幸せな人生を目指して

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第10章 アマビリスの乙女

20 決意…アメリアside

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「テオ君…」

「アメリアさん、気を抜かないで下さい。彼女は本気です」

「ええ…ごめんなさい。助かったわ」

テオ君の叱咤でまた目が覚めた。不意打ちとは言え今のは危なかったし、気を抜いた私も悪い。
私は拳を握りしめてテオ君の隣に並び立つ。

女だとか令嬢だとか貴族だとか、そんなものは今は関係ない。
いつまでも守られているだけの自分なんてまっぴらだ。
守るはずの存在である妹にまで気を使わせて、どこまで情けないのだろう。

私の好きになった人だって強い人で。
強いと言うのは何も物理的な話だけではなく、思いやりや優しさと言った内面の事も含んでいて。
彼はその両方とも持っているのに、けれど力を不用意に使わない人で、私にはそれがとても格好良く映っていて。
だから好きになった。


先日この場所に訪れた時、最後彼は私の声に反応を示してくれた。
目が合ったのか危うい反応だったけれど、私には分かる。あれは私の呼びかけに答えようとしてくれていたのだと。
結局のところ会話は出来ないままだが、もしも話が出来ていたとしたら、きっと彼は私を案じてくれた事だろう。そう思う。
優しい彼の事だから、きっと一番に心配したに違いない。
そんなものもう守られているのと同じだ。

今まで私は彼に守られてきた。でも今は違う。今度は貴方を私が守ってみせるから。

もう気持ちは揺らがない。


ベラの攻撃はまだ続く。
彼女から目を逸らさずに、いつでも対応できるよう、動けるように魔力を体中に巡らせていき体勢を整える。
不意打ちだろうと今度は防ぐ。

「ねえベラ。貴方は私が気に入らないのよね?
分かったわベラ。なら私が相手になってあげる。
だから恨み言なんて言っていないで、堂々と向かってきなさい!そしてこの私を倒してみなさい!」

魔力を全身に行き渡らせたタイミングで、胸を張って彼女に堂々とそう宣言する。
彼女が私に向かって来ると言うのなら受けて立つ。逃がさない。

「本当に腹立たしい女!一体何様なのよっ!!」

「何様?そんなつもりはないけれど、良いわ。良く聞きなさい、ベラ。
私はフランの事が好きで、どうしようもないくらいに大好きで仕方がない、貴方と同じただの学生、ただの恋する一人の女よ!」

気持ちが高ぶり隠していた想いが口からぽろぽろと零れる。興奮している自覚はあったが、それでも私の口から言葉は止まらなかった。寧ろ言いたい事が言えてスッキリした。

「良いわ…そこまで言うのなら、もう容赦しないわよ!アメリアッ!!」

最初から容赦してない癖に良く言うわ。でもこれで良い。ベラ、貴方はこちらに釘付けにされていれば良いのよ。
フランにはこれ以上触れさせない。

「全く仕方のない人達ですね……。
サポートしますよ、アメリアさん」

些か呆れつつ、それでもテオ君はそう言い、私とベラの激しい喧嘩にちゃっかりと参加して来るのだった。
……いや、巻き込んだと言った方が正しいような。

勝手に巻き込まれた形にも関わらず、冷静なところは如何にも彼らしい。

寛容な態度を見せるテオ君に感謝し、怒り心頭に私しかその目に映していないベラが、こちらに向かって来るのを見据え、それを迎え撃つように私も彼女に向かって走り出す。


何も考え無しに向かっている訳ではなく。ちゃんと私にも考えがある。ベラを大人しくさせる方法が。
ただ今私がいるこの部屋の中では難しく、それに何よりもフランもいるのだ。ベラの出方によっては危険だ。
こちらも全力で魔法が使えない。

そこで私のとった行動は一つ――。

「覚悟しなさい!アメリアッ!」

目の前に迫ったベラが両手を私に向けて突き出す。既に魔力が掌に集まっており、今にも攻撃を放とうとしている。
それでも、この状況で私は笑って言ってやった。

「それはこちらのセリフよ、ベラ」

私が言った瞬間、ベラから魔法が放たれる。

「覚悟しなさい!ベラッ!!」

だが――、私はその攻撃を魔法で防ぐ、のではなく、最小限に体を動かす事で攻撃をギリギリで躱し、素早くベラの懐に飛び込んだ。

――狙い通り!位置もぴったりだわっ!

勢いに任せ、私は体当たり同然にベラに抱き着いた。

「……なっ!」

その一連の行動が瞬きの間の事で、息巻いていたベラだが、流石に驚き一瞬その動きが鈍くなる。

しかしこれが私の狙いだった――!

「――っ!」

目先には大きく開け放たれたままの窓。
最初にベラが攻撃魔法を放った時、風圧で乱暴に開いたまま、そのまま放置されていた窓。その場所へと私はベラを力の限り押しやる。

「…ま、まさか…!」

「気づいたようね。そのまさかよ!」

私の目論見に気づき、さっと表情を青褪めさせて震えた声を出すベラ。けれどもう遅い。


次の瞬間、私の目に映ったものは広々とした屋敷の外。
既に私達の体は、何の支えもない空中へと放り出されていた――。


「ヴィントホーゼッ!!」

悠長に考える間もなく、迫ってくる地面を目にし私は咄嗟に呪文を叫んだ。
唱えた瞬間、下から強烈な風が巻き起こり、息が出来ない程強い風圧となって、私達二人に訪れるはずだった落下の衝撃から防いでくれる。

些か乱暴ではあったものの、何とか地面に降り立つ事に成功し、私はふぅ、と安堵の息を吐く。
しかしそれとは対照的に、顔面を真っ青にしたままのベラは、その場にぺたんと座り込んだままで。
その姿にほんの少しだけ同情してしまう。


それにしてもあの状況で、ぶっつけ本番も良いところなのに上手くいった。
何と言ってもあの魔法、ヴィントホーゼは通常、攻撃魔法として使用するものであり、更に言えば巨大竜巻を起こす魔法である為、攻撃は攻撃でも広範囲を想定した扱いの難しい魔法である。
それを人の体を落下の衝撃から守る為、に使用するなんて想定外も良い所。
一歩間違えていたら落下の衝撃だけではなく、竜巻で更なる被害を出すところだったのだから。

……冷静になって考えると、今のは後先考えない行動だったわよね。これは後でお説教コースかしら……?

そう思いつつも後悔はないのが本音。
ただ無茶をしたとは思っているので、もう二度と同じ事をするつもりはないけれど。




さて――。

「ベラ、こんな無茶なやり方をした事は私も申し訳ないと思っているわ。けれど貴方も貴方よ。
広範囲の魔法を室内で放とうだなんて、それも周りの人も巻き添えにしようとしたのだからね。
全く、下手をしたら建物ごと崩壊していたところよ」

地面で今は項垂れているベラに私はそう声を掛けた。するとそれに反応したように、ゆらりと彼女は立ち上がる。そうしてゆっくりと上げられた顔には憤怒の表情。やる気満々に私をねめつける目と目が合った。

全くもって喜怒哀楽が激しい子ね。

「その目はまだやる気ね」

彼女の怒りを私は真正面から受け止める。

今は室内ではなく屋外。それも周りには障害となるものが存在しない、完全に開けている場所。
ここでなら全力でお互いが魔法を繰り出しても、さほど被害、問題はないはずだ。

更に言えばフランの部屋にはテオ君と伯爵がいる。二人がいてくれれば、フランもスレインさんも守ってくれる。

ここでなら心置きなく喧嘩の続きが出来る。


「さあ決着を付けましょうか、ベラ」

大きく深呼吸をすると、私は静かに呟いた。
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