幸せな人生を目指して

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第10章 アマビリスの乙女

1 乙女の悩み

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魔族騒動から数か月。
時間があっという間に過ぎ、けれど私としては平和な日常を送れていた頃。

とは言えこの平和な日常に戻るまでには少しばかり苦労をしたもので…。

何があったか説明すると――。

事情があったにしても何かと授業を休んでいたのだ。その分他の生徒と差が出来るし、それに成績優秀で特に問題はない、何てうまい話は流石にないのだ。

という事で私とレヴィ君は学院側から期日までに終える事を条件として、少し多めの課題が与えられ、その条件を何とかクリアする事で今までの成績を維持したと言っても過言ではなかった。
少し多めにとか言っているが、そんな甘いものではなかった、とだけ言っておこう…。

それと先に言っておくと、勿論家柄や権力を縦にしてはいないし、しっかりと自身の実力で課題はクリアした。

…ただちょっと泣きそうになっただけで、ね。

でもそういった誰にでも平等な対応をしてくれる事は本当に有難い。

貴族至上主義が根付いている国が残念ながらまだあると言うのが現状だからだ。

だからこそ学院の誰にでも平等精神は生徒だけでなく、その親や保護者にまで好評で、そこから信用、信頼が大いに左右されている事だろう。
今では誰もが入学を希望するほど、オルデシア王国屈指の魔法学院と言われるまでになっているが、実際学院へ入学してみて、私もそう言われる理由を日々身をもって感じているのだ。


と、まあともかく魔族の一件から大きな騒動もなく、平和な日常を送っていた私なんだけど、そんな折にまた新たな出来事が舞い込んでくる。

それは私の姉、アメリア姉様からの一言から始まる。

「エル、ちょっといいかしら」

「姉様、どうしたんですか?」

姉様は今年学院の最上級生、六年生であり、年も十五歳となり卒業までもう一年とないところまで来ているのだが、そんな姉様は私が言うのもなんだけどお年頃の女の子であり、そっち方面の話に花咲かせる事も珍しくない。

そんなお年頃の姉様からある日相談をされたのだ。その内容は精神年齢十八歳の私からしたら、何とも可愛らしい相談なんだろう、と思ってしまうもので。


いつも笑顔を絶やさない姉様が困った表情で、更に周りに聞こえないようにか声を潜めて言うので、最初は一体何事なのか、と思わず心配したものだ。

「実はね――」

私の心配を知ってか知らずか、姉様はほんのり顔を赤くして、ゆっくりと事の次第を話してくれた。


話を聞き終えた私は自分の思っていた心配事とは全くの無縁であった事に安堵し、姉様に気づかれないようにほっと息を吐き出した。


姉様の話を要約すると、最近同じクラスメイトのある男の子が気になっているらしく、意識し出した途端、自分でも彼とどう接したら良いのか、今までどう接していたのか分からなくなってしまったとの事。
何でも今では顔を合わせるだけで胸が高鳴ってしまい、余裕がなくなってしまうのだとか。

珍しく言葉を詰まらせながらも、懸命に話しをしてくれる姉様は何とも可愛らしくて。
思わず頬が緩みそうになるのを、姉様は真剣に話してくれているのだから、と何度も心の中で呪文のように唱える事で何とか耐えた。

そして内容を聞き終えた私は(正直聞き始めてから直ぐに分かったが)、姉様の悩みの種の正体がまさしくアレだという事に行きつく。誰もが一度は経験するアレ。

「なるほど。姉様、それはですね。きっと恋ですよ。姉様はその男の子の事が好きなんですよ」

「――っ!」

遠回しにしたところでと思い直球で伝えると、衝撃波でも食らったのかな?とでもいうように姉様は目を見開き、体も硬直してしまったかのように動かなくなってしまった。

え…そ、そんなに驚く事なのかな…?もしかして姉様、自分が恋をしているって気づいていなかった…?

姉様のその様子に打って変わって私の方が不安に駆られる始末だった。


その後、これは私だけでは事足りないかもしれないと判断し、動揺を隠しきれずあたふたする姉様を連れて、私よりも経験豊富である母様のところへと二人で向かったのだった。

乙女の恋愛相談となるとやはり経験がある母様の方が適任だと思うし、良い答えも聞けるのでは?と思った次第だ。


「そうなのね。アメリアにもついに好きな男の子が現れたのね。母として嬉しい限りだわ」

私が放心状態の姉様に代わって相談内容を話し終えると、それを聞いた母様は優雅な仕草で頬に手を添え、姉様とは対照的な心底嬉しそうな笑みを浮かべる。それはもう嬉しさ全開と言っているような無邪気な笑みで。
我が母ながら神々しいな……。

そして姉様はと言えば、母様に言われて漸く我に返ったのか、放心状態だった顔が徐々に赤くなっていき、最終的には熟れたリンゴのように真っ赤になっていた。

その様子に私はつい、姉様、その顔はアウトです…と、心の中で突っ込んでしまった。

こんな美少女が不意にいつもとは違う表情をしたら、一体何人の人を(男女問わず)釘付けにするか分かったものではない。
大げさに見えてこれが全然大げさでないところが本当に困る。
実際、その美貌だけでなく性格や学院の成績などからも、姉様は周囲の生徒達から一目置かれている存在なのだ。
それは憧れや羨望、尊敬、愛慕等も中には含まれている事だろう。
侯爵家の令嬢でありながら必要以上に着飾らず、持ち前の親しみやすい笑みで誰にでも対等に接するのが彼女であり、そんな彼女に惹かれない人なんていない。

中には正反対の感情を抱く人もいなくはないのだろうが姉様の事だ。難なく返り討ちにしてしまうのが目に浮かぶ。


「それで貴方が気になっているその男の子はどんな子なの?貴方が良ければ私達にも聞かせてくれないかしら?」

無理強いはしないと言う体で母様が優しく問いかける。
母様は嬉しい反面、娘が困っているのなら全力で助けたいとも思っているはずだ。それが母と言うものなのだろうから。

私達が見守る中、姉様は口をパクパクさせたり、もじもじしていたが、その内決心したように口を開いた。

「えっと、彼はね――」

話を聞いている間も顔を赤くしたり、そわそわしたりと落ち着かない様子の姉様。それでも一生懸命話す彼女の姿は私にはとても微笑ましく映ったのだった。
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