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第10章 アマビリスの乙女

6 デート大作戦…アメリアside

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私アメリア・シェフィールドには好きな人がいる。

その事に気が付いたのは本当に最近で、寧ろ気づかせてもらったと言った方が正しいのかもしれない。

目に入れても可愛い妹のエルに言われなければ気づけなかったし、この気持ちに気づいてからは自分でも驚く程世界が変わったと言っても過言ではない。
ただ私としたことが気持ちを自覚してからと言うのもの、彼を前にすると今まで通りに話せなくなってしまう事態になり、それが私を更に焦らせた。
しまいにはエルにまで心配され、私が上手くいくようにとあらゆる作戦まで考えてくれている。

エルには申し訳なく思っているけれど、それと同時に舞い上がっている自分もいて…。そんな自分の気持ちと葛藤する日々。
だから罰が当たったのかもしれない。


それは数日前に起こった学院でのある出来事。



私が思いを寄せる彼の名前はフラン・シェルバート。伯爵家の次男で人当たりの良い好青年。
学院でクラスが一緒だけれど、実は今までのクラス替えでも何度か同じクラスにはなった事があったし、話した事もあった。
ただ今までは彼の事をそう言う風には見ていなくて、正直思い返してみても好きになった瞬間がいつだったのか自分でも分からないのだ。
エルに気づかされたくらいなのだから相当に鈍感だったのだと合わせて今更思い知らされ、何とも言えない気持ちになったけれど。

そして話は戻りその出来事が起こった日。
私とフランは教室で少し話をしていて、途中私は他にもやらなければならない用事があった為に少しその場を離れた。そして用が終わり教室へ戻ってくると、何やらそこかしこからざわざわとした声が聞こえてくる。それを不思議に思いつつも教室へ入ると驚きの光景が目に入り込んできた。

明らかにこのクラスの生徒ではない他クラスの女子生徒が三人、フランの周りに侍り付いていたのだ。
しかもその中の一人、ベラと言う女子生徒があろう事かフランの腕に自分の腕を絡めているのを見てしまい、その瞬間私は完全に思考が停止してしまう。
それからはもうどうやって自分の席に戻ったのかも分からないくらい混乱してしまって、終始放心状態となっていた。

授業中もずっとあの光景が蘇ってきて……。

一体何の目的で?どうして?ベラも彼の事が好きなの?

そんな疑問ばかりが生まれては頭を抱えた。

しかも寄りにもよって彼女が…と、気持ちもどん底に沈み最悪な気分となる。


彼女――ベラとはあまり話した事はなかったけれど、どういった人物なのかは周りから話を聞いていて知っている。
それに学院だけではなく貴族間でも良く彼女の話は聞くのだ。しかもそのほとんど良い意味ではなく悪い意味で、だ。


結局その日は授業の内容なんて一つも頭に入らないまま放課後となり、気持ちも沈んだまま家路についたのだった。


けれどその出来事があってからだ。エルが今まで以上に気合を入れて私の為に色々動こうとしてくれたのは。
後から聞いた話、あの出来事があった日、エルは私のクラスに来ていたらしく運悪くもあの光景を見てしまっていたようで、あの後とても心配されてしまったのだった。
最愛の妹を不安にさせるなんて、と自分が情けなくなる。


けれどエルのお陰もあり、その日以降、これと言ってベラ達の接触もなく、無事今日を迎えられたのだから感謝しなければならない。私とフランの二人きりの時間をつくってくれた事に。

それに可愛い可愛い私の妹のエルが一生懸命考えてくれたのだと思うと、尚更嬉しく思う。

やっぱり私の妹は天才だわ!


そんな訳で今日一日は存分に楽しもうと気持ちを切り替えたのだった。



そして待ち合わせ場所に集まれば、思わず私の目は彼に釘付けとなってしまった。

普段から学院の制服姿しか見ていないせいもあるのだろうけれど、フランの私服がとても新鮮で格好良く見える。

…素敵だわ。と心の中で素直な感想を抱く。

「すまない。待たせたかな?」

「だ、大丈夫よ。私も今来たところだから」

彼に声を掛けられて私は慌てて見惚れていた事を笑って誤魔化し、普段通りを装った。

…私の服装、変じゃないわよね……?

それから変なところはないかと、自分の今日の服装も再度チェック。

「それなら良かった。
それにしてもアメリアも私服なんだな。まあ今日は学院に行くわけでもないし当然と言えば当然か」

「そうね。お互い制服以外で会うのは初めてね。何だか新鮮だわ」

「何というか…少し気恥ずかしいけど。
…アメリアは今日は、その…一段と綺麗、だな。着ているドレスも似合っているな」

ふとフランがそんな言葉を零す。しかもその頬を朱に染めながら。その言葉に私が内心舞い上がっている事も露知らず。
手で口を押さえていなければ嬉しすぎて叫んでいた事だろう。

落ち着いて私。取り乱しては駄目よ。

必死に自分にそう言い聞かせて心を落ち着かせるのが大変。


「ありがとう。
そう言うフランも素敵よ。格好良いわ」

「ありがとう。
…そ、それじゃあ早速行こうか」

「ええ」

内心溢れそうになる気持ちを抑えている私とは対照的に、照れくさそうに顔を背けるフラン。
そんな彼を可笑しく思いながらも同時に愛おしくも思う私は、もう彼の虜なのだと改めて実感する。

照れ隠しなのか一向に私を見ようとしない彼。けれどその歩く歩幅はゆっくりで、私に合わせてくれているのだと直ぐに分かった。
そんなフランに私は心の中で、優しいのにどこか不器用な人なのね、と思わず笑ってしまうのだった。
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