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第10章 アマビリスの乙女

27 アマビリスの乙女

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一日早いですがメリークリスマス!

投稿期間が結構空いてしまいましたが、これにて第10章 アマビリスの乙女 完結です。
今年はこの話が最後の投稿となります。

次の章に行くまでにまた期間が空いてしまうとは思いますが、これからもゆるりと投稿が出来ればなと思っていますので、この先もお付き合いいただければ幸いです。

今年もお読みいただきありがとうございました。また来年も宜しくお願いします。

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シェルバート伯爵家での騒動から数日。
私達は特別に与えられた療養という名の休暇を終え、無事学院生活に戻っていた。

療養とは名ばかりで、別にたいした怪我をしたわけでもなく、まあ戦闘を行ったときは心身共にボロボロだったけれど、掠り傷程度で済んでいるわけで、周りが心配して大袈裟に言っているだけなのだ。

とはいえ、ここ数日ゆっくりと過ごせたのは良かった。
私は寧ろ元気な方だし、何なら私よりも姉様やフランさん、レヴィ君、テオ先輩達こそ、この機会にゆっくりと療養してほしいものだ。


そういえばフランさん、今では既に心身共に回復していて、ちらりとしか見ていないが学院にも通常通り通っている。顔色も良く元気そうにしていたから本当に良かった。
それに彼の隣には同じく元気になった姉様がいるし、笑い合う二人を見ていると安心感がある。
それに妹として見て来たから分かる。姉様のあの表情は、心からの笑顔なんだって。
あんな安心しきった姉様いつぶりに見ただろう。二人が幸せそうで本当に何よりだ。


そういえば後から聞いた話、フランさんにかけられていたベラ先輩の魅了魔法だが、魔法の効果はしっかりと発揮されていて、それは私も直接この目で見たので分かってはいるのだが、どうやら普通の人の精神ならとっくに理性を失い、彼女の操り人形となっていただろうとの事で。

そんな恐ろしい魔法を施されていたにも関わらず、フランさんは何度か自我を取り戻している。
それはつまり彼の意思が魔法の効果以上に強かったという事になるのだが。

それって裏を返せば姉様への想いが強くて、魔法にも打ち勝ってしまったとも言えるのでは?
これは愛?愛だよね?……愛って偉大だな。なんてね。



あ、そうそう、今回の騒動の原因と言っても過言ではない、ある意味捕獲に成功した瘴気の塊だけど、今は氷漬けになっていて、その状態のまま王宮の方へと引き渡され厳重に隔離されているらしい。

瘴気の件は既に国王陛下を筆頭に、騎士団や父様達が秘密裏に動いており、更には変に騒ぎを起こし混乱させない為、この事はごく一部の人間のみしか知らされていない、極秘情報となったのだった。
当然、今回騒動に関与した私達にも、他言無用にと通達が来ている。

そして隔離されている瘴気はというと、現在王宮の魔法士達が研究を行っており、その他、父様達精鋭部隊が魔族の足取りを調査する流れになったのだった。
どちら共に重要な役目なだけあって、両者に緊張が走る。


ちなみに精鋭部隊とは、戦闘において腕に自信のある者、なおかつ国王陛下直々に実力を認められ指名された人達の集まりで、その中にはレヴィ君の兄、ルドルフさん、そして父であるローレンス侯爵が所属する王国騎士団等も含まれている。

そんな選りすぐりされた精鋭の中、父様も一員としてしれっといるのが普通に凄い。
馬鹿にしているつもりはないけど、普段邸にいるときの父様しか見た事がない私から言わせれば、変な気持ちになるのも仕方ないだろう。あまりにも普段の過保護な父様からはイメージがかけ離れているのだから。
とはいえ、国王陛下と親しく話している姿(本当に親しいわけだけど)を見ているから、それだけの信頼も陛下からされているのも確かで、やはりそれだけ凄い人なんだって改めて思い知らされる。

ここ数日邸にはいるものの、いつも以上に忙しそうにしている父様を何度か見かける。

そんな多忙な中でも、合間合間を縫って、療養中だった私と姉様の様子を見に顔を出していたのだから、凄いのか親馬鹿なのか分からなくなる。
でも今回は自分でもやりすぎたと深く反省している。
母様だって外見は穏やかに見えたけど、きっと凄く心配させてしまっただろうし。ルカは……全く感情を包み隠さず、沢山のお説教をされたけど……。
その上、母様まで怒らせたらとんでもない。収拾つかなくなるよ……。気を付けよう。

ともあれ皆が無事で本当に良かった。

今だ謹慎中のベラ先輩ともその内、謹慎期間が終われば会えるだろうし。



ただ一つになっている事が。
ベラ先輩の言っていた、‘‘商人‘‘と呼ばれていた存在。
実はここ数日その人物を捜索しているのだが、一向にその人物に繋がる手掛かりはなく、未だ行方不明なのだそう。

本当に不思議だ。魔法士が探しても手掛かりさえ掴めないなんて、そんな事があり得るのだろうか?

ふとそこで考える。騒動の黒幕は恐らく魔族だが、先輩の言う‘‘商人‘‘も只者ではない。少なくともただの商人ではないのだろうと。
そしてこれはあくまで仮説だが、この‘‘商人‘‘、魔族だったのではないか?といったもので。

伝説上の存在、そして私達の前に現れ、驚異的な力を知らしめた上位種族。
そんな魔族が商人に成りすますなど、造作もないはずだ。
もしもそうだとすれば、魔法士が死力を尽くしても商人を見つけられないのにも納得がいくと言うもの。

まあ、あくまで仮説だから、証拠もないしこれ以上は分からないが。
不安は残るが、一応脅威は去ったと見て言い、のか…?



それより今日は私、いや学院中の大ニュースがあったのだ。一難去って気が緩んでいる自覚はあるが、正直こちらの方が大事といって良い。


なんと、ついにフランさんが姉様に想いを告げたのだ。
告白である。めでたい話だ。

詳しい話はまだ聞いていないものの、フランさんから告白をしたのだと噂で知り、私としてはそれだけで自分の事のように嬉しく思い、天にも昇る気持ちだったのを今でも覚えている。

だって姉様の答えなんてもう分かりきっているのだから。


その告白を目撃した生徒によれば、物静かでクールなイメージだったフランさんが、珍しく頬を赤く染め、それでも意を決した様子で姉様に想いを告げた。そんな彼を最初はぽかんと聞いていた姉様だったが、一拍後には彼と同じように頬を赤く染め、照れて恥ずかしそうに俯いてしまう――――が、しかし彼女は徐に顔を上げて告げた――――。

その瞬間、周囲の人間は皆彼女に魅了された。
この記憶を目撃した人は忘れないだろう。

春に咲いた満開の花のように美しい笑みを湛えた、一途に一人の想い人を見つめる、恋する乙女がそこにはいたのだと。
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