幸せな人生を目指して

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第9章 愁いのロストフラグメント

18 疲労困憊の脱出

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今回はいつもより短めになりました。

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どれ程走り続けたか。
体感では何時間も経っている気がするけれど、現実では数分かもしれない時間。走り続けた結果、光射す先方を見ればようやく神殿の出口が見えてくる。
建物が崩壊を始めているこの状況で、出口が塞がれていなかった事には心底安堵したものの、それももう時間の問題。

とにかく出口が塞がれてしまう前に私達は外へと急いだのだった。


そして外へと出ると、日は大分傾いて暗くなり始めてはいたものの、それ以外は私達が神殿に入っていった時と変わらない、瓦礫が散乱し廃墟と化した町が広がっているだけだった。

……出られた……。

そう思った直後、背後の建物がタイミングを見計らったかのように大きな音をたてて倒壊していき、瓦礫やら埃やらが容赦なくこちらに飛んでくる。
だがそれらが私達に届く前に、ウルの張った防御により防がれ、新たな傷を負う事はなかった。
とは言え自身を見下ろせば服はボロボロで、服から出ている腕や足には擦り傷など見られ、髪も乱れてしまっていた。隣に佇むルカも同じく、この場で無傷なのは防御で守ってくれたウルだけだった。

と、一通り思いを巡らせたところで、はっと私は更に周りに視線を向ける。

そして少し離れた場所に二つの影を確認し、その姿を捉えるとホッとし肩の力をゆっくりと抜いた。

……二人共、良かった。

気を抜くと今にも崩れそうな自身の足を叱咤して、私はその二人の傍へと足を向ける。その際ルカに制される事はなく、それを良しとしてゆっくりと近づいていくと、二人の内一人が私に気づき、こちらに顔を上げるとふんわりと微笑んだ。
それに私もつられて頬が緩むのを感じたのだった。

「ご無事で良かったです。ルドルフさん。それに――」

私はそっとその人に声を掛ける。
そして彼――ルドルフさんから視線を映しもう一人の人物を見つめる。ルドルフさんが大事そうにその腕に抱えているレヴィ君に。

「レヴィ君…」

意識はないが見たところ大きなけがなどはしていない。気を失っているだけのようだった。

そしてルドルフさんも大きな怪我は見られず、私達のように擦り傷などはあったが命に別状はなさそう。それを確認した私はそっと胸を撫で下ろした。

あれだけの戦いをしてこの怪我で済んでいるのは奇跡といえるだろう。

それに今はこうして眠っているレヴィ君も、完全に魔法が解けた訳ではないが、魔族が去った事により状態が少し安定しているようだ。

魔族の真の目的は未だ謎だが、今回はどうやらあの箱に封じられていた水晶が目的のようだったから、それを達成した魔族は用なしとばかりにレヴィ君を切り捨てたのだろう。

魔族は彼をただの駒としか見ていないようだったし……。

何とも腹立たしい話だけど、でもそれが幸か不幸かレヴィ君は今こうしてここにいるのも事実。
連れ戻せたのは良かったと思うけれど、だからと言ってあの魔族の少年を許すわけにはいかないが。

ただその思いは今は頭の片隅に押しやって。

「失礼します」

私はレヴィ君の傍に膝を付き、片手を彼の胸の上に翳す。
そして一応断りを入れてから魔法発動させる。ちょっとした傷や体力を回復させる程度の簡単な治癒を施したのだった。一時的な応急処置でしかないけれどしないよりは良いだろうから。

それに彼は長い時間拘束されていたようなもので、体を動かしていたのも魔族の魔法であって、彼の意思ではない。それに体だけではなく精神にも相当の負荷をかけていたはずで、それも問題だ。
だから早く屋敷戻り療養を受けさせなければならなかった。


「エルシア嬢、レヴィは……」

「今出来る限りの治癒を施しました。命に別状はありません。
ですが、直ぐにでも戻って安静にさせないと。治癒を施したとはいえ、まだ魔族の魔法は完全には消えていませんから。それに命に別状はないと言っても彼の目が覚めるまで油断は出来ませんし」

心配そうに私とレヴィ君を交互に見つめるルドルフさんに私はゆっくりそう話し、それから彼の首元へと視線を向ける。
そこには薄くなっているものの、未だに魔族の少年が施した精神魔法を施した跡が残っていた。
これを完全に消さない限り、レヴィ君が目覚める事はないだろう。
時間はかかるだろうけれど、消し去る方法は分かっているから何としてでも助けなければ。

そう思い、ひっそりと気合を入れる。


目が覚めたら彼は何て言うだろう?何て無茶してるんだって怒るかな?
でもそんないつも通りのレヴィ君を早く見たい。
感謝はされなくても良いから、いつもの彼に早く戻ってほしい。唯々元気な姿を見せて。


数日離れただけなのに、レヴィ君との何気ない日々が今は凄く恋しいと感じた。


眠る彼の顔を見つめていると様々な感情が溢れてくる。けれど自然と溢れそうになる雫だけは、今は零すまいと私はぐっと堪えたのだった。
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