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第10章 アマビリスの乙女
3 チャンス到来
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「ユキ、これはチャンス到来ですよね!」
「そうね。上手くいけばの話だけど」
「きっと上手くいきますよ!私が頑張りますから」
「どこからその自信が来るのかしらね」
「おい、お前ら何こそこそしてるんだ?」
ユキと二人で内緒話をしていたところ、それを見つけたらしいレヴィ君に声を掛けられる。顔を上げると、訝し気な顔をしたレヴィ君と目が合って私は苦笑した。ユキは相変わらずどこ吹く風と言わんばかりだったけれど。
「えーっと…、実はですね――」
迷ったもののそれも一瞬で、ここまで来たらもうレヴィ君にも協力してもらおうと前向きに考える事にし、私は今抱えている問題を彼に話す事にした。
雲一つなく澄みきった空が広がるあくる日。
私達は学院で一年に数回開催される課外授業で、とある小さな町に訪れていた。
しかも今回、私達だけではなく六年生も一緒の合同授業となっている為、タイミングがあれば姉様とも直接話が出来ると言う何とも運の良い状況なのだった。
何と言う偶然か、このタイミングで六年生との合同課外授業とは天が味方したからなのか。
授業は勿論遊びではないのでしっかりと受けなければならないが、どちらにしろこれは姉様とそのお相手の距離をぐっと近づける大チャンスと言っても過言ではない。
この機を逃す訳には行かないと、私も更に気合が入るのだった。
今回私達が課外授業で訪れたのはオルデシア王国内にあるリーテンと言う町。
学院からもそこまで遠くなく、馬車を使えば半日もしない内に着く程の距離に位置している。
リーテンは地図で見ればさほど大きな町とは言えないのだが、実際に目にしてみるとそうでもなく、王都の街と同じくらいの賑わいを見せており、治安もそれなりに良く、観光地としても有名な場所だった。その為、観光の為に態々訪れる人達も多い。
しかも海に面してもいるので、これも観光客が訪れる理由の一つなのだろう。
そんな観光地と化しているリーテンに今私も訪れていると言う訳で。
それに今回の課外授業は何と日帰りではなく、数日間の滞在をする予定となっていた。
更に嬉しい事に授業を終えれば自由時間も設けられるという事で、生徒達は真面目に授業を受けつつも、内心自由時間を心待ちにしており、それは私も同じく、姉様の為とは思いつつも折角初めて訪れた町である為、家族にお土産を買っていきたいなとも思っている。とはいえやはり姉様の動向もちょくちょく気になってしまうのだが。
授業中も六年生と合同だから視界の端に姉様と、その隣にフランさんが並んでいるのがちらちら見えてしまい、そちらに意識が持っていかれる度レヴィ君に小言を言われる始末で。
そう言えば授業内容だが、前世で私が経験した社会科見学と同じようなもので、実際その場に赴き様子を見学したり、時には仕事を体験させてもらったりして、自身が実際に体験する事で見聞を広めよう、と言う目的があるのだが、今回の課外授業もそんな感じ。
小さな町でもこうして栄えており、観光地となっているリーテン。その町を様々な角度から見て、そしてそれぞれグループに別れて仕事を体験をさせてもらったりする、と言うのが授業の主な内容だった。
私は他の人よりかは結構色々な国に行ったり(そのほとんどが騒動に巻き込まれてだけど)している方だと思うけれど、実際仕事体験をするなんて事はないので、今回は良い体験が出来たと思っているし、単純に楽しかった。
そんなこんなで一日目が終わりその翌日。
早々に授業が終わり、暫しの休憩時間に姉様と話す機会があって、ちょうど良かったので今の進捗を聞いてみる事にした。
「姉様、フランさんとはあれからどうですか?」
「そうね…、私が変に意識してしまっているからでしょうけれど、やっぱり緊張してしまって中々ゆっくり話せていないのよね。私の方が耐えられなくて視線を逸らしてしまうし…。はあ…駄目ね、本当に」
活発で笑顔を絶やす事のない姉様の曇った顔を見ると、こちらまで胸が苦しくなってくる。
ここまで元気がなく消沈した姉様を見るは初めてで、しかしそれだけ彼に対する想いが強く、本気なのが良く伝わってくるから下手に変な事は言えないのが歯がゆい。
でもだからこそ私も微力ながらも力になりたいと思うのだった。
私は姉様の両手を自身の両手で包み込む。
「姉様、自信を持ってください。姉様はとても魅力的ですし、私なんかよりもとても素敵な女性です。
もしも私が姉様の妹でなかったとしてもそう思うのですから本当です。
それに姉様が好きになった方でしょう?きっと姉様の事をちゃんと見ていてくれますよ。
それに私が見るにフランさんは少なからず姉様の事を見ていると思いますよ?」
だから大丈夫と、自信を持ってと、伝わるように両手をギュッと握る。
「好きな人に対して緊張してしまうのは当たり前ですし、目だって逸らしちゃいますよ。でも姉様は前向きに頑張ろうとしていますし、それはとても素敵な事だと思います。そんな姉様だからこそ、私も心から応援したいと思うのですよ」
勇気づける意味も込めて私は姉様に言葉を紡ぐ。私の気持ちも伝わるように。今私が言った事は建前でも身内贔屓でもなく私の本心だという事を。
姉様の心の不安を全て晴れさせる事は難しいかもしれない。それでも私の言葉で一歩でも踏み出す勇気が出るように、背中を押せれば良い。そう願って。
「そうね。上手くいけばの話だけど」
「きっと上手くいきますよ!私が頑張りますから」
「どこからその自信が来るのかしらね」
「おい、お前ら何こそこそしてるんだ?」
ユキと二人で内緒話をしていたところ、それを見つけたらしいレヴィ君に声を掛けられる。顔を上げると、訝し気な顔をしたレヴィ君と目が合って私は苦笑した。ユキは相変わらずどこ吹く風と言わんばかりだったけれど。
「えーっと…、実はですね――」
迷ったもののそれも一瞬で、ここまで来たらもうレヴィ君にも協力してもらおうと前向きに考える事にし、私は今抱えている問題を彼に話す事にした。
雲一つなく澄みきった空が広がるあくる日。
私達は学院で一年に数回開催される課外授業で、とある小さな町に訪れていた。
しかも今回、私達だけではなく六年生も一緒の合同授業となっている為、タイミングがあれば姉様とも直接話が出来ると言う何とも運の良い状況なのだった。
何と言う偶然か、このタイミングで六年生との合同課外授業とは天が味方したからなのか。
授業は勿論遊びではないのでしっかりと受けなければならないが、どちらにしろこれは姉様とそのお相手の距離をぐっと近づける大チャンスと言っても過言ではない。
この機を逃す訳には行かないと、私も更に気合が入るのだった。
今回私達が課外授業で訪れたのはオルデシア王国内にあるリーテンと言う町。
学院からもそこまで遠くなく、馬車を使えば半日もしない内に着く程の距離に位置している。
リーテンは地図で見ればさほど大きな町とは言えないのだが、実際に目にしてみるとそうでもなく、王都の街と同じくらいの賑わいを見せており、治安もそれなりに良く、観光地としても有名な場所だった。その為、観光の為に態々訪れる人達も多い。
しかも海に面してもいるので、これも観光客が訪れる理由の一つなのだろう。
そんな観光地と化しているリーテンに今私も訪れていると言う訳で。
それに今回の課外授業は何と日帰りではなく、数日間の滞在をする予定となっていた。
更に嬉しい事に授業を終えれば自由時間も設けられるという事で、生徒達は真面目に授業を受けつつも、内心自由時間を心待ちにしており、それは私も同じく、姉様の為とは思いつつも折角初めて訪れた町である為、家族にお土産を買っていきたいなとも思っている。とはいえやはり姉様の動向もちょくちょく気になってしまうのだが。
授業中も六年生と合同だから視界の端に姉様と、その隣にフランさんが並んでいるのがちらちら見えてしまい、そちらに意識が持っていかれる度レヴィ君に小言を言われる始末で。
そう言えば授業内容だが、前世で私が経験した社会科見学と同じようなもので、実際その場に赴き様子を見学したり、時には仕事を体験させてもらったりして、自身が実際に体験する事で見聞を広めよう、と言う目的があるのだが、今回の課外授業もそんな感じ。
小さな町でもこうして栄えており、観光地となっているリーテン。その町を様々な角度から見て、そしてそれぞれグループに別れて仕事を体験をさせてもらったりする、と言うのが授業の主な内容だった。
私は他の人よりかは結構色々な国に行ったり(そのほとんどが騒動に巻き込まれてだけど)している方だと思うけれど、実際仕事体験をするなんて事はないので、今回は良い体験が出来たと思っているし、単純に楽しかった。
そんなこんなで一日目が終わりその翌日。
早々に授業が終わり、暫しの休憩時間に姉様と話す機会があって、ちょうど良かったので今の進捗を聞いてみる事にした。
「姉様、フランさんとはあれからどうですか?」
「そうね…、私が変に意識してしまっているからでしょうけれど、やっぱり緊張してしまって中々ゆっくり話せていないのよね。私の方が耐えられなくて視線を逸らしてしまうし…。はあ…駄目ね、本当に」
活発で笑顔を絶やす事のない姉様の曇った顔を見ると、こちらまで胸が苦しくなってくる。
ここまで元気がなく消沈した姉様を見るは初めてで、しかしそれだけ彼に対する想いが強く、本気なのが良く伝わってくるから下手に変な事は言えないのが歯がゆい。
でもだからこそ私も微力ながらも力になりたいと思うのだった。
私は姉様の両手を自身の両手で包み込む。
「姉様、自信を持ってください。姉様はとても魅力的ですし、私なんかよりもとても素敵な女性です。
もしも私が姉様の妹でなかったとしてもそう思うのですから本当です。
それに姉様が好きになった方でしょう?きっと姉様の事をちゃんと見ていてくれますよ。
それに私が見るにフランさんは少なからず姉様の事を見ていると思いますよ?」
だから大丈夫と、自信を持ってと、伝わるように両手をギュッと握る。
「好きな人に対して緊張してしまうのは当たり前ですし、目だって逸らしちゃいますよ。でも姉様は前向きに頑張ろうとしていますし、それはとても素敵な事だと思います。そんな姉様だからこそ、私も心から応援したいと思うのですよ」
勇気づける意味も込めて私は姉様に言葉を紡ぐ。私の気持ちも伝わるように。今私が言った事は建前でも身内贔屓でもなく私の本心だという事を。
姉様の心の不安を全て晴れさせる事は難しいかもしれない。それでも私の言葉で一歩でも踏み出す勇気が出るように、背中を押せれば良い。そう願って。
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