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第10章 アマビリスの乙女
4 ライバル
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課外授業最終日。
私の言葉で勇気づけられたのか、あれから姉様は積極的に彼へとアタックしているようで、緊張した面持ちながらも彼に近づこうと頑張っていたし、姉様のそんな姿に、私もほっこりとした気持ちで見守っていた。
そして今日が課外での授業最終日。
あれ程緊張して目を見られないと言っていた姉様だが、今では彼の方を見てちゃんと会話もしているし、周りから見ても非常に仲が良く親しいのだと思われる程に距離も縮まり、この短期間で驚くくらいの成長を見せていた。
姉様もだけど、彼――フランさんも満更でもなさそうなのがまた良くて、これはこのままゴールインもあり得るかもしれない。
どうかこのまま何事もなく事が進んでくれたら……。
そう思っていた矢先の事だった。
無事課外授業が終わり学院へと戻って来て数日経ったある日。
最近は日課と化している【姉様の様子をユキと一緒に見に行こう】の時の出来事だった。
いつも通り二人で教室を覗いたのだがそこで私達は信じられない光景を目にする。
なんとフランさんに寄り添うようにして体をくっつけ明らかに好意を示している女子生徒一人と、更に二人の女子生徒が周りの邪魔をさせない為にか、二人を取り囲むようにして立っていたのだった。
それだけでも卒倒しそうになったが、更に良く見てみると、密着しているその女子生徒はあろうことか、フランさんの腕に自身の腕を絡めており、その事に私は信じられないものを見たと二度見してしまった。
思わずユキに視線を投げると流石の彼女も驚愕しており、目を細めると囁くように言った。
「なんて恥知らずなのかしら」
ユキなりの怒りや失望、そして姉様を想っての様々な感情がポツリと零されたその一言から感じ取れる。
私も同じ気持ちを抱えながらもまずは姉様を、と彼女を探す。が探すほどの事でもなく、姉様は教室の後方、自身の席に座っておりそこから彼らの様子を見ていた。それはもうここからでも分かるくらいに悲し気な眼差しで。
…一体何なのこの状況は?
あんなにあからさまな態度、下手をしたら学院中に知れ渡ってしまうかもしれない。
何せこの学院には貴族の子息令嬢が大勢通っているのだから。
今だって女子生徒の大胆な行動にクラスの生徒達はどうしていいか分からない、と言った顔をしているのだ。変な噂が流れてしまうのも時間の問題かもしれない。
それに彼女達は誰なのだろう?
この教室には何度も足を運んでいるが、彼女達のような生徒を見た事がない為、恐らくは他クラスの生徒なのだろうが、それにしてもやる事が強引でタガが外れているのは間違いない。
ただ幸い、と言っても良いのか分からないが、どうやらフランさんはこの事態を良く思っていないようだった。
彼女達に囲まれたフランさんは眉を顰めており、酷く迷惑そうにし、それを隠すことなく顔に出していたから。
それには周りの生徒や恐らく姉様も気付いているみたいだが、それにすら気付いていないのが件の三人の女子生徒達だった。
特に彼に密着している女子生徒は自分に相当の自信があるのか、出せるだけの色気を出しつつ、これでもかと上目遣いで可愛さを猛アピールしていて、その魂胆がまる分かりだった。
確かに傍から見れば彼女の顔は大人っぽく整った顔をしているのだろう。そしてあまり言いたくないがとても豊富な胸をこれでもかと強調しているのが実に腹立た――ゴホン、目に毒だ。
赤い口元に笑みを浮かべ、勝ち誇ったかのような顔。あれは人によっては癪に障るだろうと思われる。
「ユキ、あれって……」
「はぁ…。典型的なタイプね」
私達は顔を見合わせると深い溜息を吐いた。
それと同時に私はまるで漫画や小説を見ているかのような錯覚を覚えた。
あれはまさに物語で出てくる恋のライバル。主人公を良く思わない悪役令嬢そのものではないか。
しかもそれなりに行動や態度で何を考えているのか分かりやすい典型的なライバルタイプであり、単純にフランさんの事が好きなのか、はたまた姉様を気に入らないと嫌がらせをしているだけなのかどうか。
はっきりとは分からないにしても厄介そうなのは変わらない。
これはまた作戦を考えないと、そう思った時だった。
温厚なフランさんとて流石にこの距離感には思うところがあったのだろう。
絡んでいた女子生徒の腕から抜け出し離れると、彼女達を嫌悪の眼差しで見つめ返す。
それに対し彼女達は彼の突然の行動に一瞬驚いた様子を見せるが、直ぐに口元にはまたあの色っぽい笑みが浮かぶ。
「そんな顔をしては良い男が台無しよ。
でも残念。今回はここまでかしら?
また今度ゆっくりお話ししましょうね、フラン」
更にその様子から反省の色は一切感じず、それどころか捨て台詞まで残し取り巻きの二人と共に教室を後にしたのだった。
やはり他クラスの生徒だったのだ。それが態々他クラスの教室にまで押しかけて来て、それにいくら先生がいなかったと言っても、公衆の面前で見せつけるかのようなあんな……。
流石にどうかしている。節度もなければ恥じらいもない。少なくとも生徒の模範となるべき最上級生としての行いではない。
学院の中では貴族、平民関係なく平等だが、一歩外に出れば世の中はやはり貴族社会。
彼女達も今回の行動は別に、所作や言葉遣いからして貴族の令嬢だろう事は分かる。それなら尚の事、軽率な行動をしてはならないはずなのだ。
本当にどういうつもりなのか。
ああいったタイプは何をしてくるか分からないし。
とりあえず彼女達の行動には目を見張っておくとして。警戒しているに越した事はないのだから。
先日までのウキウキとした浮かれた気持ちを消し去り、姉様の為に新たな作戦を考える為私は思考を巡らせるのだった。
私の言葉で勇気づけられたのか、あれから姉様は積極的に彼へとアタックしているようで、緊張した面持ちながらも彼に近づこうと頑張っていたし、姉様のそんな姿に、私もほっこりとした気持ちで見守っていた。
そして今日が課外での授業最終日。
あれ程緊張して目を見られないと言っていた姉様だが、今では彼の方を見てちゃんと会話もしているし、周りから見ても非常に仲が良く親しいのだと思われる程に距離も縮まり、この短期間で驚くくらいの成長を見せていた。
姉様もだけど、彼――フランさんも満更でもなさそうなのがまた良くて、これはこのままゴールインもあり得るかもしれない。
どうかこのまま何事もなく事が進んでくれたら……。
そう思っていた矢先の事だった。
無事課外授業が終わり学院へと戻って来て数日経ったある日。
最近は日課と化している【姉様の様子をユキと一緒に見に行こう】の時の出来事だった。
いつも通り二人で教室を覗いたのだがそこで私達は信じられない光景を目にする。
なんとフランさんに寄り添うようにして体をくっつけ明らかに好意を示している女子生徒一人と、更に二人の女子生徒が周りの邪魔をさせない為にか、二人を取り囲むようにして立っていたのだった。
それだけでも卒倒しそうになったが、更に良く見てみると、密着しているその女子生徒はあろうことか、フランさんの腕に自身の腕を絡めており、その事に私は信じられないものを見たと二度見してしまった。
思わずユキに視線を投げると流石の彼女も驚愕しており、目を細めると囁くように言った。
「なんて恥知らずなのかしら」
ユキなりの怒りや失望、そして姉様を想っての様々な感情がポツリと零されたその一言から感じ取れる。
私も同じ気持ちを抱えながらもまずは姉様を、と彼女を探す。が探すほどの事でもなく、姉様は教室の後方、自身の席に座っておりそこから彼らの様子を見ていた。それはもうここからでも分かるくらいに悲し気な眼差しで。
…一体何なのこの状況は?
あんなにあからさまな態度、下手をしたら学院中に知れ渡ってしまうかもしれない。
何せこの学院には貴族の子息令嬢が大勢通っているのだから。
今だって女子生徒の大胆な行動にクラスの生徒達はどうしていいか分からない、と言った顔をしているのだ。変な噂が流れてしまうのも時間の問題かもしれない。
それに彼女達は誰なのだろう?
この教室には何度も足を運んでいるが、彼女達のような生徒を見た事がない為、恐らくは他クラスの生徒なのだろうが、それにしてもやる事が強引でタガが外れているのは間違いない。
ただ幸い、と言っても良いのか分からないが、どうやらフランさんはこの事態を良く思っていないようだった。
彼女達に囲まれたフランさんは眉を顰めており、酷く迷惑そうにし、それを隠すことなく顔に出していたから。
それには周りの生徒や恐らく姉様も気付いているみたいだが、それにすら気付いていないのが件の三人の女子生徒達だった。
特に彼に密着している女子生徒は自分に相当の自信があるのか、出せるだけの色気を出しつつ、これでもかと上目遣いで可愛さを猛アピールしていて、その魂胆がまる分かりだった。
確かに傍から見れば彼女の顔は大人っぽく整った顔をしているのだろう。そしてあまり言いたくないがとても豊富な胸をこれでもかと強調しているのが実に腹立た――ゴホン、目に毒だ。
赤い口元に笑みを浮かべ、勝ち誇ったかのような顔。あれは人によっては癪に障るだろうと思われる。
「ユキ、あれって……」
「はぁ…。典型的なタイプね」
私達は顔を見合わせると深い溜息を吐いた。
それと同時に私はまるで漫画や小説を見ているかのような錯覚を覚えた。
あれはまさに物語で出てくる恋のライバル。主人公を良く思わない悪役令嬢そのものではないか。
しかもそれなりに行動や態度で何を考えているのか分かりやすい典型的なライバルタイプであり、単純にフランさんの事が好きなのか、はたまた姉様を気に入らないと嫌がらせをしているだけなのかどうか。
はっきりとは分からないにしても厄介そうなのは変わらない。
これはまた作戦を考えないと、そう思った時だった。
温厚なフランさんとて流石にこの距離感には思うところがあったのだろう。
絡んでいた女子生徒の腕から抜け出し離れると、彼女達を嫌悪の眼差しで見つめ返す。
それに対し彼女達は彼の突然の行動に一瞬驚いた様子を見せるが、直ぐに口元にはまたあの色っぽい笑みが浮かぶ。
「そんな顔をしては良い男が台無しよ。
でも残念。今回はここまでかしら?
また今度ゆっくりお話ししましょうね、フラン」
更にその様子から反省の色は一切感じず、それどころか捨て台詞まで残し取り巻きの二人と共に教室を後にしたのだった。
やはり他クラスの生徒だったのだ。それが態々他クラスの教室にまで押しかけて来て、それにいくら先生がいなかったと言っても、公衆の面前で見せつけるかのようなあんな……。
流石にどうかしている。節度もなければ恥じらいもない。少なくとも生徒の模範となるべき最上級生としての行いではない。
学院の中では貴族、平民関係なく平等だが、一歩外に出れば世の中はやはり貴族社会。
彼女達も今回の行動は別に、所作や言葉遣いからして貴族の令嬢だろう事は分かる。それなら尚の事、軽率な行動をしてはならないはずなのだ。
本当にどういうつもりなのか。
ああいったタイプは何をしてくるか分からないし。
とりあえず彼女達の行動には目を見張っておくとして。警戒しているに越した事はないのだから。
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