縦に振ってくれた。
これで町に遊びに――ではなく様子を見に行くことが出来る。
「ではルリ様に声を掛けてから、直ぐに出発しましょう」
そうと決まれば二人を伴っていざ、アインフェルト王国の城下町へ出発!
…妾は赤子であった為覚えていないが、妾を育ててくれた者達から聞いた話だ」
そう締めくくるルリ様。けれど私は想像していた以上の過酷な内容に、言葉が出なかった。
「あんたみたいな人でも苦労してるんだな」
重苦しい空気の中レヴィ君の低い声が響く。
公の場では許されない態度も、ルリ様はくすっと笑うだけ。
「そうだな。覚えていないにしても自分がこんな経験をしているなんて聞いた時は妾もそこそこ驚いたものだ。
それよりそんな悲観的にならなくて良いぞ、エル。これは過ぎた話。妾も記憶にないのだから気にしていない。
寧ろレヴィのように友人のただの昔話と思って聞き流してくれて構わないくらいだ」
魔族とヴァンパイアの因縁を説明するにあたって、この話はしなければならなかった、とルリ様は言う。
確かにそうかもしれないけれど、レヴィ君のように気丈にはいられない。いつも感情移入してしまい、取り乱してしまう。
「私には聞き流すのは難しいですね。その瞬間をやはり想像してしまって……」
「エル様…」
「全くこの子ったら、本当に優しい子ね。でもあまり同調し過ぎちゃうのも駄目よ」
「お人好しな奴だからな。仕方ないだろう」
ルカに続いてユキ、そしてレヴィ君にまで心配される始末。アリンちゃんも口には出さないものの、こちらの様子を伺っている瞳には心配の色が滲んでいた。
おかしいな、私の方が精神的には年上のはずなのに。最近この身体の年齢に精神が引っ張られている気がする。
「重い空気にしてしまったすまないな。
ここで少し休憩としよう。クラウス」
「はい」
場の空気を変えるように元気良くそう言い、ルリ様は立ち上がると後ろに控えていたクラウスさんを見上げた。
みなまで言わずともクラウスさんには彼女の要望が分かるらしく、少しお待ち下さいと言って早々に客室を後にする。
長い時間一緒にいると相手が何を考えているのか、手に取るように分かるんだな、と二人のやり取りを見ていて感心したのだった。
その後、数分もしない内にクラウスさんがワゴンを押しながら戻って来た。
彼は私達が見守る中、手際良くテーブル上に用意した物をセッティングしていく。
テーブルの上には、お菓子等の軽食、体が温まるような飲み物と、それを注ぐカップがあっという間に人数分並べられる。
まだ朝食を済ませたばかりだと言うのに、こんなにも美味しそうなお菓子達を見ていると、恥ずかしくもお腹が今にも鳴りそうだ。
「お待たせしました。心ばかりではありますが、クッキー等の簡単なお菓子と、体も温まる紅茶をご用意しました。冷めない内に皆さん、どうぞ召し上がり下さい」
「ありがとう、クラウス。では早速頂こうか」
「ありがとうございます、クラウスさん」
気を使わせてしまったな、と思いつつもこの目の前の甘い誘惑からは逃れられなかった。
用意してくれた彼にきちんとお礼をして、いざ実食。まずは淹れたて温かな紅茶に口を付ける。
控えめだがほんのり甘さがあって飲みやすい。香りも良く、ついうっとりしてしまう。
続いてクッキーも頂いたけれど、簡単に用意されたものとは思えない程、味はしっかりとしており、甘さも丁度良くこの紅茶とも良く合い、気を付けないと食べ過ぎてしまいそうだ。
あまりにも美味しいお菓子達に、私は恥ずかしながらも頬が緩んでしまうのだった。
こんな感じで休憩中は皆食事を楽しんだり、なんでもないような談笑をしてみたり、ルリ様やユキなんかはそれぞれの国の最近の流行りの物について話したりと、楽しいひと時を過ごしたのだった。
「そろそろ話を戻しても良いか」
一時の楽しい時間もここまで。ルリ様のその一言に皆の表情が強張るのが分かった。
皆切り替えが早い。
私も手に持っていたカップをテーブルに戻すと、話し合いの態勢を取る。
「では話の続きだ。
今度はお前達の体験した事を聞かせてくれ」
「なら俺が話そう」
張りつめる空気の中、あまり積極的な方では無い筈のレヴィ君が自ら話を切り出した。
その事にやや驚きがあったけれど、今はそんな事で口を挟める空気でもない為、大人しく彼の話に耳を傾ける事にした。
レヴィ君の話には隙がなく、とても分かりやすい内容だった。
本人は淡々と事の次第を語っていたが、詳細な説明も要点がまとめられていて、余分なところはなく、私のように余計な私情と言ったものも勿論ないから、全て話終えるまでにそう時間もかからなかった。
私自身一度体験している事とは言え、こう改めて聞くと世にも恐ろしい体験をしたのだと今更ながら自覚する。
今までも何度か危険な目には合っていたが、これ程の経験をして、今こうして五体満足な状態でいる事が、まるで奇跡のようにすら思えてくる。
ましてや一貴族の令嬢が一生で経験するようなものではないだろう。
そう考えると運が良いのか悪いのか……最早分からない。
「そうか。情報感謝するぞ、レヴィ」
事の顛末を聞き終えたルリ様は、双眸に輝く紅の瞳をそっと閉じ、暫しの間、何かを考え込むように口を閉ざしてしまった。そしてまた暫くするとゆっくりと目を開け呟く。
「以前エルから聞いた話にも魔族がいたな。最早全滅したものとばかり思っていたが……。
まさかこれ程力のある魔族がまだこの世に存在来ていたとはな」
「確かに。魔族1人でも強大な力を有するというのに、他にもそんな存在がいるとしたら――それも私達と敵対する場合、人間だけではなく他種族にとってもその存在は驚異となるでしょうね」
「最悪戦争が起きる可能性もあるな」
「そんな……」
ルリ様の見解にユキとレヴィ君が、今後の起こるかもしれない可能性を口にした。
冷静に物事を見る二人も、戦争と言う言葉を聞いた瞬間、その表情が険しくなる。
二人だけではない。
この場にいる誰もがその最悪な状況を想像しただろう。口には出さないが、皆表情が暗い。
そんな想像はしたくないが、現実そうなる可能性はゼロではないのも事実。皆の反応も当たり前だ。
「ともかくこの件は妾の方でも探る。
魔族が関わっているとなれば我々も他人事では無いからな。
それに今になってその姿を現したことに何か意味があるのかもしれない。
奴らは何を企んでいるか分かったものではないからな。
ああ、それとこの件に関しては勿論他言無用で頼む。既に知っている者、知る権利がある者は除くが、下手に混乱を招くのは得策ではないからな」
そんなルリ様の申し出に、私達は顔を見合わせて頷き合う。
もしこの話が公になってしまえば混乱もそうだが、まだ目的も良く分かっていない魔族側にも話が筒抜けとなり隙が生じてしまう。そうなっては魔族の思う壺、元も子もないと言うものだ。
「姫様、では――」
「ああ、王家直属の配下、四黎公を集めこの件について話し合いを行う」
あっ、今ルリ様の言っていた四黎公って、彼女の語った幼い頃の話に出てきた、王家に次いで権力のある四大貴族の事だよね。
王家に次ぐ権力と実力を持っている吸血鬼――精鋭だ。一体どんな人達なのだろうか。
「という訳だ。今回の件はここまでにしよう。こちらで話し合わねばならない事もあるが、せっかく我が王国に来てもらったんだ。
お前達は暫くの間ゆっくりして行ってくれ。
それに二日後には祝祭があるのでな。良ければそちらも楽しんでいって欲しい」
「祝祭ですか?」
話の流れが急に変わり、彼女の口から何やら気になる単語も飛び出て、私は思わず反応してしまった。
「ああ。古い時代からの伝統行事なんだ。
祭りの日は、力合わせをする血気盛んな連中や、その日にしか振舞われない食事やダンスを楽しむ者達等様々。城下町では店も沢山出るぞ。
祝祭に合わせてここ城内も会場として開放されるからな。賑やかになるだろう。
タイミング良くも妾が先程紹介した四黎公もこの城にやって来る。
丁度良い機会だ、お前達も興味があれば彼らに会ってみると良い。
そして祝祭の最後には、毎度恒例の花火が打ち上がるのだがそれも見ものなのだ」
祝祭に花火か。何だか懐かしい気分になるな。
それに四黎公の方達も集まるなんて、ルリ様もしかしてタイミングを計ったね。
それにしてもなんと言うか…吸血鬼も人間と同じようにお祭りを楽しむんだな、何て感慨深く思ってしまったり。
「では話し合いは以上。
祝祭までの二日間お前達の好きにこの国を見てもらっても構わない。
ただ町へ出るのなら一言声は掛けてくれ」
この城も好きに見て回って良いぞ。ではまたな。そう言いルリ様はクラウスさんを伴い部屋を後にする。
去り際、クラウスさんからテーブルの上の物は後でメイドが片付けるので、そのままで結構ですよ。との事なので、まだ残っていたお菓子を少し頂く事に。
「話も終わったし、俺は部屋で休ませてもらうぞ」
「では私もそうしようかしら」
ルリ様達が退出すると、それに続いてレヴィ君とユキも席を立ち、そう言い残すと各々の部屋へと早々に戻ってしまった。
こうして残ったのは私とルカ、そしてアリンちゃんの三人。
「エル様、この後はどうされますか?お二人のようにお部屋で休まれますか?」
ルカから声が掛かり顔を上げる。と言うかルカの声を久しぶりに聞いた気がするのですが。
話し合いの間黙っていたから尚更そう思うのだろうけれど。それは未だ一言も喋ろうとしないアリンちゃんにも言えた事で。
まあ話し合いの最中は余計な口を挟まないように控える、と言うのが二人なりの気使いなのだろう。
……と思いつつアリンちゃんに関しては、そもそも元から無口なところがあったね。
「うーん、せっかくですし町に降りてみようかなと思ってます。ルリ様も言っていましたし、他国の城下町がどのような所なのか興味があります」
「エル様ならそう言うと思いましたよ。では僕もお供します。もちろんアリンも一緒に」
私の提案にルカは快く了承してくれて、アリンちゃんに関しても首を小さく縦に振ってくれた。
これで町に遊びに――ではなく様子を見に行くことが出来る。
「ではルリ様に声を掛けてから、直ぐに出発しましょう」
そうと決まれば二人を伴っていざ、アインフェルト王国の城下町へ出発!
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