幸せな人生を目指して

える

文字の大きさ
上 下
220 / 227
第10章 アマビリスの乙女

25 戦いの果て

しおりを挟む
なんてタイミング!
この土壇場でウルが登場となれば一気に形勢逆転出来る…!

「ウル!」

「ええ、分かっているわ、エルちゃん!」

この場に彼女がいるのなら、やる事は一つ。
私のやろうとしている事にウルも気づいている様子だし、今度こそ一気に方を付ける。

「全く…。俺がサポートする。気にせず行け」

「レヴィ君……。ありがとうございます!」

その声に振り返ると、ニヤリと悪戯な笑みを浮かべるレヴィ君がいて。

でもサポートをレヴィ君が担ってくれるなんて、何て頼もしい事だろうか。
これで彼の言う通り、本当に周りを気にせずに戦いに集中出来ると言うもの。



役者は揃った。もうこの争いも幕引きの時間。


「姉様、フランさん!一度下がって下さい。
それと私が合図を送ったら、もう一度先程の魔法で攻撃をお願いします!」

私は前方にいる二人に駆け寄りながらも出来るだけ簡潔に指示、もといお願いをした。

「分かったわ」

「了解した」

二人は不思議そうな顔をするが、それでも何も言わずに直ぐに了承してくれて。
状況が状況なだけに、詳しく説明をしている暇もない為、二人の判断の速さ聡明さにはいつも助けられていた。

…今回も助かりました。いつも説明もなしに無茶ばかり言ってごめんなさい…。



『では行きますよ、ウル』

『ええ。準備万端いつでも大丈夫よ、エルちゃん』


ウルは精霊だ。
レヴィ君の時とは変わり姉様達、特にフランさんに配慮して、今その輝かしい姿はなりを潜め、彼に気づかれないよう気を遣ってくれている。
この際役立つのが、今行った周りには聞こえないように会話ができる念話のようなもの。

…今更ながらこの念話でお互いに会話が出来るのは本当に便利だよね。合図も出来るし。


思わずウルとの念話の便利性に感心していると、その彼女が静かに告げる。

『――鎮まりなさい、人々に仇をなす者よ』

ウルは小さな両手を天に掲げる。

するとまるで天からの恵みと言わんばかりの眩い光が、宙に留まっていた瘴気目掛けて、さんさんと降り注いでいく。


あれは浄化の光。瘴気とは反する力。瘴気に対抗するのに一番効果のある浄化の力だ。

何度も言うがウルは光の上位精霊なのだ。
その幼い容姿でついその事を忘れそうになるが、秘めた力は強大であり、通常の精霊よりも力の強い精霊だ。

…しかしこの威力、もしかして今までずっと力を溜めに溜め、温存してくれていたのかも?


凄い力という事は分かるが眩し過ぎて直視出来ない。それはこの場にいる全員も同じようで。
フランさんに至ってはいきなりの事過ぎて、一体何が起こっているのかも理解出来ていないだろうし。

…更に混乱させてしまって申し訳ない。

説明する暇がなかったとは言え、そう思わずにはいられなかった。




時間が経つにつれ、徐々に浄化の光が淡く、そして最後には空気に解けて消えて行く。
そうして残ったものは、先程の瘴気の塊の半分程の大きさになってしまった弱々しい瘴気だけ。

ウルの浄化を受けても尚、その形を保っている事には驚いたが、しかしそれ程にこの瘴気も恨みや怒りと言った、負のオーラが凝縮されたものなのだろうという事は察しがつく。

ただもう瘴気にはこちらを攻撃するだけの力は残っていないはずだ。

「姉様、フランさん、今です!」

打ち合わせ通り私は二人に合図を送った。それを受け取り二人が一歩前に踊り出る。


その後は怒涛の展開だった。

先程と同じくフランさんが炎での先制攻撃をし、次いで姉様が氷結魔法を繰り出し、今度こそ瘴気の塊を全て凍らせる事に成功。凍り付いた瘴気は力を失いそのまま地面に落下し、周囲に散っていた小さな瘴気までもが空気中に分散して行き、やがては影も形もなく消失していったのだった。


瘴気の力が尽き、その場には待ち焦がれた静寂が訪れる。


「やった…、やりましたよ!姉様!フランさん!レヴィ君!」

漸く我に返った私は衝動のままに叫ぶ。色々な感情が入り乱れながら。

「終わった、のね。漸く……」

「そのようだね…」

安堵からか、ふっと力が抜けてしまった姉様と、それを支えるように肩を抱くフランさん。

「はあ、やっと終わったな。まあ最後は俺の力がなくても何とかなったようだが」

レヴィ君だけは相変わらず平常運転のようで。


『ウルも、来てくれて、力を貸してくれて、本当にありがとうございました』

皆に聞こえないように心の中でひっそりと、今回の功労者でもある彼女にも感謝の意を惜しみなく告げる。

『うふふ。エルちゃんの役に立てて光栄だわ』

未だ姿は見えないものの楽し気な、しかし大人びたような返事が返ってきて、その時緊張していた肩の力がふっと抜けるのをふと感じたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...