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第11章 紅姫と四黎公

1 始まり

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お久しぶりです。
本日からまたまったりと物語を進めていくつもりです。
更新は遅くなりがちですが、宜しくお願いします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

side…???

人々が寝静まった頃――薄暗い邸の一室。

数本のロウソクの火が灯った一室に、明かりに照らされ人影が浮かび上がる。
顔までははっきりとしない中、その者は徐に口を開いた。


「ルリアーナ・リーリス・アインフェルト……。私は決してお前を認めない――」

まるで恨みが籠っているかのようなその声は、静まり返った一室に響き渡る。

呟かれたその人物の名は、何人たりとも決して蔑ろにしてはならない。
今の発言を誰かに聞かれでもすれば不敬とされ、最悪死罪となる可能性も十分にあるのだが、あいにくとこの場には幸か不幸か、声を上げた本人以外誰もいない。


恨みがましく零れた言葉は、フッと消えたロウソクの火と共に暗闇の中へ消えていった――。



―ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

シェルバート伯爵家の騒動から数か月――――。



「良く来てくれた。歓迎するぞ」

「こちらこそ、この度はお招きありがとうございます」


私、エルシア・シェフィールドは只今隣国、アインフェルト王国に訪れていた。



事の発端は一通の手紙。
その手紙の差出人は、アインフェルト王国女王、ルリアーナ・リーリス・アインフェルト様からで――。

その名前を見た時は何かあったのかと驚いたものだが、肝心の内容はいたってシンプルなものだった。

要約すると近々アインフェルト王国へ来てもらいたい、との事。つまりは招待されたという事で。
しかも今回招待されたのは私だけでなく、ルカ、アリンちゃん、ユキ、そしてレヴィ君。


内容はシンプルだがこの手紙には違和感がある。
ある意味の招待状と呼ばれた人物の名前以外、詳しい内容が一切書かれておらず、招待された理由もさっぱりなのだから。
ただよくよく見返せば、この招待メンバーはあのシェルバート伯爵家で起こった騒動に関与している人達、という共通点がある事に気づいたのだ。

まあ共通点と言っても姉様やテオ先輩、伯爵家の人達だって件の騒動に関与しているにも関わらず、この招待メンバーには名前の記載がなかったから、もしかしたら私の思い違い…考えすぎかもしれないけれど――。


どちらにせよ、この要領を得ない短い文章。何となく嫌な予感がする。
それに手紙に理由を書かないという事は、もしかしたら手紙ですら話せない何か重要な内容を私達に話そうとしているのかもしれない。
まあ単にサプライズと言った場合もあるが。


と言う訳で詳細な情報がない中、私達は手紙を寄越した張本人、ルリ様に会う為隣国、アリンフェルト王国へと訪れる事となったのだった。



「隣国とはいえ移動で疲れているだろう。お前達の部屋は既に用意させている。今日はもう各々ゆっくり休んでくれて構わない」

着いて早々ルリ様自ら私達の出迎えと歓迎をしてくれて、更に私達一人一人に各部屋まで用意されているときた。
確かに招待を受けた客人と言う扱いではあるけれど、そこまで気を使ってくれなくても良いのに。部屋だって一人ずつ用意するのはそこそこ大変だったんじゃ……。


まあそこは一旦置いといて、気持ちを切り替えて一番聞きたかった質問を彼女に投げかける。

「ルリ様。お気遣いはありがたいのですが、何か急ぎの件で今回私達を呼んだのではないのですか?」

前にも思ったがあの手紙の感じは詳しい事はここには書けない、と言っているようにも解釈できる。そう考えれば急を要する案件と捉えてしまってもおかしくない。
だからこそ到着早々彼女から何かしら話があるのかと身構えていたのだが――。


「まあその通りなんだが、今話を始めると長くなるのでな。この話はまた後日で良い。
それに先程も言ったが長旅で疲労が溜まっているだろう?だから日を改めた方が良いと判断したまでだ。
それにせっかく我がアインフェルト王国へと招待したんだ。初日くらいは難しい話を抜きにして、素直に歓迎されてくれ」

ルリ様にそこまで言われては従うしかない。ここは大人しく彼女の言葉に甘えよう。

「そういう事なら…。では私達も遠慮なくゆっくりさせて頂きますね」




他の皆もルリ様と軽く挨拶を交わし、更に彼女の側近であるクラウスさんも合流し、暫しの間、久しぶりの再会を大いに喜んだのだった。
クラウスさんも相変わらず礼儀正しく、そして快く私達を迎えてくれて、それににっこりと笑みを浮かべた表情はとても優しい。そんな彼に私もほっこり気分。

なんだか懐かしい感覚だな。初めてアインフェルト王国に訪れた時の事を思い出す。

学院の授業の一環で、アインフェルト王国へ初めて訪れた時の事を思い出し、懐かしい気持ちになる。
その時の情景に思いを馳せつつも、ルリ様に代わり、私達の為に用意してくれたと言う部屋にクラウスさんが案内してくれると言うので私達は彼についていくことに。

ルリ様も言っていた通り、皆移動の疲れもあったのだろう。この日は特に何をするでもなく、各々ゆっくり休む為ここで解散となったのだった。



そして翌日。

「おはよう諸君。昨日は良く眠れたか?」

手厚く豪華な朝食を目の前に各々食事を楽しんでいると、クラウスさんを伴ったルリ様が部屋に入るなり、私達の顔を見て明るく声を掛けてくる。
次いでクラウスさんからも「おはようございます。皆さん」と爽やかな挨拶をされる。

食事を取っていた他の皆も、城の主とその側近の登場に視線を送る。

皆の視線を受けながらも彼女は一人用の洗練された椅子にゆっくりと腰を下ろした。

「ルリ様、クラウスさん、おはようございます。
お陰様で昨日はとても良く眠れました。もうぐっすりです。
それに一人一人部屋まで用意して頂いて、お気遣い感謝致します」

「それは何よりだが、そんなに畏まらないでくれ。お互い堅苦しい場面もあるだろうが、このような妾とクラウスしかいない時は皆も普段通りに妾に接してほしい」

確かに少しばかり堅苦しい挨拶となってしまったが、いくら友人と言ってもルリ様は王族。
あまりにも砕けた物言いはこの場には相応しくないと思っての事だったが、どうやら彼女はそうは思っていないらしい。
凛々しい瞳の中に少しの寂しさが見て取れて、私は反省した。

彼女の言う通り、公の場ではお互い立場を弁えなくてはならないが、今は周りを気にする場面でもないし、彼女がそう望むのならばいつも通りで話せた方が私としても気持ちが楽だ。

王族と言う立場上、敬われる事はあっても親しくされる事は少ないのだろう。
オルデシア王国のアルフレッド王子然り、彼等は凛々しく強く、民を導いていく方達だが案外人一倍寂しがり屋なのかもしれない。
彼等には彼等の私達には想像もつかない苦労があるのだろう。

「分かりました。ルリ様」

「うむ。
では来て早々で悪いが妾は失礼させてもらう。
皆には食事後、クラウスと共に別室へ来て欲しい」

「もう行っちゃうんですね、残念です。でもルリ様も忙しいのでしょうし…」

「すまないなエル、後でまた会おう。では皆食事の時間をゆっくり楽しんでくれ。
クラウス、後で皆を別室へ案内してくれ。頼んだぞ」

最後の方はクラウスさんに向けて声を掛ける。いつもの凛々しい紅の瞳に彼を映して。

「畏まりました」

「では妾は一度失礼する」

クラウスさんが頷くのを確認すると、彼女は踵を返しこの部屋から出て行ったのだった。



別室で待っていると言う事は、私がずっと気になっていた手紙では話せない内容について、ついに話して貰えるという事だろう。
良い話でない事はほぼ確定。何となく想像も付く。

…何だか緊張して来た。

その後、変に緊張しながらも出された朝食は有難く全て平らげたのだった。


「ではお食事も済みましたので、姫様の元へご案内します。どうぞこちらへ」

朝食後、私達が案内されたのは食事を取っていた部屋からそう遠くはない客室だった。

部屋は一見シンプルだが、置かれている調度品はどれも一級品物ばかりの洗練された一室で、中央には来客用に机とそれを囲うように大きめのソファが置かれていた。

「良く来てくれたな。待っていたぞ」

部屋には既にルリ様の姿があり、一人掛けの椅子に腰を落ち着けている。

彼女は立ち尽くす私達にそれぞれ開いている椅子に座るよう促す。
三人掛けのソファと一人掛けの椅子が二脚ずつあり、三人掛けソファに私、ルカ、向かいの三人掛けソファにユキ、レヴィ君、一人掛けの椅子にアリンちゃん、そしてその向かいの椅子にルリ様、彼女の後ろにクラウスさんが控えると言った形に落ち着く。

皆が座るのを見計らい、真剣な眼差しを私達に向けたルリ様は、スラリと伸びた足を組むと「さて、では本題に入ろうか」とその口を開いた――。
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